2021年1月27日 10:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2021年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年12月22日
定価:本体2000円+税
ペタバイト時代のストレージ技術
今は“データを捨てない”時代である。画像・動画やドキュメントなどの非構造化データを多量に抱えるようになり、AI・IoTやアナリティクスのような先進的な技術を積極的に採り入れるようになった。またサーバーやセキュリティシステムが発する膨大なログも、システムの安定的で安全な利用のために保管し続けることが望ましいとされている。すでにPB(ペタバイト)級のデータを保有する企業が増えており、業界によっては100PBを超える組織もあるという。中小規模の組織・ビジネスでも、先端技術の活用を進めれば数年内にPB級に達する可能性は高い。
膨大なデータを旧来のブロックストレージ技術で扱うのは力不足である。非構造化データも効率よく管理でき、データの増大に合わせて柔軟かつスピーディにスケールアウトし、障害などトラブルにも強い堅牢な技術として「オブジェクトストレージ」が適している。PB級のデータを保有している組織の多くは、あたりまえのようにオブジェクトストレージを活用している。
当初のオブジェクトストレージは、巨大なデータを安価に格納できるがアクセスは遅く、どちらかと言えばデータアーカイブやバックアップに活用される技術であった。しかし、オブジェクトストレージ技術自身の発展や高速なフラッシュストレージ技術の普及などにより、高いパフォーマンスを発揮するようになり、サービスに合わせて多様な用途で活躍するようになった。PB時代の重要なストレージ技術として、広く普及していくことが期待されている。
データ保管だけでない 多様なサービスに適応するHyperStore
クラウディアンの「Cloudian HyperStore」は、数あるオブジェクトストレージの中でも特に評価が高い製品である。調査会社の最新レポートでは、アーカイブやバックアップはもちろん、アナリティクスやクラウドストレージなどの多様なサービスでトップレベルの能力を発揮するとされている。
実際、顧客のデータを抱えるサービスプロバイダー、巨大なサプライチェーンを管理する製造・流通、機密データの多い金融、膨大な非構造化コンテンツを扱うメディア/エンターテインメントなどを中心に、官公庁や学術機関・医療機関などでの採用が伸びているという。数十TB(テラバイト)という比較的小規模な環境からスモールスタートできるという特長も、幅広いユーザーに好まれる理由である。
HyperStoreが選ばれるもう1つの理由は、Amazon S3 APIへの“完全準拠”にある。クラウドサービスの活用があたりまえの現代において、S3 APIを完ぺきにコントロールできる機能は極めて有用だ。最初の製品を選んだのも、国内の大手クラウドサービス事業者だった。S3エコシステムに参加している多くの開発事業者が、多様なアプリケーションを作り上げているという点も魅力である。
特にサービスプロバイダーや大規模企業では、ストレージを単なるデータの格納場所ではなく、エンドユーザーの多様なニーズへ応えることのできる「X as a Service」として提供したいという思いが強い。HyperStoreは、S3エコシステムから提供される多彩なアプリケーションと組み合わせることにより、新しいサービスを作り上げることができると期待されている。例えば、開発/ テスト環境向けの「Storage aaS」、バックアップやアーカイブ用途の「Backup aaS」「Archive aaS」、安全性・完全性に特化した「Compliance aaS」、ディザスタリカバリ用の「DR aaS」、ビッグデータ解析に適した「Big Data aaS」といった具合である。特定業界のニーズに合わせたストレージサービスも、HyperStoreとS3エコシステムであれば実現できる。
HyperStoreはデータの安全性・不変性についても高品質で、SEC Rule 17a-4 やFINRA Rule 4511、FIPS、HIPPAなど米国政府の基準・規格をはじめ、各国・各地域が求める認証テストをクリアしている。金融機関はもちろん、グローバルにビジネスを展開する企業でも採用が進んでいるのは、データセキュリティの高さを評価してのことだ。
性能向上がめざましいアプライアンス オールフラッシュモデルも人気
Cloudian HyperStoreは、汎用サーバーにインストールできるソフトウェアのほか、アプライアンス製品も提供されており、幅広い調達方法から選択することができる。特にアプライアンスは容易に導入して安定的に運用できるため、多くのユーザーに適した製品で、ラインアップも豊富である。
スモールスタートしたいユーザーには、1UモデルのHSA-1600シリーズが最適だ。4UモデルのHSA-4100シリーズは、PB級の環境構築に適している。いずれも従来型(1500シリーズ/ 4000シリーズ)と比較して大幅な性能強化が図られており、スループット性能は約3倍に伸びている。ネットワークも標準で25G Ethernet に対応し、40G/100G Ethernetもオプションで対応することができる。2019年には、EB(エクサバイト)級も視野に入れた大規模クラウド向け最上位製品として、4UサイズのHSX-4516(HyperStore Xtreme)も発売されている。
より高いパフォーマンスを求めるユーザーは、2020年8月に新登場した1Uサイズ・オールフラッシュモデルの「HSF-1008」(76.8TB)と「HSF-1015」(153.6TB)に注目だ。金融機関をはじめ、多様なニーズへオブジェクトストレージを適用したいという組織を中心に期待が高まっているという。
こうした多彩なラインアップによって、上述したようなサービスプロバイダーのXaaSだけでなく、ファイル保管・共有、ビッグデータ解析、AI /機械学習、マルチメディア、仮想化基盤など、多様なサービス/システムでHyperStoreは活用されている。
多彩な機能連携で次世代のデータ活用基盤へ
近年のクラウディアンでは、さまざまな用途でHyperStoreを応用できるように他の技術・サービスとの連携強化に努めており、すでにソリューションが開発されている。
例えば、統合ログプラットフォーム「Splunk」との連携は、クラウディアンの社内サポートシステムで活躍している。同社のサポートチームでは、数百GB~TBのデータをSplunkで収集・管理しており、そのストレージ基盤としてHyperStoreを活用している。大量のデータを長期間にわたって保存でき、数か月~1年分のデータも容易に分析できるという。
HyperStoreはVMwareとの連携も強化しており、VMware vCloud Director(VMware Object Storage Extension)から直接的に管理することができる。VMwareクラウドプロバイダーにとってS3互換アプリケーションとの連携が容易になり、冒頭で述べた「XaaS」の実現に役立つ。
Storage aaSやBackup aaSなどデータ保護サービスの実現に向けたソリューションの1つとして「Veeam Backup & Replication」との連携も紹介しておこう。HyperStoreとVeeamは、共に「S3オブジェクトロック」機能をサポートしている。この機能を活用することで“書き換え不能な”バックアップデータが保管され、例えばランサムウェアの侵害を防止できるようになる。HyperStoreのマルチデータセンター機能を併用して異なる拠点間でデータを相互保持すれば、さらにバックアップの完全性を向上できる。
クラウディアンは、最新技術の1つであるコンテナ──Kubernetes連携にも着目している。HyperStoreに搭載された「Cloudian Kubernetes S3 Operator」機能によって、Podへオブジェクトストレージをアタッチできる。コンテンツの設置場所やコンテナバックアップ基盤として、HyperStoreの巨大なS3データレイクを容易に活用できるようになる。
仮想化基盤やコンテナ基盤を包括するストレージプラットフォームとして、VMware Cloud Foundation with VMware Tanzuへ対応する機能強化も開発中だ。具体的には、HyperStoreとVMware vSANが強固に連携し、開発者でもIT担当者でも活用できるクラウド(オブジェクト)ストレージが構築できる。
コンテナとHyperStoreが強固に連携することで、ストレージノードにコンピューティングノードを設置して巨大なデータを迅速・容易に活用できる“次世代のストレージ&コンピュート環境”が実現できるようになる。Cloudian HyperStoreは、増え続けるPB級のデータを格納するだけでなく、新しいデータの活用方法を提供するストレージ製品だ。