クラウド&データセンター完全ガイド:プロダクトレビュー DCを支える黒子たち

機器を直接冷媒に浸して熱搬送するモジュール型冷却装置――ICEraQ

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年12月23日
定価:本体2000円+税

HPCシステムの冷却に関する課題

 AIや機械学習が広く活用されるようになってきた昨今、いわゆるHPC(High Performance Computing)への需要はますます高まっている。しかし、HPCシステムの構築・運用には熱の問題が必ずつきまとう。

 高密度なサーバーを冷却するための手法として取り入れられているのが水冷方式だ。水冷方式には、CPUやメモリなどのとくに熱を発する場所だけを水を使って直接冷やす方式や、サーバー機器を直接冷媒に浸して冷却する液浸方式などがある。

 日本フォームサービスは2018年3月、液浸冷却装置を展開する米GRC(GREEN REVOLUTION COOLING)社と業務提携を締結し、ライセンシングソリューションパートナーとなった。日本フォームサービスが提供するGRC社の最新液浸冷却装置が「ICEraQ」(写真1)だ。

写真1:液浸冷却装置「ICEraQ」(出典:日本フォームサービス)

冷却コストの大幅な低減を実現する液浸冷却装置

 GRC社のICEraQは、サーバーなどの機器類を直接冷媒に浸して熱搬送冷却するモジュール型の冷却装置だ。液槽ラック、CDU(ポンプモジュール)、冷却装置(冷却塔やチラー)により構成される。冷却液で満たされた液槽ラックに縦向きでサーバーをラッキングし、温まった冷却液はCDU内で熱交換して循環させることで、サーバーを高負荷状態で使い続けても安全な温度を一定に保ち続ける仕組みだ(図1)。冷却液側のループはポンプ流速レベルにもよるが最大で1分間に150リットルのスピードで循環するという。

 冷却液には「エレクトラセーフプラス」という合成潤滑油を使用する。エレクトラセーフプラスは誘電性流体で、原則的に電気を通さない絶縁体だ。揮発性が低く、注ぎ足しもほんとど必要ないとのことだ。

 サーバーを液浸するためには液浸用サーバーへ換装する必要があるが、ヒートシンクとCPU間のサーマルグリースをサーマルフォイルに交換、ファンを取り外してエミュレータチップに交換、HDDをSSDまたはヘリウムドライブに交換、電源ケーブルを専用ケーブルに交換というステップで、1サーバーあたり約10分で実装が可能としている。

 サーバーを液浸化することで得られる効果として挙げられるのがサーバー自体の消費電力低減だ。ファンを取り外すことで約10~18%低減が見込める。その他にも各種ケーブルコネクタの酸化や腐食の防止、均等冷却によるホットスポットの排除、ファンを取り外すことによる振動の排除、油膜保護により塵や埃の影響の排除といった効果もある。

 さらに、液浸冷却装置の電動部品は基本的に冷媒循環のためのポンプ動力のみとなる。そのためポンプの消費電力は2kW程度で、従来の冷却方式と比較すると冷却に要するエネルギーは約90%削減できるという。高密度化によるラック数、設置面積の削減、ピーク時の電力節約に比例して空調機用のUPSや自家発電機などバックアップインフラストラクチャを小型化、空調設備の小型化などにより、データセンター建設コストも抑えることができる。

図1:冷却の仕組み(出典:日本フォームサービス)