クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

利便性の高い都市型地域データセンターを増床――TOHKnet「仙台中央データセンター」

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年9月29日
定価:本体2000円+税

ここ最近、新データセンター紀行では、首都圏の大規模データセンター新設を取り上げることが多かったが、社会インフラや日本経済にとっては、中小規模の地域データセンターも非常に重要な役割を果たしている。今回は、6月にラックスペースを約2.4倍に増床した「仙台中央データセンター」を紹介する。東北随一の大都市仙台市に位置し、仙台駅から徒歩圏内と非常に利便性の高い都市型データセンターである。 text:柏木恵子

写真1:TOHKnet「仙台中央データセンター」

地域のニーズを満たす中小規模のデータセンター

 東北電力グループの通信事業者、東北インテリジェント通信(以下、TOHKnet)の「仙台中央データセンター」は、仙台駅から徒歩9分、仙台市中心部のテナントビル内にある。仙台までは東京から新幹線で約1時間半なので、首都圏からもさほど遠くは感じない。東北地域の企業や地方自治体などの利用が多いが、中には首都圏の企業のDRサイトという利用もあるという。

 データセンター自体がオープンしたのは2011年8月で、ビルの竣工はその前年。2011年3月11日の東日本大震災の時には、既にできあがっていた建物である。この場所にデータセンターを新設することが決まっており、既に設備工事を始めていた段階だったが、あの大震災にも、ビルは影響を受けていないことが確認できる。

 開設当初はビル内のひとつのフロアでスタートしたが、利用が順調に伸び、満床になったため、フロアを追加し、2020年6月に2フロア目となる、約200ラック相当を提供するデータセンターとなった。

 「仙台中央データセンター」のような地域データセンターのニーズが高まっている理由は主に3つだ。

①自然災害リスクの回避

 ひとつは、自然災害のリスク回避するために、堅牢なデータセンターに情報システムを預けたいというニーズだ。きっかけとなったのは、やはり東日本大震災だった。当時、地震や津波でコンピュータシステムが被害を受け、公共サービスや事業に必要な大量のデータが失われた。そこで、自社内にサーバーを置くのではなく、堅牢で安全な施設に預けるべきだという認識が広まった。

 さらに、昨今は記録的な豪雨による水害が増えている。東北は、元々は水害を受ける土地柄ではないため、あまり意識していなかったという企業も多く、電算センターが1階にあることも少なくない。それが記録的な豪雨で水没してしまったという例もある。

②情報システムの自社運用に課題

 2つめに、労働人口減少による人手不足で、情報システムを自社内で運用する、もしくは兼務が厳しいという背景がある。地方自治体や中小企業では、情報システムの担当者は一人ということが多い。人を採用したくてもなかなか見つからないというのが現状のようだ。このため、ITシステムを外部に委託して、運用まで任せたいというニーズが高まっている。

③クラウドは少し不安

 政府がクラウドファーストを推奨するなど、自社ですべて持たずに、データセンターに預けたりクラウドを利用するようにという方針が国からも出ている。ただし、首都圏と違って十分な情報を得にくい地方では、遠くのクラウドを使うのは抵抗感があるというケースも少なくない。そこで、土地勘のある地元のデータセンターに預けるという選択をする企業が増えている。

地震に強い建物と便利な立地で 安心感を提供する

 一人情シスの負担を減らすという意味では、データセンターにシステムを移設するだけでなく、運用まで面倒をみてもらいたいというのが、企業側のニーズだ。データセンター側でもベーシックな運用サービスを提供しているが、多くの場合、ハードウェアベンダーやシステムベンダーの担当エンジニアが運用を支援するという形になる。

 ここで、仙台市の中心部という立地が大きな優位性を発揮する。主要ICTベンダーが東北に拠点を置くのは、ほとんどが仙台だからだ。「仙台中央データセンター」から徒歩圏内に、ほぼすべてのベンダーのサポート拠点があると言っても過言ではない。実際に作業するエンジニアにとって便利な場所にあり、何かあればすぐに担当SEがかけつけてくれるというのは、スペック表には現れない、安心感という価値となっている。

 もちろん、ファシリティの信頼性が高いことは前提条件となる。建物は堅固な基岩盤上に、厚さ3mの鉄筋コンクリート基礎を支持する直接基礎構造。高層建築では長周期振動が長く続くことが知られているが、揺れと逆方向に重りが動くことで揺れを抑える制震装置(ATMD)を設置している。さらに、制震壁/制震ブレース(筋交い)/制震間柱の3部材を採用したハイブリッド制震構造となっている(写真2)。

 場所的に内陸部のため津波の影響は受けず、フロアも上の階なので浸水する心配はない。

写真2:制震装置(ATMD)/制震壁/制震ブレース/制震間柱

ビルの入館からラックまで5段階のセキュリティ

 建物はテナントビルだが、入館から契約しているラックまで、5段階のセキュリティ区画に分けて、それぞれ認証を行う。

 まず、ビル共用スペース(レベル1)に入るには、ビル入退室用ICカードによる認証が必要で、データセンターフロアでデータセンター前室(レベル2)に入るには、それとは別のデータセンター専用ICカードが必要になる。インターフォンで来館の旨を告げて、ICカードによる認証の後、データセンターフロアへ入る。

 データセンター内通路(レベル3)やサーバルーム(レベル4)は、ICカードに加えて、指静脈による生体認証が必要で、共連れ防止、アンチパスバックの機能により、入室を許可された者以外は入れない(写真3)。さらに、契約しているラック(レベル5)は、個別ラック専用鍵で解錠する。

 その他、データセンター内は死角がないように複数の監視カメラを設置し、撮影・録画している。

写真3:ICカードと指静脈による生体認証

環境配慮とコスト効率を考えた電源や空調

 データセンターの基本要素は、スペース・電気・空調だが、「仙台中央データセンター」は都市型データセンターのため、広大なスペースを持つわけではない。しかし、テナントビルと共同で電気を引いているため、小規模データセンターでは難しいとされる特別高圧で受電している。TOHKnetは東北電力のグループであり、高圧ではなく特高で受電することでコストメリットがあることを特徴としている。

 さらに、3回線スポットネットワーク受電(図1)という、受電方式を採用。これは、「復電操作が自動化されている」「1回線の配電線が故障した場合でも他の配電線でバックアップが可能」という、非常に信頼性の高い方式だ。

図1:3回線スポットネットワーク受電

 停電に備えるための設備としては、N+1冗長構成のUPSと、非常用発電機がある(写真4、5)。発電機は750kVAのディーゼル発電機で、フロアごとに専用のものが、ビルの途中階の屋上部分に設置されている。実は、データセンターが入っているビル自体は高層ビルなのだが、途中までは商業エリアで床面積が広くなっている。その部分の屋上に、発電機専用スペースを設けて設置してある。それは、水害などの影響は受けない位置ということだ。

写真4:UPS
写真5:非常用発電機

 ディーゼル発電機は運用コストが安いのだが、騒音や振動のため通常テナントビル等で建物内に設置するのは難しい。しかし、「仙台中央データセンター」は屋上部分に設置することで、その問題もクリアしている。

 空調は、高効率パッケージ空調を使った、床下吹き上げ方式(写真6)。ラックはアイルキャッピングし(写真7)、床下から吹き上げた冷気を前面吸気。背面排気した暖気は天井から空調機室へ戻す(図2)。また、フリーアクセス部分に配線があるとエアフローを妨げ、空調効率が落ちるため、ケーブル類はラック上部のラダーに収容している(写真8)。

写真6:床拭きだしパネル
写真7:アイルキャッピング
図2:気流設計イメージ
写真8:ケーブルラダー

 さらに、データセンター前室や通路の照明はセンサーライトを用いて、省エネルギー化を図っている。ネットワークは、法人向けインターネット接続サービスと、拠点間を閉域網で接続する広域イーサネットを提供する。光ファイバーケーブルは、電力系とNTT系の異系3ルート引き込みで、キャリアダイバーシティにも対応する。

 インターネット接続サービス「TOCN」は、TOHKnetがISP部分とアクセス回線部分をワンストップで提供する。データセンター用オプションとして、上り帯域を通常の契約帯域の4倍に拡張する「上流プラス」を用意しているため、クラウドやSaaSなど、データセンターにトラフィックが集中するような環境も安価に構築できる。

 保守対応は、同一ビル内に保守対応要員が24時間365日で常駐しており、休日や夜間の対応も可能だ。

よりきめ細かくニーズに応える増床フロアのアップデート

 増床フロアでアップデートされたのは、主に2点だ。

①フレキシブルなラック仕様

 増床フロアでは、フルラック(42U)、ハーフラック(20U)の他に、1/4(9U)、1/8(4U)のメニューを追加。目的に合わせて、より細かくニーズに応えることができるようになった(写真9)。

写真9:フルラック、ハーフラックの他に、1/4ラック、1/8ラックなどのニーズにも対応した

②ラック当たり電力の拡大

 ラック当たりの供給電力は、標準で2kVA。オプションで追加可能なため、最初はスモールスタートで費用を抑え、ビジネスが拡大したら契約を増やすことが可能なサービスになっている。既存フロアでは最大で6kVAまで拡張可能だったが、サーバの高性能化、消費電力増加などを鑑み、増床フロアでは最大8kVAまで拡張可能になっている。

 ハーフ、1/4、1/8ラックの場合は、標準1kVA。ハーフラックは4kVAまで、1/4、1/8ラックの場合は、2kVAまで提供する。

 また、各フロアにTOHKnetが設置したパッチパネル間を、UTPおよび光回線で接続しているので、既存フロアと増床フロアを両方使う場合には、構内配線で連携させることが可能である。

中での作業の快適さが結果的にユーザー企業の安心感につながる

 もうひとつ、増床部分で追加されている設備がある。サーバルームに隣接したワークスペースだ。有線LANによってサーバと接続可能で、システム構築時の初期設定作業や、保守作業のログ取得などを行える。ワークスペースは窓から外を見ることができる開放的な空間なので、サーバルーム内よりも快適に作業できる。平日の9:00~17:00まで、無償で利用可能だ。

 また、テナントビルの下層階が商業エリアだという説明をしたが、そこにコンビニや飲食店もある。交通の便だけでなく、便利という点でも、都市型のデータセンターのメリットが十二分に発揮されている。

 その他、なかなか便利だと思うのは、大型サイズのレンタルロッカーが設置されていることだ。荷物は、鍵のかかるロッカーに預けておくことができるので便利である。

写真10:ロッカー

 このように、災害に強い堅牢な施設であるのはもちろんのこと、利用者の利便性に配慮されているのが、「仙台中央データセンター」の特徴のようだ。実際に作業するエンジニアにとって使いやすいデータセンターであることが、利用企業の安心感にもつながる。自社に置いておくのは安全でないとは分かっているが、やはり目の届く場所に置きたいという地方の顧客にとっては、それが選択の大きな理由となっている。また、首都圏の企業にとっては、必要な時にはかけつけることができる立地であることも、選択の理由である。

表1:仙台中央データセンター設備概要
所在地宮城県仙台市
開設2011年8月開設、2020年6月増床
建物仕様 構造鉄筋コンクリート
     階数上層階 2フロア
   延床面積200ラック相当
   積載荷重300kg/ラック
   免震構造ATMD、制震壁、制震ブレース、制震間柱
      UPSN+1 冗長構成 バッテリー保持時間5分以上
受電設備特高受電(33kV 3回線スポットネットワーク受電方式)
非常用電源設備ディーゼル発電機(750kVA)、UPS(N+1)
空調設備高効率パッケージ空調、床下吹き上げ
火災対策設備ガス消火設備、熱感知設備、煙感知設備、超高感度火災検知システム
認証方法IC カード+指静脈認証
その他セキュリティ5段階認証、共連れ防止システム、アンチパスバック
ラック供給電力標準2kVA、最大8kVA
ネットワークマルチキャリア複数ルート
環境配慮設備センサーライト、ラック温湿度、電流監視
その他設備レンタルロッカー、ビル内にラウンジ・コンビニ・飲食店