クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

AGS「さいたまiDC」さいたまセンター

AGSは、2012年3月に「さいたまiDC」さいたまセンターをオープンした。さいたま市という都心からのアクセスの良さに加えて、地震や液状化、津波などの災害リスクが低い立地であることが特長。省エネ施策を積極的に実施しており、環境配慮型データセンターとしてCASBEEも取得している。

現在は独立系IT企業として経営されているAGSだが、以前はりそな銀行及び同行の顧客に対して各種の情報処理サービスを提供していた会社である。その沿革をたどれば、40年ほど前に設立された昭和コンピューターサービス(協和銀行系)と、サイギンコンピューターサービス(埼玉銀行系)が合併して設立された会社(旧あさひ銀総合システム)であり、2003年1月に埼玉県さいたま市に「さいたまiDC」を開設してデータセンター事業を開始した(2004年にAGSに商号変更)。

グループ会社として、情報機器の導入・保守を行うAGSビジネスコンピューター、コンピューターシステムの運営管理を行うAGSプロサービス、コンサルティングを行うAGSシステムアドバイザリーの3社がある。これらの各社と連携して、データセンターを中心としたファシリティサービスだけでなく、情報処理サービス、ソフトウェア開発、システム機器販売などを総合的に提供する。

もともと、事業の柱であった大手金融機関のシステム管理・運用に関わる専門性の高い業務のほか、住民記録・税などの基幹業務から収納などの周辺業務までサポートする自治体向け業務や、製造業・流通業など一般法人の業務も行っている。新宿副都心から電車で40分という、都心からのアクセスの良さもあり、東京を拠点とする企業の利用が多いほか、地元埼玉県の自治体なども利用しており、金融・行政の要求する高いセキュリティ、可用性の高さといったニーズに応えることができる。

地の利とワンストップサービス

「さいたまiDC」の特長は、まず埼玉県という立地にある。特に昨年3月の震災後は、事業継続計画の観点から企業などの重要データを都心から移す動きが加速している。埼玉県は都心から30km圏内とある程度の距離がありながら、交通の便がよく駆けつけようと思えばそれも可能という絶妙の位置にある。さらに、活断層から離れているなど地震のリスクが低く、液状化の危険性も少ない。海から離れているために津波の被害も考えなくてよい。また、「さいたまiDC」は大規模河川からも離れた場所にあり、鉄道の駅からも近いなど、その立地には多くのメリットがある(図1)。

図1 利根川・江戸川・荒川合成浸水想定区域図 浸水想定マップからも、さいたま市中心部は、災害リスクの低い場所であることが分かる。

もうひとつの特長は、IT総合サービスをワンストップで提供できることだ。受託計算サービスでは、データ入力、大型汎用機による計算処理はもちろん、大量印刷・封入・発送まで行うデリバリーサービスなど、多岐にわたる業務が可能となっている(図2)。

図2 デリバリーサービス データエントリから大量印刷、封入・封緘、発送まで顧客のニーズに合わせて対応する。

このため、Eコマースやコンテンツ配信などのウェブシステムで利用されることが多い一般的なデータセンターと違い、基幹系や業務システムでの利用が多い。利用者にはラックマウントのサーバーだけでなく、汎用機やプリンタなどを設置するケースもかなり多いという。また、ITインフラの移設案件では、これまで他所のデータセンターで使っていたラックをまるごと移設したいというニーズもあるため、ラック単位で貸し出すハウジング以外に、ケージで囲ったスペースを貸し出すコロケーションのニーズも高い。

その他、情報システム関連業務を一括受託する、BPOサービス、ASPやSaaSのサービスなども提供している。

さいたまセンターの概要

データセンターへの顧客ニーズの拡大とともに、データセンター事業は順調に利用者が増えてきた。さらにデータセンター事業の拡大を促進するために、現存の浦和センターに隣接してさいたまセンターを建設し、2012年3月からオープンした。ミッションクリティカルなシステムを預かり、ワンストップでさまざまなサービスを提供できるハイクラスなデータセンターとして(JDCC-FS Tier 4レベル)、免震や電源供給、セキュリティなどに高い性能を備えている。それに加えて、環境性能にも十分配慮している。省エネルギー施策としては、受電・変電や発電、UPSなどの電源供給設備には高効率機器を使用し、サーバールームには一部外気冷房を採用、執務空間にはLED照明を採用し、人感センサーを配置するなど、その対策は設備全般に及んでいる。その結果として、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)の最高評価であるSクラスを取得。敷地内に樹木を整備するなどの緑地化は、顧客からも好評だという。

地上5階建てのうち、1階はロビーやエントランスのほか、ビル運営やMSPの運用のためのスペース、2階はシステム開発及びインフラ担当部門のスペースとなっている。運用と開発のSEが同じ場所に同居しているため、迅速に高度なサービスを提供できるのが特長にもなっている。サーバーフロアは3階と4階の2フロア、約600ラック相当が収容可能な面積である(約8000m2)。5階には非常用発電設備が設置されている。屋上に発電機を設置するケースも多いが、近隣への配慮として、防音のために建物の中に収容している。屋上は、太陽光発電パネルの設置や緑地化のスペースとして利用されている。

受電方式は特別高圧受電(66kV)、本線・予備線方式だ。供給電力はラック当たり平均4kVAだが、ブレードサーバーなどを導入する場合は、顧客の必要に応じて20kVAまで調整可能となっている。また、受電設備からラックの電力供給まで、完全二重化されている。

積層ゴムによるビル免震構造(写真1)は、JSCA耐震性能特級で、たとえば阪神大震災クラスの極めて稀な地震動であっても無被害または補修なしとされるレベルである。積層ゴムは薄いゴム層と鋼板を交互に積層することにより鉛直方向には硬く水平方向に柔らかいという性質を持つ免震装置で、サーバーフロア階においては200ガル(地震動の加速度約0.2G)以下まで減衰する。

写真1 ビル免震システム 地盤が強固なため積層ゴムのみだけで対応可能。

地震のリスクは低い場所だが、一方で埼玉県は雷が多い。そこで雷の防災対策設備として外部雷保護避雷針、避雷器を設置している。また、内部雷保護ファラデーアースシステムによって、直接ビルに雷が落ちた場合でも、ビル全体で吸収することで電位差発生を防止し、ノイズ障害などから機器を守る(図3)。

図3 通常のアースシステムとの比較 ファラデーアースシステムで外部だけでなく内部からも保護されている。

そのほか、化学物質の検出によって火災などの災害を発生前に通知する予兆システム、漏水を検知する仕組みなどが配備されている。また、消火設備は機器に影響のない窒素ガスを使っている。

非常用発電機は、国内では珍しいディーゼル発電機を採用している。現時点では、2000kVAを2台設置している(写真2)。これは、今後収容サーバー数が増加すれば3+1の構成にする予定だ。ラックがすべて使用されている状態で、72時間稼働できる量の燃料が備蓄されている。

写真2 非常用発電機 2000kVAディーゼル発電機を2台設置。防音のため完全に密閉し、5階フロアとしてある。

ディーゼル発電機は、エネルギー消費効率がよく、排熱温度が低い。海外の非常用発電機のほとんどがこのタイプだが、騒音や振動が大きいのが欠点だ。そこで、騒音を遮断するために壁で囲って部屋の状態にしたうえ、吸音板をつけるなどの対策をとっている(写真3)。現状では、部屋の外に出れば会話にまったく支障のないレベルまで防音できている。

写真3 防音対策 非常用発電機室は音楽室などに使用する防音材により遮蔽する。

こうした設備基準は、FISCやJDCCの基準に合わせた設計になっており、JDCCの評価基準では、ほぼTier4レベルを達成している。しかし、基本項目のうち2項目を満たしていないため、Tier4の認証を取るには至っていない。ひとつは、SE用のスペースがあるためにデータセンター専用であるという項目、もうひとつは空調機の構成で、Tier4ではN+2が求められているが、N+1になっているという点だ。

多様な方式を組み合わせた入退室管理

館内のセキュリティ対策は、さいたまセンターでも最も気の遣われているポイントのひとつである。利用者の動線に沿って、入退室管理などのセキュリティについて確認してみよう。まず、敷地外のインターフォンで来訪を告げると、門扉が解錠される(写真4)。エントランスに入るにはビル管理室の前を通るため、不審者や不審物はまずここで目視によって確認できる。

写真4「さいたまiDC」さいたまセンター外観 地上5階建て、新宿から電車で約40分、駅から徒歩10分。災害リスクの低い立地に建設されている。

エントランス内で入館手続きを行い、ICカードタグの発行を受けた後、そのICカードによりフラッパーゲートを一人ずつ通過する(写真5)。ビル内にSEや開発部隊が常駐するため、社員用のフラッパーゲートは別にあり、社員と来訪者の動線は可能な限り分離されている。フラッパーゲートを通過した所にロッカーがあり、荷物はそこに預け、その後金属探知ゲートを通り、申請済みPCなどのみを携帯してデータセンター内に入る。

写真5 エントランス部分 これからソファーなどが入る予定。係員による目視とフラッパーゲート、金属探知機など複数の仕組みで入館者をチェックが行われる。

エレベータを呼ぶ際にもICカードによる認証が必要となっている(写真6)。また、エレベータ内でもICカードをかざし、許可されているフロアのボタンしか押せない仕組みになっている。

写真6 エレベータでの認証 エレベータ利用にもICカードが必要。必要のないフロアには止まらない。

サーバールームへの入室はインターロック(閉じこみ)方式(写真7)で、共連れを厳密に排除する。前扉でICカードをかざしてカウント1、天井のカメラセンサーで通行1を照合。マッチすると前扉が閉じる。外側には「認証中」のランプが点灯し、新しい人は入れない。閉じこめられた内部でICカード認証と手の平静脈の生体認証を行い、マッチすると後扉が開いてサーバールームに入室できる。閉じこめられる部分は3畳程度の部屋となっていて、大きめの機材などを持ち込む場合にも十分なスペースがある。また、入るゲートと出るゲートは別になっており、さらに人用ゲートと荷物搬入ゲートで別れている。フラッパーゲートからサーバールームに至る過程で、非常に厳格な認証管理が行われているのは、金融・行政といった顧客のシステムを預かるうえで、必要不可欠な対応なのだろう。

写真7 サーバールームの認証 サーバールームへのゲートはインターロック式。複数の認証によりサーバールームへの入退室を厳しく管理される。

サーバールームへの出入りが厳格なだけに、出入りをなるべく減らすため、サーバールームの外にセットアップルームが4室用意されている。梱包の開封、機器のセットアップ、テストなどをあらかじめ行うための部屋で、電源、ネットワーク回線が提供されており、作業者の目線で考えられた設備配置であるといえる。

図4 空調方式 空冷方式なので漏水リスクや災害時の水不足の影響がない。冬場は外気を取り込みエネルギー消費を軽減する。

一部外気を利用した空冷方式

サーバールームの床荷重は1200kg/m2で、空調は二重床、床下吹き上げ・天井吸い込みの一般的な方式を採用。床から天井までが3000mmで、天井裏は700mm、床下高が800mm(写真8)である。冷却は一般の空冷式パッケージを利用しているが、空調効率を配慮して、床下高や天井裏は一般のデータセンターよりもかなり高めになっている。ホットアイル側は、ラック背面から天井までに壁を作り、暖気を閉じ込める方式(ホットアイルチャンバー)を採用しており、これによりサーバーの排熱を効率よく天井裏へ排出する。この後、高効率のパッケージ空調機(写真9)で冷却する前に、外気温の低い時期は、サーバーからの排熱と外気を混合して温度を下げることにより、空調機の負荷を減らし、エネルギー消費を減らしている(写真10)。

写真8 サーバールームの床下 床下高は800mmと高く、空調効率を高めている。気流の妨げにならないように、ケーブルを収納するトレイが設置されている。
写真9 空冷式・空冷ヒートポンプ式の日立パッケージエアコンディショナ データセンター向け高効率のパッケージ空調機。
写真10 室外機 屋上は室外機が設置されているほか、余剰スペースは屋上緑化、太陽光発電パネルが設置されている。

サーバールームの管理システムとしては、監視カメラや部屋の温湿度センサーのほか、サーバーラックの扉開閉センサー、分電盤単位の積算電流センサーなどが設置されている。これらの情報をもとに、MSPチームが運用監視のサービスを提供する(写真11)。24時間365日常駐のスタッフによるシステム監視や運用代行のほか、さまざまなマネージドサービスを用意している。

写真11 MSPのオペレーション室 各種センサーの情報から監視やアラートサービスを提供する。

信頼性、セキュリティ、利便性の高さが魅力

さいたまセンターが企画されたのは東北の震災以前であるが、二酸化炭素排出量や環境負荷の低減といった施策が、結果として省エネルギー効果の高いデータセンターとなり、防災という点からも、東京都心部から待避させたいというニーズにうまく合致しそうだ。PUE値が1.5以下というのも、都市近郊型でSEのスペースが同居していることを考えればかなり優秀だと言えるだろう。また、機材搬入経路には集中豪雨に備えた防潮堤の設置、重量機材搬入に耐える床材を使用するなど、データセンターの利便性を配慮した工夫が随所に取り込まれている。ほぼTier4レベルを実現しているが、価格的にも都心に比べればかなり競争力のある設定となるだろう。新たなデータセンターの利用や、都心からの移設といったニーズがあれば、検討する価値のあるデータセンターである。

表1 「さいたまiDC」さいたまセンター設備概要