クラウド&データセンター完全ガイド:特別企画
Yahoo! JAPANのインフラ運用の効率化を促進する日東工業の「OCP V2ラック」
電力コストを10%削減、日本のデータセンター固有の要件にも柔軟に対応
2018年7月4日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2018年6月30日
定価:本体2000円+税
国内最大級のポータルサイトYahoo! JAPANが提供する数々のサービスは、膨大な数のサーバーやネットワーク機器を擁するデータセンターによって支えられている。だが、サービスの多様化に伴いインフラも拡張を続けており、設備コストの削減と運用の効率化が課題として浮上していた。そうした課題を解決するために選択されたのが、OCP(Open Compute Project)ソリューションだ。OCP仕様サーバー、そして日東工業の「OCP V2ラック」によってYahoo! JAPANにどのような効果がもたらされたのか、詳しく解説する。
自社インフラの見直しに際してOCPソリューションの採用を決定
国内最大級のポータルサイト、Yahoo! JAPANを運営するヤフー。近年では、広告やECのリッチメディア化への対応をはじめ、Yahoo! JAPAN等で得たビッグデータのさらなるビジネス活用に向け、インフラの増強を積極的に推進している。そうした中で課題として浮上していたのが、インフラに関するコストの抑制と運用の効率化だった。ヤフー システム統括本部 サイトオペレーション本部 インフラ技術2部の藤見和英氏は、「サーバー仮想化が主流となるのに伴い物理サーバーの高性能化と高密度化が進展、1台あたりの価格は上がり消費電力量も上昇していました。今後もサーバー等の継続的な拡張が予想される中で、改めて自社インフラを見直す時期に差し掛かっていたのです」と説明する。
そこでヤフーが着目したのが、OCP(Open Compute Project)仕様のサーバーの導入である。OCPとは、米国Facebookが自社サービスで使用しているデータセンターやサーバー等のハードウェア仕様を標準化・オープンソース化し、大規模データセンターに最適なハードウェアを設計・提供するために2011年4月に発足したプロジェクトだ。現在では、Facebookなどのユーザ企業に加え、大手ハード/ソフトウェアベンダー、SI企業など、全世界で150社以上がOCPに参加。OCP仕様のサーバー、ストレージ、ネットワークスイッチ、ラックの開発が進められている。
OCPに着目した理由について藤見氏は、「ベンダーロックインにとらわれない汎用的なシステムであれば、安定したパーツ調達とコストの削減が期待できるほか、シンプルな運用のためベンダー独自の技術に起因するトラブルも回避できます。また、ワールドワイドにおいて巨大IT企業を中心にベンダーロックインを回避したシステム構築のトレンドが見受けられており、ヤフーもそうした新しいテクノロジーの潮流にいち早く追随し、技術的にもステップアップしていかなければならないと考えていました」と強調する。
導入を後押ししたのは、ヤフーの米国法人であるActapio, Inc. (旧称:YJ America, Inc. 以下、Actapio)が有する、米国データセンターにおけるOCPソリューションの採用実績だった。米国データセンターでのナレッジの蓄積、そして日本国内唯一のOCPのソリューションプロバイダーであり、ActapioへのOCP仕様サーバーの導入も支援した伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の協力により、日本国内でも数カ月の導入検証を実施。サーバー費用をはじめ消費電力、設置スペース、作業時間の削減が可能であることを確信したヤフーは、2016年にOCPソリューションの採用を決定し、以後、国内データセンターにおいてもOCP仕様サーバー、ネットワークスイッチを継続して導入してきた。
Yahoo! JAPANのインフラ運用を支える日東工業のOCP V2ラック
そうしたヤフーのOCP仕様サーバー、ネットワーク機器等を搭載するためのラックとして選択されたのが日東工業の「OCP V2仕様に対応した高耐荷重ラック」である。同ラックは、堅牢性に優れた日東工業のラックフレームをベースに、OCP仕様にカスタマイズしたもの。その高耐荷重ラックにOCP仕様機器を搭載した「OCP V2ラック」のメリットをみていこう。
1つが優れた省電力性だ、従来、サーバーが個々に搭載していたパワーサプライをラックレベルに集約。集中電源にてAC-DC変換を一括で行い、背面のバスバー経由で各機器に電源を供給する。これにより高負荷率状態となり高い変換効率が実現される。AC-DC変換効率が高ければ消費電力の削減に加え発熱も抑えられるので、冷却に必要な電力もさらに抑制できる。また、AC-DCの変換回数も減らせるため、変換ロスによる無駄な電力消費をさらに削減可能だ。
また、19インチブラケットにより、OCP仕様に未対応の機器でも実装できるほか、日本企業からのセキュリティ対策の要望に応え、オープンタイプのラックに外装パネルの取り付けを可能としている。ヤフー システム統括本部 サイトオペレーション本部 インフラ技術2部DC運用技術の吉村翼氏は、「これまでは電源容量の制限からサーバーをラックにフルで格納できないケースがありました。対して、消費電力を抑制可能なOCP V2ラックであれば、1ラックあたりのサーバー搭載台数を増やせます。それでも電源効率化の仕組みにより、これまでと比べて10%ほど電力コストを削減できました。また、背面の電源バーを通して電力を供給するため、一般的なIAサーバーのように電源ケーブルとPDUの接続が不要で、抜線によるトラブルを回避できるほか、配線作業も減らせます」と評価する。
藤見氏も「OCP V2ラックにサーバーや電源、ケーブルがキッティングされた状態で納入されるので、現地作業時間が短縮でき、サービスインの時間が減らせる点がメリットです。機器のインターフェース等もすべてラック前面に配置されているため、配線や機器の増設、メンテナンス作業もすべてラック前面で完結できます。そうした作業はサーバー1台では数分程度かもしれませんが、膨大な数のサーバー群を擁するヤフーの場合、多大な作業時間を削減できると考えています」と話す。
一方、ヤフーに「OCP V2ラック」を提案したCTC 情報通信事業企画室 ITビジネス推進第1部のタクラ サチン氏は、SIerの立場から日東工業のサポートについて次のように評価する。
「日東工業はラックベンダーとして、製品品質の高さはもちろん、こちらからのカスタマイズや設計変更の要望に応えてくれる際のスピード感が大きな評価ポイントです。今回の案件でも、日東工業のサポートにより電源や耐震性能、安全面から背面へのパネルの設置など日本のデータセンターが求める条件に合致するよう、柔軟にカスタマイズしてくれました。OCPソリューションを国内展開していくにあたってのビジネスパートナーとして、とても信頼しています」
OCPソリューションの採用により、データセンター運用の効率化を促進したヤフー。吉村氏は「OCPソリューションの導入により、データセンター全体のコストを抑制しながらシンプルな運用を可能とするインフラが実現できました。今後もOCPソリューションの継続的な採用により、データセンター運用の効率化をさらに推進していきたいと考えています」と話す。藤見氏も「日本におけるOCPソリューション導入の先駆者となり、ゆくゆくは他社からもアドバイスを求められるようなポジションになりたいと考えています。ひいては、オープンソースソフトウェアのコミュニティのように、ハードウェアでも横の繋がりを作り、業界の発展に寄与していきたいですね」と展望を述べた。