事例紹介

シンプルな情報共有で「救急医療」が変わる!――横須賀市で実用化された仕組み

ICT街づくり推進事業(2)

電子トリアージ、数年後の実現めざして

 災害時、傷病者は多数発生する。救急医療において重要となるのが、傷病者の重症度・緊急性に応じて治療・搬送の優先度を決める「トリアージ」である。優先度を「赤」「黄」「緑」「黒」の4段階で判定するのだが、その情報を現場で共有するため、従来は紙製の「トリアージタグ」が使用されている。これを電子化しようというのが「RFIDトリアージ支援システム」だ。

 トリアージ電子化の背景は、JR福知山線脱線事故(2005年)や秋葉原無差別殺傷事件(2008年)で紙によるトリアージがうまく機能しない部分があったこと。傷病者が発見されにくい場所にいたため、重傷者の搬送が遅れたり、壮絶な混乱の中で、タグに記載が必須のはずの重要な情報が抜け落ちたりしたのだ。

 トリアージを電子化することで、紙による集計作業を省いて、「患者情報」「症状」「どの場所に何人いるか」などがクラウドを介して即座に共有できる。電子化には、デジタルペン、音声入力、バイタルサインを収集するセンサー付きタグなどさまざまな方法が研究されているが、この実証で採用されたのは、RFIDタグを利用するもの。

従来の紙製トリアージタグと新しいRFIDトリアージタグ
RFIDトリアージ支援システムの構成

 RFIDタグは、無線通信が可能な小型ICタグを用いて情報を識別・送信する技術。現場での従来のトリアージタグに加えて、ダイヤルで赤・黄・緑・黒のトリアージ区分を設定・変更できるRFIDトリアージタグを患者に取り付ける。無線でRFIDタグIDとトリアージ区分が現場指揮隊のタブレットに送信され、各隊員間で共有。さらにクラウドサーバー上で自動集計される。サーバー上の情報を見ることで、災害対策本部や病院などでも、どの現場にどのくらいの患者がいるのか即座に把握できるというものだ。

 さらに病院搬送後の「入院」「手術」「退院」といった経過についても追記可能となっている。これは従来のトリアージタグにはなかったもので、医師から要望があったのだという。

現場情報。どの場所に何人の傷病者がいるかトリアージ区分別に集計できる
トリアージタグ情報。患者ごとに詳細情報を表示する
防災訓練の様子

 2014年3月28日に同システムを使った防災訓練が実施された。消防局や病院のほか、約150名の市民も参加し、防災の現場でICT技術が活用されることに期待する声が多く聞かれたほか、救急・医療従事者からもさまざまな意見が出たという。

 現状の課題としては「配備コスト」「ITへの習熟度」「汚れや血液の付着」などが挙がっている。コスト負担を軽くするためにもリユースが前提となるが、血液の付着は感染症を考慮しなければならないため、単なる汚れとして安易に扱うわけにはいかない。総じて「メンテナンス」がハードルのようだ。救急隊からは「小規模災害から使いたい」との声。さまざまなフィードバックも反映しながら、数年後(5年未満)の実用化をめざしたい考えだ。

(川島 弘之)