ヤマハ ネットワーク製品の「継承」と「挑戦」
中小向けルータ市場を作った名機たち~ヤマハルータの系譜をたどる
(2014/11/27 06:00)
ヤマハのVPNルータの最新機種「RTX1210」が、間もなく発売される。2008年に発売されたベストセラー機「RTX1200」の後継機種だ。
RTX1210は、コンフィグやぱっと見の外見はもちろん、重量、価格、端子に至るまで、RTX1200との互換性を維持したことを、製品名で表している。その一方、中身は一新され、性能や機能が各段に向上した。ヤマハではこうした点を「継承と挑戦」というキャッチフレーズで現している。
一方、来年の2015年は、ヤマハがルータ事業に参入して20年となる記念すべき年だ。そこで今回はまず、RTX1210が登場するまでの、ヤマハルータの歴史をたどってみよう。
中小企業向けルータの市場を作ったRT100i
ヤマハのルータは、1995年に発売された「RT100i」に始まる。ISDNまたは専用線でインターネットと接続するためのルータだ。
1995年は日本の商用インターネットの黎明(れいめい)期といえる時期で、12月にはNTT-MEから個人向けTA(ターミナルアダプタ)「MN128」が発売されヒットしている。Windowsに初めてTCP/IP接続が標準装備されたWindows 95が発売されたのも、もちろん1995年。ちなみに、インプレスの「INTERNET Watch」がプレ創刊したのも1995年だ。
ヤマハがルータ事業に参入したのは、電子楽器のために開発したDSP技術を応用して、世界で初めてFAXモデムチップをデジタル化し、モデムの低消費電力化、小型化を実現し、続くISDNチップの応用機器開発に始まると、関係者も語っている。IIJの創設メンバーの一人である吉村伸氏のWebコラムによると、当時ヤマハがISDNチップを使った製品について各方面に相談に回っていたそうだ。
それまで高価で大企業向けの製品だったルータ市場に、標準価格で26万円という価格で登場したRT100iは、ルータを中小企業の手の届くものにした。ちなみに当時は「手軽いルータ」というキャッチフレーズが使われていたという。
さらに、ドキュメントやサポートなどが当然ながら日本語であり、コンソールでも日本語が使えることも、中小企業にとってハードルを下げた。発売当初から「rt100i-usersメーリングリスト」というユーザーコミュニティを立ち上げたのも、利用を促進した一つだろう。なお、rt100i-usersメーリングリストは現在でも、ヤマハルータの情報交換の場として続いている。
RT100iの後継としては、1997年にRT102iが発売。標準価格はさらに購入しやすい15万8000円となった。この「RT10x」という製品ラインは、小規模・SOHO向けルータとして、ほかのシリーズの要素を取り入れつつ続き、RT107eを経て現行のRTX810に受け継がれている。
また1996年に発売されたRT200iは、RT100iの上位機種に位置付けられ、複数回線を収容するセンター用ルータとして登場した。この製品のポジションは現在、センターVPNルータ「RTX3500」「RTX5000」に受け継がれている。
個人・SOHOに向けたRT80i・RTA50i
1996年には深夜限定のISDN定額サービス「INSテレホーダイ」が開始されている。こうした背景から、1997年の春には、「個人向けISDNルータ」として、NTT-MEの「MN128-SOHO」や富士通の「NetVehicle-I」が登場した。従来のルータ製品よりもかなり安く、標準価格ベースで6~7万円といった価格、WebによるGUI設定で、個人向けISDNルータの市場を切り開いた。この市場は各社とも狙っていたものと思われ、いくつかのメーカーから次々と製品が発売された。
ヤマハも1997年10月に「RT80i」を発売し、個人・SOHO向けISDNルータ市場に参入した。標準価格は6万6800円で、WebのGUI設定を装備。アナログポートを装備して、電話やFAXを接続する機能も備えていた。
1998年には、同じく個人・SOHO向けISDNルータの「RTA50i」が発売された。RT80iが、RT102iなどとも共通する、平たい通信機器らしい外観なのに対し、RTA50iは104×130×131mmのほぼ立方体のスタイルと、“ヤマハらしさ”を表現するためにピアノをモチーフとした、鏡面塗装された黒い色を採用。企業向けとは一線を画したデザインとなった。
また、RTA50iにはサッカーチームの中で、その要として自由に動き回り、フレキシブルな活動を行う“ボランチ”のように、電話とインターネットを自由に操ることができる姿をイメージし「ネットボランチ(NetVolante)」という愛称が付けられた。ネットボランチの愛称はその後も個人・SOHO向けルータのブランドとして受け継がれ、2006年発売のRT58iまで続いた。ネットボランチの名は直接は付けられていないが、現行のNVR500もRT58iの後継機種であり、「NVR」は「NetVolante Router」であるとも言われている。
ブロードバンドVPNルータの先駆けRT140e
ヤマハは1997年より、法人拠点用途をコンパクトな筐体で実現するRT140シリーズを展開した。色は、想定利用環境のオフィスにマッチする白である。
RT140シリーズは、搭載WANインターフェイスの種類により、RT140i、RT140e、RT140f、RT140pがラインアップされた。特にRT140eは、100BASE-TX/10BASE-Tのイーサネットポートを2ポート、ISDNポートを1ポート搭載する、当時としては大変珍しいルータ製品として話題になった。ブロードバンド回線、VPN(IPsec)機能とISDN回線を操ることでインターネットVPNやISDNバックアップソリューションを実現でき、ブロードバンドVPNルータの先駆けともいえる存在なのだ。
なお、RT140シリーズでは、シリーズ感を出すためにメインカラーは白で統一されているが、モデルごとの識別性を高めるためにトレードカラーが設定されていた。ヤマハのコーポレートカラーである紫(=ヤマハバイオレット)が割り当てられていた、RT140eへの期待が感じられる。
トレードカラー | 発売 | 100BASE-TX/10BASE-T | ISDN(BRI) | ISDN(PRI) | |
RT140i | 青 | 1997年10月 | 1 | 2 | 0 |
RT140e | 紫 | 1998年5月 | 2 | 1 | 0 |
RT140f | 橙 | 1999年2月 | 2 | 2 | 0 |
RT140p | 緑 | 1998年5月 | 1 | 2 | 1 |
【お詫びと訂正】
- 初出時、RT140pの発売時期を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。
VPNルータのベストセラーとなったRTX1000
そして2000年には、東京めたりっく通信により、商用ADSLサービスがスタートした。その後、フレッツ・ADSLやイー・アクセス、アッカ・ネットワークなどが次々にADSLサービスに参入。2001年にYahoo! BBが登場するに至って、個人にまでADSLが普及する「ブロードバンド時代」となった。
ヤマハは、RT140eで培ったブロードバンド回線のインターネットVPNとISDNバックアップソリューションを引っ提げ、このブロードバンド時代に対応した新世代の企業向けルータ「RTXシリーズ」の第1弾として、2002年に、VPNルータ「RTX1000」を満を持して投入した。標準価格は11万8000円。最大スループット100Mbpsの高性能と、中小企業でも導入しやすい価格、高い信頼性などから、ベストセラー機となった。
RTX1000の特徴を振り返ってみよう。なお、後のファームウェアアップデートにより追加や向上となったものも含んでいる。
まず性能。RTX1000は100BASE-TX/10BASE-Tのイーサネットポートを、LAN1~3の3系統(WAN側も含む)に計6つ装備しているが、その規格値である100Mbpsの最大スループットを実現した。VPNでのスループットも最大55Mbps。さらに、一連の通信をフローとして処理することで高速化する、ファストパス機能も備える。
WANとの接続では、イーサネットポートのほかに、バックアップ回線接続用としてISDNポートも搭載。自動での切り替えと復旧の機能も持ち、当時まだ発展途上だったブロードバンド回線の障害に対応した。この機能によって、2003年には、NTTコミュニケーションズの「OCNビジネスパックVPN」のオプション「バックアップ機能」用ルータとして、RTX1000が採用されている。
一方、個人向けのネットボランチシリーズで使われていたWebブラウザによるGUI設定を、企業向けルータでも採用した。初期設定こそコンソールからの設定が必要だが、基本的な設定であれば、GUIから各種ネットワーク設定ができるようになった。これにより、多くの拠点に設置されたVPNルータがあっても、情報を把握する際の負担が軽減したという。
そのほか、IP電話と共存するためのSIP-NAT機能も搭載。オフィス拠点を結ぶVPNルータならではの機能といえる。
外見は、RT105i(2001年発売)に始まる青い筐体デザインを踏襲。ファンレスで動作するのも、オフィスに設置しやすい点だ。
こうした仕様面のほか、信頼性への評価も高い。RTX1000に限らずヤマハのネットワーク製品のユーザー(筆者も含む)に話を聞くと、異口同音に「壊れない」「安定して動き続ける」といった声が返ってくる。
また、RT100iのころからファームウェアアップデートや設定のサンプルなどをインターネット積極的に公開してきたことや、国内メーカーでありユーザーコミュニティ活動に積極的である近さも、信頼感と安心感の醸成に一役買っている。
2005年には、RTX1000の後継としてRTX1100を発売。ポートや外見、機能などは原則的に踏襲し、VPNのスループット(最大100Mbps)やQoSの性能向上がはかられた。
そして2008年には、現行製品であるRTX1200を発売した。企業オフィスでのGigabit Ethernet(GbE)の普及にともない、すべてのイーサネット端子がGbE化された。スループットは最大1Gbps。互換性を重視しつつ、外見は少し変更が加えられ、端子類が前面に配置された。また、3系統のLANポートのうち、LAN側に使われるLAN1が8ポートに増えた。WebによるGUI設定も、初期状態から使えるようになった。
こうした変更は行われたものの、既存ユーザーが安心して使われるように互換性が重視されていることもあって、後継機種もRTX1000と同じように導入され続け、ベストセラー機として親しまれた。
こうした血を受け継いで新しく登場するのが、今回発売されるRTX1210だ。その詳細については、次回以降で詳しく解説していこう。