特別企画
読者の質問からみる、ヤマハ ネットワーク機器の今とこれから
(2015/10/13 06:00)
ヤマハが1995年3月に初代の法人向けのISDNルータ「RT100i」を発売してから、2015年で20周年を迎えた。その後、RT102i、RT103iと順調に進化を続ける一方で、RT80iやベストセラーとなったNetVolante(ネットボランチ) RTA50iのような、SOHOや一般コンシューマに向けた製品、法人拠点用途向けのRT140シリーズ、ブロードバンド時代に対応したRTX1000シリーズなど、さまざまなラインアップが提供されてきた。
そうした中で、「あの機能はなぜこの機種にないのか?」「この機種の後継はもう出ないの?」といった疑問を持っている読者も多いだろう。そうした疑問を直接ヤマハの担当者にぶつけてみたので、本稿ではその結果をお届けしよう。
ネットボランチの位置付けは?
登場した当初は、SOHO・コンシューマ向けに位置付けられていたネットボランチシリーズ。1997年に前身となるRT80iが登場した当時、市場は立ち上がりつつある時であり、価格競争はまだ激しいものではなかった。
その後、ISDNルータの価格が下がり続けたのに対し、ネットボランチシリーズは機能の拡充に力を入れ、価格は維持してきた。ブロードバンド時代になってからもそれは同様で、今では拠点向けVPNルータの代名詞とも言える製品として市場に認知されるようになっている。
そこで、こういう質問が寄せられた。
- ――ネットボランチにIPsecは搭載しないのでしょうか?
- お客さまからの要望をお聞きしつつ、製品戦略的なところでNVRの上位機種や音声系のニーズを気にしています。その中で可能性があれば、でしょうか。ひかり電話とIPsecとの併用といった市場の成立性も踏まえねばなりません。
- ――ネットボランチのシリーズで、アナログポートが3ポートから2ポートへと減ってしまったのはなぜでしょうか?
- 利用シーンの広さと提供価格のバランスの結果です。アナログポートの数は選択するLSIの選択に依存して、コストに大きく影響します。製品コストはお客さまへの提供価格に直結します。ネットボランチのラインアップは1機種、と考えた時に、3ポート目の利用シーンも認識はしているのですが、やむなく2ポートにせざるを得ませんでした。
RT140シリーズの系譜は生きている?
ISDNルータの時代からブロードバンドルータの時代まで、長く製品を提供していると、過去にあった機能やラインアップがなくなることはよくある。例えば、RT10xシリーズの上位として提供されていたRT140シリーズは、現在では存在しない。非常に特徴のあるシリーズだっただけに、惜しまれるところだ。直接の後継となるラインアップは絶えてしまっているが、今後の復活を含めてどうなるのか、読者としてもそれは気になるところだろう。
- ――(RT140iのような)BRI×2ポートのモデルは、もう出ないのでしょうか。
- RTX1500がありましたが、後継機をご用意できていませんね。ISDNは今後なくなる前提なので、新しいモデルは考えにくいでしょう。現在では例えば、RTX3500のBRIモジュールの増設をご検討いただく形でしょうか。
- ――RT105eから、RTX1000やRTX2000といったモデルへ転換したのはなぜでしょうか?
- 当時のブロードバンドを実際に活用されていたお客さまからもヒントをいただいています。
- ブロードバンドサービス回線の帯域が増える一方でその安定性に確証を持てない、そうした時に、ブロードバンドの利用に加えてISDNによるバックアップを実現していたお客さまがいらっしゃいました。
- このバックアップ構成を1台の小型筐体で実現できないか、そうしたアイデアもあって、RTXシリーズが生まれました。われわれのニーズにも合ったネットワークプロセッサを選び、市場からの高まり続けるスループット性能への要求に応えつつ、コストとのバランスを取るべく誕生したモデルでした。
各製品の機能差も考えられている
また、普及価格帯のモデルとしては、ネットボランチの系譜を受け継ぐNVR500の上に、RTX810、RTX1210の各製品が提供されている。例えばNVR500とRTX810はLAN/WANが2系統、RTX1210は3系統といったように、それぞれの製品には機能差があるが、これらを今後どう差別化していくかも気になるところで、次のような質問が来ていた。
- ――LAN3系統を標準にはしないのでしょうか。
- お使いいただく利用シーンに合わせたラインアップを、それぞれの価格帯で準備するということから、この形に落ち着いています。今は各モデルそれぞれが、適切に市場で選択いただけていると考えています。
- 今後はわれわれからの提案やお客さまの利用シーンに応じて、変わっていくかもしれませんが。
- ――RTX810に、RTX1210のようなダッシュボード機能が追加されることはあるのでしょうか?
- 既存機種への機能追加は製品の特徴付けにもかかわりますので、さまざまな要素を踏まえて判断する必要があります。ダッシュボードについて言えば、次の世代で検討するつもりです。
トレンドに応じて機能追加を進めてきた
ヤマハルータの特徴として、IPv6対応が古くから充実していた点も挙げられるだろう。これはなぜなのか、という質問も当然のようにあった。
- ――IPv6対応が早かったのはなぜでしょうか。
- 製品開発にかかわるチームが社外研究プロジェクトに直接参加する、そういう素地があったからでしょう。当時からWIDEプロジェクトに参加していましたので、IPv6への要望を製品開発者が直接受けて、試作や共同研究にスムーズに進みました。実証実験をしていただける場も多くありましたので、実装も進みました。
- IPv6に初期からかかわる方々には、小型でIPv6が動くルータとして、ヤマハは重宝していただいたようです。
またヤマハでは、今後ますます増えるであろう、パブリッククラウドとオンプレミスの接続設定についても、情報を公開している。
これに関しても質問が来ていた。
- ――クラウドへの接続設定も掲載していますが、まだまだ少ないのでは。今後、拡充していきますか?
- 今はまず、声がかかったところに対応している状況です。クラウドとの接続利用も十分意識しているので、ニーズに応じてもちろん増やしていきます。
確かに現状の数では、ちょっと寂しいところもある。パブリッククラウドの利用が進む一方で、クラウドと接続するためのVPNへのニーズもまた高くなっているだけに、今後の対応に期待したいところだ。
ルータだけでない、ヤマハのネットワーク機器
ヤマハのネットワーク機器といえば、まずはルータが最初に来る。しかし今では、2代目となるファイアウォール「FWX120」や、スイッチ製品群を3シリーズ提供するなど、その提供範囲を広げつつある。それらに関する質問も寄せられた。
- ――FWX120の後継機の予定はありますか?
- お伝えできる具体的な予定はありません。まだFWX120でもやらなければいけない機能がたくさんあるので、頑張っているところです(笑)。
と回答されたように、FWX120は発売後も機能が拡張されており、つい最近も「メールセキュリティー」ライセンスが提供されたばかりだ。
- ――スイッチで、48ポートモデルを提供する可能性は?
- 段階をおいてバリエーションを増やしていくつもりですので、付き合っていただけるならお待ちいただきたい、というのが本音です(笑)。もう二歩先くらいでしょうか。
- LANマップの機能もお客さまとのコミュニケーションでわかってきたことですし、今のラインアップをベースにして、LAN製品へのニーズをお聞きしていきたいですね。
- ――スイッチとルータはなぜ色をそろえなかったのでしょう。
- スイッチはネットボランチと同じ黒を選びました。ファイアウォールの赤や無線LANアクセスポイントの白など、それぞれのモデルラインのイメージとなる色を、利用シーンも考慮した上で選ぶようにしています。
- ちなみにルータのトレードカラーとしては当初、ヤマハ(のコーポレートカラーである)バイオレットにしようという話があったのですが、色の調整の難しさもあって今の色に落ち着いています。微妙に紫っぽいのはそのせいですね。
- ネットボランチでは半透明な黒を採用したこともあります。デザイン的な特徴と、LEDランプの基板レイアウトの自由度を高める技術的なメリットを両立させていました。前面下半分の黒を半透明にしたRT105シリーズなどの青色モデルも、同じ目的ですね。
スイッチも2015年にSWX2300シリーズとSWX2100シリーズが追加され、3シリーズへとラインアップが拡張されている。今後とも、ニーズをくみ取りつつ、ラインアップを増やしていくのだろう。
ヤマハがやる以上、何ができるかを真剣に考えている
最後に、ひょんなところから、ヤマハが目指す方向性の話になったので、そちらをお伝えしよう。
- ――RTシリーズでBGP4+対応は予定していますか?
- ニーズを見ながらですね。ユースケースも重視して次に取り組むことを決めているので、ニーズがあれば検討していきます。
- お客さまの声は常に大事にしていますが、今はさまざまなメディアを経由して多くの声が自由に入ってきます。そうした大量の声の中から、いかに次につながる声を拾うか、そしていかに効果的に世の中にリリースするか、それが今の課題でもあります。
- 時代にあわせた性能向上を進めてきていますが、ルーティング処理だけにすべてのCPU能力を使う時代でもないと考えています。実際に多くのお客さまが使う回線との兼ね合いで、機器に望まれる性能が決まるとも考えています。そうした意味では、回線に対して必要十分な基本性能を出しつつ、プラスαの選ばれる理由を作りこんで、そこに力を使いたいと考えています。
- 例えば、操作性などはしっかり作りたい。性能測定器で測った、いわゆる"チャンピオンデータ"を比較しても、お客さまにプラスにはならないのではないでしょうか。装置側の作りこみで任せられるところは任せていただいて、ご利用していただくお客さまはより高度な別の仕事に時間を割いていただく、そういう形も理想のひとつです。
- 単にやるだけでは意味がない。ヤマハがやる以上、何ができるかを真剣に考えています。その形の1つが、LANマップ機能です。
ヤマハは、ほかのネットワーク機器メーカーのように、次から次へと新製品を提供するということはせず、じっくりと、数年をかけてラインアップを整備していくのを常としている。そして、新製品が登場するたびに、インパクトのある機能を提供してきた。
今後も、ヤマハのそうした姿勢に期待したい。