特別企画

子どもの学ぶ意欲への影響は?――筑波大附属小の公開ICT授業を見てきた

 6月5日~7日に有明の東京ファッションタウンビルで「NWE EDUCATION EXPO 2014」が開催された。中でも特に、6月7日(土)に行われた、筑波大学附属小学校のICTを使った公開授業にひときわ注目が集まっていた。

 公開授業では、5年生の生徒が国語・算数をICTを活用して学習する様子が、多くの学校関係者や報道陣に公開された。ポイントは、生徒の理解にICTがどう影響するか。公開授業の後には有識者による振り返りセッションも行われた。

 本稿ではそれらをまとめつつ、公開授業の様子をレポートしたい。

国語「説得力のある資料の使い方」を学ぶ

 制服に身を包んだ生徒40名が着席すると、まずは国語の授業からスタート。教師は青山由紀先生(同校では学級担任制ではなく教科担任制を採用している)。

 授業の内容は、「天気を予想する」という教材を使用した文章読解。天気予報が科学技術の進歩や国際協力に支えられていることを示し、後半で科学的データだけでは予想できない現象に触れ、技術が進歩しても人間の経験や知識は必要であると説明した教材だ。

 学習目的は、説明文から筆者の意図を読み取る「読む力」と、資料などを引用して相手に伝える・説得する「書く力」を養うこと。

 説明文には、図表・写真などの9つの資料が使われており、公開授業前にあらかじめ、生徒それぞれに一人読みさせた上で「大事だと思う資料ベスト3」を選ばせていた。さらに公開授業にて説明文を読み解き、筆者の意図を読み取った後で、あらためて筆者の立場で「ベスト3」を選びなおさせるのが、今回の1つの目的となる。

9つの資料

 この狙いについて青山先生は「子どもたちにとっては資料はあればあるほどいいものらしい。調べ学習をしても、引用や資料をたくさんつけてくるのだが、本当に伝えたいことを伝えるために、これだけは外せないというものを取捨選択できる力が必要になってくる。そこで筆者がなぜこの資料を使ったのかを考えるのが目的」と語る。

 また、説明文の中で「問題提起」「事実」「筆者の意見」の部分に色分けしてサイドラインを引くといった課題も事前に与えられていた。事実と意見を読み分ける力を養うのが目的だ。生徒はWindowsタブレット内の電子教材にあらかじめマーカーを引いており、公開授業は、その内容を電子黒板に写しながら、生徒に「ここに線を引いた理由」を説明させたり、それについて他の生徒の意見を聞いたりと、ディスカッション&プレゼンテーション形式で進められた。

公開授業の様子
先生は電子黒板(インタラクティブ性)とホワイトボード(全体の俯瞰やまとめ)をうまく使い分けながら
電子黒板で先生もマーカーを引きながら説明できる
ペンツールを活用
生後が前に出て発表

 生徒が電子黒板の前に出て発表すると、それを受けてほかの生徒が補足や意見を述べる。子どもたちは最初に書き込んだマーカーなどを都度修正しながら、説明文に込められる筆者の思いと資料の関係性などを学んでいく。

 青山先生は「タブレットを使うメリットは、この“何度も書き換えられる”という点。紙の教科書でやるとぐちゃぐちゃになってしまう。最初の書き込み状況を保存し、修正後も保存しておけるので、後から自分の考えがどう変化したか確認できるのもデジタルの良さ」と語る。

元気よく挙手

 公開授業をみていて、印象的だったのが「生徒の挙手率の高さ」だ。同校の教育方針にもよるのだろうが、青山先生によれば「というよりも、紙に書き込む場合と違ってデジタルは何度も書き直せる(トライ&エラーができる)ため、間違いを恐れず発表する気になるのでは」という。これもデジタルの良さだろう。もしかすると「間違いを受け入れる勇気」も育まれているのではないだろうか――?

 授業は、生徒の洞察が予想以上に深く、意見が細部におよんだため、「相手を説得する提案文を書く」ところまでは辿り着かずにタイムアップとなった。しかし、振り返りセッションで青山先生が面白いデータを提示してくれた。

 授業前に生徒に選ばせた「大事だと思う資料ベスト3」では、数値のあるグラフなどが人気で、「空と雲の模様」を収めた写真はただのイメージのように思えたのか不人気だった。ところが教材の文末で「天気予報も100%の的中は難しい」と指摘され、「空や風を感じることを忘れないようにしたい」と筆者の考えが述べられると、公開授業後の再投票では、その考えが反映されていると思われる「空と雲の模様」の写真を選ぶ生徒が増えたという。

(川島 弘之)