特別企画

子どもの学ぶ意欲への影響は?――筑波大附属小の公開ICT授業を見てきた

ICT教育の可能性~公開授業を振り返って

振り返りセッションの様子

 今回の算数の授業は、ICT教育の好例ともいえる内容だったという。「他の図形も試したい」「形を変えてみたい」「~したい」という子どもの気持ちが次々と溢れていたためだ。子どもたちがICTの仕組みを理解すると、その仕組みを使って自分たちで新しい学び方を見つけていく。その良さが存分に表れていた。

 振り返りセッションでは、筑波大学附属小学校元教諭、國學院栃木短期大学前教授の正木孝昌氏が「どのような子どもを育てたいかというと、“対象に働きかけられる子ども”。図形を動かしたり、形を変えたりというのは対象に働きかけることで、それがICTを使うと簡単にできる」とコメント。

 算数担任の中田先生も「ICTで授業といったときに最初に思いついたのがこの単元だった。模造紙で図形を手作りするのは大変で、八角形なんかは作っても正確に作れない。それがコピー機能で簡単に図形を複製できるICTだからこそ可能な授業」と述べる。

 国語担任の青山先生も「間違ったら間違ったで直せるので、現時点で分かっているところから取り組める。反転授業で予習させなくても、その場でまず分かるところから取り組んで、書き足したり、消せたりできるのがメリット。友達同士で見せ合って自分の表現を入れて説明したり、マインドマップで思考を促すツールとしても利用できる」とコメント。また「授業内容を電子黒板で一斉提示するなど、授業をテンポアップできるため、授業に余裕が生まれ、子どもたちが考える時間を多く取れるようになったのが最大の利点」とも話している。

生徒はまっさらな紙の教科書を見たり
隣とも話し合ったり
マインドマップで子どもたちの思考を促進

 タブレットは動的なツールとして、「(文章などを)読む」「(映像などを)見る」「(音声や音楽を)聞く」「(文字や文章を)書く」「(ラインなどを)引く」「見せる」「撮る」「動かす」「大きくする」「(友達のタブレットなどに)送る」「保存する」といった11の活用方法が挙げられる。

 もちろん、デジタルでなくてもできるものもあるのだが、「撮る」「動かす」「大きくする」「保存する」はデジタルでなければできない。子どもの理解を深めるという意味では、これら新しい機能が教育ICTの最大の可能性といえそうだ。

 ただし、ICTと従来のアナログツールの使い分けが重要だと正木氏は語る。「気をつけなければいけないのは、ICTが手軽に使えるからといって(まとめの)説明までこれを使ってしまうと、子どもの頭の表面をすーっと通り過ぎるだけで、腑に落ちないまま終わってしまうことが多い。やはり、最後には子どもに手を動かせ、書かせることが重要だと強く感じている」。

 青山先生も「タブレットであれこれ書き直した最後の結果を、紙の教科書に書き取らせることは絶対にやらなければいけないこと」と強調している。

 それでも今回、ICTが子どもの理解を深める役目を十分に果たしていると強く感じた。子どもたちはタブレットを使いこなし、図形の形を変えるなどして、自分たちで新しい学びを考え出していた。変化の少ない画一的な授業のみだった一昔前と比べると、学習の様子はまさに様変わりしている。そして何よりも、こうしたツールを使うことが子どもたちにとっては楽しいことなのだろう。公開授業でも生徒の表情などから、「楽しさ」が「学ぶ意欲」になっていると感じられた。学校ICTはその導入方法や運用についてはまだ課題も多く、試行錯誤が続けられている段階だが、少なくとも学習効果については疑う余地はなさそうである。

タブレットは動的なツールとして11の活用方法が挙げられる。中でも「撮る」「動かす」「大きくする」「保存する」はタブレットならではの活用方法となる
あくまで「One of themのタブレット」だと意識することが重要

川島 弘之