特別企画

富士通が生産するメイド・イン・島根パソコン 「匠」の技を支える数々の取り組み

~日本に工場を置く意味

 富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)は2月、島根県出雲市にあるパソコンの生産工場、島根富士通を公開した。

 具体的な時期、詳細は明らかにしていないものの、富士通はパソコン事業をレノボと事業統合するべく準備を進めている。その中で、国内に開発拠点、製造工場、修理拠点、コールセンターといった機能を国内に持っていることを、「すべての機能を国内に集結するバリューチェーンを持っていることこそ、富士通ならではの『匠』の技を支えるベースとなっている」(FCCL 代表取締役社長の齋藤邦彰氏)とアピールする。

FCCL 代表取締役社長 齋藤邦彰氏

 今回は、島根工場で進めている少量多品種生産を効率的に行う仕組みを紹介し、さらに富士通のPC事業の歴史、新しいコンセプトの試作モデルの紹介、PCに付加価値を提供する仕組みやソリューションなど、富士通のパソコン事業の底力と、日本に工場を置くことの必要性を報道陣に訴えた。

 本稿では、その模様をレポートしよう。

島根富士通

FCCLの1周年で、核となる工場を公開

 現在、世界各国のパソコンをはじめとしたデジタルデバイスを生産する工場は、デジタル業界の中で存在感を増している。生産現場には情報、技術が集まる。メーカーに変わって生産を請け負っていた工場を運営していた企業が技術力を持ったことで、大きな力を持つようになった。中には、メーカー以上に大きな影響力を持つ企業も出てきている。

 FCCLは、2016年2月に富士通からパソコン事業を分離独立して誕生した。

 現在、富士通のパソコンは、島根工場でノートパソコンを、福島県伊達市にある富士通アイソテック本社工場でデスクトップパソコンを生産している。さらに、海外の協力企業で量産モデルの生産を行い、日本の工場では付加価値の高いモデルの生産や受注生産、キッティングなどのサービスを提供している。

 つまり日本にある工場は、日本企業の要望に応じた仕様で生産を行い、短納期を実現する、日本企業を支える拠点として利用されているのだ。

 今回、設立から1年を迎えるにあたり、報道陣を生産現場である島根富士通に招き、あらためて日本に工場があることの意味をアピールする狙いがあったようだ。

 島根富士通は、A棟、B棟の2棟からなる。A棟2階、B棟2階で製品の組み立てなどの作業を行い、A棟の1階ではプリント基板製造など、B棟1階ではカスタマイズ・キッティング、製品評価などを行っている。

 今回、島根工場の取り組みとして、次の4つが挙がった。

1)混流生産=異なる製品を1台ずつ
2)見える化=IoTの活用
3)自動化=人と機械の協調生産
4)カスタマイズ=導入サポート

 富士通 執行役員専務の河部本章氏は、工場見学を前に島根富士通について次のように説明する。

 「島根工場は、富士通の生産ラインの中でも最高レベルのもの。特にFCCLでは、カスタマーごとにきめ細かなカスタマイゼーションができる生産ラインを実現している。ぜひ、今回の展示の中でこの点を注意してみていただきたい」。

富士通株式会社 執行役専務の河部本章氏

 この「カスタマーごとにきめ細かなカスタマイゼーション」を体現しているのが、1)の混流生産だ。パソコンの組立ラインを見ると、ノートパソコンを生産しているラインと思いきや、次に組み立てるのはタブレットといった具合に、1つのラインで1つの製品だけを生産しているのではなく、さまざまな製品を組み立てている。当然、担当スタッフの作業負荷は高まることになるが、あえてこの方法を選択している。それは次の理由によるものだ。

 「スタッフには高いスキルが必要になる。だが特定製品だけを生産するラインの場合、別の製品を生産する際にラインの組み替えが必要になる。ライン組み替えにかかる時間は無駄な待ち時間であり、その時間を減らすために、スタッフが負荷を取る方法を選択した」と工場の担当者。

 スキルのあるスタッフがそろっているからこそ実施できることだが、スタッフの負担を減らし、ラインの組み替えをできるだけ減らすために、部品の共通化など、組み立て行程の負荷を減らす努力はいろいろと行われている。

混流生産で、生産ラインには、ノートパソコンの隣にタブレットといった具合にさまざまな製品が並ぶ

 また、混流生産を支える取り組みのひとつが、2)のIoT活用による見える化だ。製造ラインに影響をおよぼす不具合品が発生した時は、不具合品を修理行程に回すことになるが、修理行程の優先順位を可視化し、どこに修理品があるのかを表示する。

 修理工程内の仕掛け状況を可視化し、作業優先順位を可視化することで、修理工程内のリードタイムが20%短縮した。このリードタイムの短縮により、出荷遅延も短縮することにつながり、輸送コストも30%削減も実現したという。

工場内の修理行程内の状況を視覚化したもので、グリーンで表示されているのは工程別仕掛り数。オレンジで表示されているのは当日出荷の装置があるものを表示。作業優先順位を見える化することで、修理行程のリードタイム短縮が実現している
生産ラインで異常があった場合には赤でその場所を表示。その時のステータスも表示される

 IoTはこれ以外にも、ネットワークカメラで工場内の作業工程を撮影。製造時刻にひも付いた同期情報で相関分析を行い、エラーの瞬間をとらえて、障害発生の真因を追求する取り組みも行われている。さまざまな見える化によって効率的に、障害発生を抑えるための取り組みが行われている。

ネットワークカメラで撮影した画像データと、試験ログによる相関分析で障害発生の真因追求も行っている

ITを活用した自動化の取り組みが進行中

 生産ラインの強化のために進められているのが、ロボットアームなど機械導入によって人と機械が協調生産を行いながら実現する、3)の自動化である。生産ラインのあちこちにロボットアームが取り入れられている。

 ただし、「人が機械の番人にならないよう、人が機械を待って作業を止めることがないようなライン作りを行う」ことを徹底している。

ラインによっては、人がほとんど介在しないでロボットアームが動いている箇所も

 現在、ロボットアームによる生産は第2世代。第1世代では2種類のネジ締め、ゴム足の取り付けを行うにとどまっていたが、第2世代では力覚センサーを搭載し、板金組み付け、基盤嵌め込み、カバー勘合とできることが増えた。力覚センサーによって、人と同等の力加減で挿入誤差を自動補正することができるようになり、生産性は45%向上した。

人と機械の協調生産も進んでいる。現在は第2世代となり、ロボットアームの組み立て内容も進化している

 機械による自動生産を行う際には、「VPS(Virtual Product Simulator)」を活用による、「ものを作らないもの作り」が進められている。実際にロボットアームを稼働させるまえに、製造の様子を3次元シミュレーションすることで、実機を稼働させた時と同等の検証が行えるようになった。その結果、ロボットアーム同士の干渉を考慮したロボットの動作をプログラミングで実現することが可能となり、プログラムの作成機関が20%短縮した。

 VPSの活用は、生産現場のプログラミングだけでなく、設計段階から行われている。設計段階で問題点を潰しこむ「DFM(Design For Manufacturing)」を活用。組立性、ケーブルフォーミングなどを開発段階で検証し、開発現場、生産現場が情報共有することで、生産準備効率化と作業理解度の向上を実現する。

 組立手順書はVPS化し、組立手順書作成にかかる工数を30%削減した。さらに、VPSアニメーションによる作業指導によって、理解度の向上、作業指導にかかる時間が短縮するといった効果も出ている。

VPSの活用は設計段階にも及び、設計段階から生産を意識したシミュレーションが行われている

 自動化は、プリント基板生産でも実現している。島根富士通では少量多品種生産を行っているが、プリント基板生産にも少量多品種生産は必要になる。いかにコストを抑えて少量多品種生産を実現するかという課題を解決するために、R&D連携と設備改善を実施。さらに、部品の共通化率は67%、基盤サイズ種は60%削減によって、無人での段替え(生産製品の変更)を実現している。

 さらに各設備でQRコードを読み込むことにより、装着データ変更の自動化、レール幅の変更を自動化。プリント基板を少量多品種生産する際の手間やコストを抑える取り組みを進めている。

 プリント基盤生産ラインの横には、元々は牛乳の自動販売機だったものを改造したという、半田ペーストの自動販売機が設置されている。半田ペーストには消費期限があるため、古い物から順繰りに使っていく必要がある。壊れていた牛乳の自動販売機を改造することで、適正な温度で保存しながら、古い物から順繰りに使うことができる、きちんと在庫管理を行うことに成功したのだという。

プリント基板の生産ライン。効率的に多品種少量生産を行うために、内部はさまざまな部分に手が加えられている
牛乳の自動販売機を改造した半田ペーストの管理庫「販蔵君」

 島根富士通は、トヨタ自動車の工場からスタートしている「改善」を取り入れた工場だ。欧米でIoTなどを活用した新しい工場が登場していることから、日本型の改善に対しては厳しい批判の目もある。

 「日本の工場は、改善を行うことが目的化しているのではないか?」という見方だ。しかし、島根富士通の取り組みを見ていると、決して改善が目的とはなっていないと感じた。IoTなど新しい試みを取り入れながら、日本流の改善活動を進めている。

 「日本型改善の限界?実際に工場で働いていると限界が来ているとは思いません。もっと改善できるポイントはいろいろとあると思います」

 工場で働くスタッフに、「日本型の改善には、限界が来ているとの指摘もあるが?」と尋ねると、上記のような答えが返ってきた。確かにテクノロジーを活用した改善は、まだまだできるところがありそうだ。

 各製品に必要な部材を取るストアピッキングの仕組みでは、間違いのない部材ピッキングを行うことが不可欠となる。そこで従来は必要な部材を表記した紙をつかって伝達していたが、これをモバイル端末に切り替え、ペーパーレス化と、RFIDを活用することでミス撲滅に取り組んでいる。従来に比べればミスは減っているという。

製品に必要な部材は部材を運ぶ担当者の腕についたバーコードリーダーで読み取り、正しい部材をピッキングするストアピッキング
2つの画面を見比べると、間違ったものを取ると「アドレスが間違っています」とアラートが出ていることがわかる

 4)のカスタマイズは、従来から行われている、ユーザーからの要望に応じた仕様にするカスタマイズやキッティングに加え、ユーザーの要望に応じた外装を行うサービスもスタートしている。これはインクジェットプリンタを使って、パソコン本体をユーザーの要望に応じて塗装するものと、短期間だけデザインを変更するためにシールを貼って対応するものの2通りがある。

シールを貼ってオリジナルデザインを実現した例。シールを剥がせばデザイン無しのパソコンに戻すことができる
インクジェットプリンタを使ってパソコン本体に塗装した例。天板だけでなく、横の部分までプリントすることも可能となっている

 企業や団体が所属するスタッフ向けにオリジナルデザインのパソコンを提供することや、イベントの際にスタッフ共通のパソコンを使用することが可能になる。また、オリジナルキャラクターを持っている企業が、そのキャラクターがデザインされたパソコンを再販することも可能になるという。

 島根富士通の代表取締役社長である宇佐美隆一氏は、「匠というとクラフトマン的な印象があるかもしれないが、我々が目指しているのはもっとプロセス的な、世の中を変え続けることをいかに組織として実現できるか。その積み重ねによってイノベーションが実現できる」と目先の工夫だけではない、大きな変化を実現する組織を目指していると話す。取り組むべきことはまだまだあるということのようだ。

株式会社島根富士通 代表取締役社長 宇佐美隆一氏

セキュリティ、文教などハード支える仕組みを用意

 今回、ハードウェアとともに、パソコンと一緒に利用する仕組みや技術も紹介された。

 1月に行われたパソコンの新製品発表会の中でもアピールされたセキュリティは、手のひら静脈認証、リモートデータ消去、秘密分散方式ソフト、離席検知による画面オフという4つのセキュリティソリューションを用意している。

離席検知による画面オフソリューション。他人が後ろにいて画面を盗み見している状況ではアラートを出す

 6.0型でフルWindowsを搭載したハンディタブレット「ARROWS Tab Q737/P-PV」では、画像読み取り機能を利用することで、病院では薬剤や患者情報をバーコードで読み取り、流通業では注文書の画像読み込み、物体そのものを識別し、分類することも可能となる。タブレットとしても、6型だけでなく、13インチ、10インチと用途に合わせて選択することも可能だ。

 文教向けには、堅牢さを実現したタブレットを提供するほか、クラウドから必要な情報をダウンロードし、授業に必要な際には教室内にエッジPCを導入するソリューションを紹介した。動的通信制御技術を利用して、外部からの不正アクセス対策やネットワーク負荷軽減を行っているという。

 なお、この方式では、メンテナンスについてもネットワーク経由で運用サポートを行い、トラブルを未然に防ぐことが特徴となっている。

学校ネットワークには、エッジPCを導入して教材のダウンロード時などのネットワーク負荷を下げ、不正侵入対策とするソリューションを提案。メンテナンスも遠隔地から行うことで、負荷を軽減する

富士通35年のパソコンの歴史と将来のコンセプトモデルを展示

 今回、1階には富士通が初めて発売した「FM-8」をはじめ、FM TOWNS、FMV-DESKPOWERなど、かつての名機が一斉に展示された。これは普段から展示しているものではなく、静岡県 沼津工場にある富士通アーカイブスからわざわざ持ち込んで展示したもの。

FM-8
FM16π
FMV
CD-ROMを搭載したマルチメディアパソコンFM-TOWNS
Pocket PCとOASYS Pocket
FMR-CARD

 齋藤氏は、富士通のパソコンビジネスの歴史を紹介した狙いについて、次のように説明した。

 「1981年に富士通として最初のビジネス市場向けPCを発売したことを皮切りに、1984年には世界で初めてテレビ機能付きPC、1990年には世界発の重さ約1ポンド(約450g)のポータブルPC、世界初のワイヤレスモジュール内蔵PCなど、匠の技を使っていち早く最新技術を取り入れた商品をお届けしてきた。ただし歴史だけではダメで、ノウハウを活かしたベストフィット商品を提案すること、お客さまの要望に応じたオーダーメイドで設計・製造を行い、さらにお客さまが望むリードタイムで対応することが富士通ならではの匠の技だといえる」(齋藤氏)。

富士通パソコンの歴史

 歴史を紹介していた隣には、将来登場する可能性がある新しいタイプの端末も参考出展されていた。

 例えば、2画面を備えたモバイル端末は、実はクリエイター、エンジニアの利用を想定したワークステーションだ。「ワークステーションといえば、デスクトップ型を思い浮かべてしまうが、ベンチャー企業で働くエンジニアは、シェアスペースで作業を行うので、仕事が終われば即片付けることができるワークステーションが必要ということでデザインしたもの」という製品は、実際に発売されれば、大きな反響があるであろう、新しいタイプの製品だ。

 その隣には、やはりクリエイターが利用することを想定したキーボードを画面の上に設置しても、下に設置しても利用できるリバーシブルタイプのモデルが置かれていた。これは、「キーボードを置くスペースがない環境でグラフィック製作を行うクリエイターも多いということから考案されたもの。グラフィック作業中は、キーボードは割り当てられた機能を実行するために利用することが多いため、両手で打鍵できなくても問題はないという。ただし、日常的にはキーボードを打つ必要もある。そこでグラフィック作業が終わった際には、逆さにしてキーボードを利用する。1台で2通りの使い方が実現する製品となる。

 これまでこうしたデザイナーやエンジニア向け製品は、海外製品がイノベーティブなモデルを投入することが多かった。日本発でこうした製品が登場してくれば、日本のパソコンに対する見方が大きく変わってくるのではないだろうか。

 工場での生産改善の取り組みとともに、こうした新しいタイプの製品の市場投入実現を期待したい。

2画面を備えたワークステーションの試作機
上と下、どちらにも使えるリバーシブルキーボードを搭載したワークステーションの試作機
高校生と共同開発している、キューブ型デバイス