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「ネットワークの“聖域化”を排除する」~日本HPがSDN戦略を強化、OpenFlow対応製品を拡充へ

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は8日、SDN(Software Defined Network)を実現するために必要なソリューションポートフォリオを整備すると発表した。既存のネットワーク製品群の位置付けを明確化するほか、SDN実現に向けてソフトウェアなどの強化を順次行っていくという。

SDNとSDDCの実現に向けた取り組みを行ってきた

 昨今の話題となっているSDNとは、ネットワーク機器をそれぞれ個別に管理・制御するのではなく、ネットワーク全体を俯瞰(ふかん)した上で、ソフトウェアによって柔軟かつ一元的に制御しようという考え方。ネットワークは、仮想化への取り組みがサーバーやストレージに比べて遅れていることから、さまざまな立場のベンダーが、SDNによるネットワーク仮想化の実現に向けて取り組んでいる。

 日本HPも、そうしたベンダーのうちの1つだが、常務執行役員 エンタープライズインフラストラクチャー事業統括の杉原博茂氏は、サーバー、ストレージ、管理ソフトウェア、セキュリティなど幅広い分野の製品を包括的にそろえている強みを生かすため、さらに一段上ともいえる、Software Defined Data Center(SDDC)を推進していくとする。

 SDDCは、データセンター全体を集約・仮想化し、アプリケーション実行環境のためのデータセンターへ変革させるというビジョンだが、同社はもともと、サーバー、ストレージ、ネットワーク、冷却などのITリソースを統合・プール化して、必要に応じてユーザーが柔軟に使えるようにする「Converged Infrastructure」戦略を2009年から推進しており、SDDCの考え方はこの発展系ともいえる。

 それだけに、既存の製品ポートフォリオを生かしながら、SDNを含めたSDDCへとすんなり入っていけるとのことで、杉原氏は「当社では、業界標準のメッセージとなってきた“Converged”を言い続けてきた。昨日今日どこかを買収したから急にSDDCだ、というわけでないことを理解していただきたい」という点を強調する。

日本HPが目指すSoftware Defined Data Center
常務執行役員 エンタープライズインフラストラクチャー事業統括の杉原博茂氏

 一方、SDDCの構成要素としてのSDNについても、日本HPはネットワーク管理ソフトウェア「Intelligent Management Center(IMC)」を中心に据え、アプリケーション視点でネットワーク設定を行える「Virtual Application Network(VAN)」の実現に積極的に取り組んできた。

 IMCは、ネットワークスイッチで圧倒的なシェアを持つシスコシステムズの製品を含め、マルチベンダー環境に対応したネットワーク管理ツールだが、ここに「VAN Manager」というアドオンを追加することで、スイッチの設定を容易に行えるようにしている。

 具体的には、アプリケーションに必要な最大・最小の帯域幅、QoS(優先制御)、アクセス制御などといったネットワークポリシーの設定をGUIから行うだけで、コマンドラインを覚えることなく操作可能。しかも、VMware vCenterのような仮想サーバーの管理ツールと連携してこれを行えるので、ネットワーク専門のエンジニアでなくとも扱えるのだ。

日本HPのネットワークビジョン

SDN強化への取り組み

 今回の発表は、こうしたこれまでの取り組みの延長線上にある。まず、前述のVANを拡張し、OpenFlowスイッチを制御できるようにする「HP Virtual Application Network SDN Controller」や、既存セキュリティ製品と連携してセキュリティ対策を総合的に実現する「HP Sentinel Security」、OpenStackと連携してクラウドサービス基盤のネットワーク配備を自動化する「HP Virtual Cloud Network Application」を、2013年下半期に提供することを明らかにした。

 これらについて、サーバー・ネットワーク製品統括本部 インダストリスタンダードサーバー・ネットワーク製品本部の尾崎亨氏は、「クラウド環境の自動化が重要になるため、まずはOpenStackとの連携を実現するほか、ネットワークのセキュリティ確保も求められることから、HP Tipping PointやHP ArcSightとの連携製品を提供する。また、従来利用してきたSNMPなどのプロトコルのみならずOpenFlowをサポートすることで、フロー全体の管理にも対応した」と説明する。

VANのOpenFlowへの拡大やOpenStackとの連携などを実現する
SDNコントローラの実装と連携イメージ

 さらに、コントロール機能の拡充に加えて、コントロールされる側のスイッチについても対応を進めていく。すでに昨年、「業界最多の25機種がOpenFlow Ver1.0に対応し、無償で利用可能。1500万ポートがOpenFlowで稼働している実績がある」(尾崎氏)とのことだが、さらに2013年には、ハイエンドスイッチの「HP 12000 Switchシリーズ」をOpenFlowに対応させるほか、対応するOpenFlowのバージョンについても最新版への追随などを行う計画という。

 「既存のネットワークはベンダー独自の排他的な技術を使い、多くのネットワーク専門エンジニアが支えているために、聖域化されてしまっていたが、当社のネットワークでは、業界標準でオープンな先進技術を提供していく。これによって、サーバーやストレージの担当者と連携できるし、競争原理によってコストも最適化される。またオープンであるため、サードパーティ製品と組み合わせたマルチベンダーによるSDNも実現できる」(尾崎氏)。

OpenFlow対応スイッチのラインアップを強化する
新たにOpenFlowに対応するHP 12504 AC Switch

 加えて今回は、最大8サイトをレイヤ2で相互接続できる「Ethernet Virtual Interconnect(EVI)」、1台の物理スイッチを最大4つの論理スイッチに分割する仮想化機能「Multitenant Device Context(MDC)」を、「HP 12500 Switch」へ無償提供することも発表された。

 尾崎氏によれば、これらの技術を併用すると最大32のテナントを実装できるとのことで、「ラックや建屋の中に“押し込められていた”ネットワークを、フラット化したSDNによって複数サイトへ延伸し、より広く活用することが可能になる」とのこと。

 なお、こうした取り組みを補完するために、日本HPでは40Gigabit Ethernet(GbE)対応機種も拡充していく考えである。

EVIとMDCへ対応

3年以内のシェア20%超えを目標に

エンタープライズインフラストラクチャー事業統括 HPネットワーク事業本部長の多田直哉氏

 このように、日本HPがネットワーク製品の強化へ本格的に取り組み、盛んにアピールしているのは、サーバーやストレージといった他製品との相乗効果があることも理由の1つだが、旧3com製品を取り込みフルラインアップをそろえながらも、日本市場における“存在感”が海外市場と比べてかなり低いという点も大きい。

 エンタープライズインフラストラクチャー事業統括 HPネットワーク事業本部長の多田直哉氏は、「ワールドワイドでは、スイッチ製品とルータ製品の市場シェアが2位、無線LAN製品が3位で、ポート数ベースのネットワーク製品シェアが18%なのに対し、国内では5%のシェアにとどまっている」というデータを提示。日本市場にはまだ大きなビジネスチャンスがあると強調する。

 具体的な施策としては2つの柱で展開する考えで、まずネットワークコア向けには、米国本社と協力して日本向けの製品開発を進め、国内でのさまざまなニーズに対応していくほか、ネットワークインテグレータ向けのアライアンスプログラムを推進。一方でエッジ向けには、「すでに高いシェアを持つサーバー、ストレージとあわせてパッケージ化を進め、TCOを訴求する」(多田氏)考えで、これらの取り組みによって、3年以内にシェア20%以上の獲得を目指している。

ネットワーク製品のシェア拡大に向けた施策

(石井 一志)