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人工知能「IBM Watson」、がん患者を救うゲノム医療の取り組みへ

ニューヨークの研究機関と協業

 The New York Genome Center(以下、NYGC)とIBMは20日、IBMのWatsonコグニティブ・システムを活用するゲノム医療の取り組みを発表した。

 Watsonは、IBMの基礎研究所で開発されたコグニティブ・システム。コグニティブ(Cognitive)とは「経験的知識に基づく」「認知の」という意味で、コグニティブ・システムは、自ら学習し、考え、瞬時に膨大な情報源から大量のデータを統合・分析できるものを指す。Watosonは、もともとは米国クイズ番組にチャレンジするコンピュータとして発表され、自然言語で出されるクイズ問題に対して、文脈含めその趣旨を理解し、大量の情報の中から適切な回答を選択するための技術として開発。将来的には医療、金融、小売などの変革に貢献するため、積極的に投資が続けられている。

 今回の取り組みでは、がん専門医ががん患者に対して、より良い個別ケアを提供するための支援ツールとして、ゲノム研究専用にデザインされたWatsonの試作システムを検証する。

 具体的に、がん専門医が、脳腫瘍の一種である「膠芽腫(こうがしゅ)」の患者ごとに個別化された治療計画作成を支援するWatsonの能力を、NYGCと医療パートナー機間で評価する。

 膠芽腫は、神経膠腫(グリオーマ)の中でも最も悪性度が高いとされる、進行性・悪性の脳腫瘍で、米国では毎年1万3000人超が死亡。がんのドライバー遺伝子の画期的な発見にもかかわらず、わずかな患者しか、個々のがん変異に合わせた「個別化治療」の恩恵を受けられていない。

 臨床医には、患者に対してDNAに基づいた治療のオプションを提示するために必要なツールと時間が不足しており、医療情報の量が急増する現代、個別化治療を実現するためには、ゲノム解読から医学誌、新しい研究、診療情報などのデータの相関関係を明らかにしなければならない。

 こうした複雑なプロセスをより迅速化し、ゲノム解読や医療データにおけるパターンを特定し、臨床医が患者に有効なゲノム治療を提供できるような知見を獲得することが、今回の取り組みの目的。NYGCのゲノム・臨床専門知識とWatsonの能力を組み合わせることで、Watsonツールの開発・改良を促進させる狙いだ。

 新しいクラウド基盤に乗ったWatsonの試作システムは、広範囲の生物医学文献や医薬品情報データベースに加えて、遺伝子データを分析するためにデザインされる。Watsonは、新しい患者の状況、医学研究、論文、臨床研究に出会うたびに、それらから得られるより多くの情報を継続的に学習する。大量のデータベースを深く迅速に調査できる能力によって、個別化治療を受けられる患者数の拡大に期待がかかる。

 NYGCは、救命を使命とし、生物医学研究や臨床診療の変革の最先端にいる非営利組織。IBM Watsonにとってはゲノム関連の初のテクノロジー・パートナーとなる。NYGCは、ゲノム医療へのニューヨーク州の投資などを受けながら、ゲノム研究を臨床にまで落とし込む目標を、医療、科学、技術の協業を通して前進させるとしている。

川島 弘之