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日本IBM・イェッター社長、1年の成果に自信~日本ではデジタルとの統合提案を課題に

マーティン・イェッター社長

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は7日、同社の事業戦略について報道関係者を対象に説明を行った。

 マーティン・イェッター社長は、「私は、1年前に4つの支社を新設し、顧客の近くでビジネスを行う形で、新たなカバレッジによる組織体制を確立した。また、クラウド、ビッグデータの活用をはじめとする日本におけるコンテンツに対して投資を行うなど、成長分野に特化してきた。さらに、人財に対する投資として、モバイルデバイスを活用した新たな研修手法を導入し、4000人の社員に対して教育を行い、この仕組みは日本発で世界に展開した。このような日本IBMの変革への取り組みについては、いい進展があったと判断している。私の顔を見てください。笑顔である。日本IBMの発展を約束するものなる」などと語り、「日本IBMの事業を安定化させたといえる。やるべきことはまだ多いが、日本は将来にわたって重要な市場であることに変わりはない」と述べた。

 また、IBMが全世界4200人以上のCxOを対象に実施した最新の調査結果を「世界で初めて公開する」(イェッター社長)とし、この調査結果から「CEOがテクノロジーに対して最も高い関心があるという結果が出ており、今後、クラウドを活用する企業は136%になり、アナリティクスを活用する企業は170%に増加する」との結果を示す一方、「顧客の影響力を受け入れ、経営に生かすとしたCxOは世界では54%だが、日本では76%となっており、サービスや製品の開発には顧客の声が重要だとしている。だが、デジタルと実世界とを統合した戦略を持っている企業は日本では24%しかない。顧客が大事だが、デジタルと実世界の統合については戦略がない。ここに日本IBMのチャンスがある。この分野に踏み出すことが日本IBMと日本のIBMのパートナーにとっては必要である」とした。

最新の調査結果で回答したCxOの数
CEOがテクノロジーに対して最も高い関心があるという結果に
顧客の影響力を受け入れ、経営に生かすとしたCxOは世界では54%だが、日本では76%
デジタルと実世界とを統合した戦略を持っている企業は日本では24%しかない
魅力ある顧客体験をデザインするとしたCxOは日本が37%、グローバルが35%

 なお、同調査では、日本からは631人のCxOが調査に参加しており、「ひとつの国という意味では最も数になる。日本の状況が反映された調査結果になる」とした。同調査は、来週にも正式に発表される予定だという。

 最後に、イェッター社長は、「いま求められているのは、効率性、高速性、大量のボリュームを処理することができる、柔軟なITインフラである。それに向けて、IBMでは、PowerSystems、PureSystems、System X、System Storageにおいて、10月9日に、新たな製品を発表することになる」と語った。

SoftLayerでさらに進化を遂げるクラウドサービス

米IBM グローバル・テクノロジー・サービス担当のエリック・クレメンティ シニアバイスプレジデント

 米IBM グローバル・テクノロジー・サービス担当のエリック・クレメンティ シニアバイスプレジデントは、「IBMにとって、サービス事業は41%を占めている。ITの複雑性と変化の激しい市場が統合サービスを提供する新たなチャンスを創出しているといえる」と前置き。

 「ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウドの融合がITの新たな時代を創造することになる。IBMのクラウドポートフォリオは業界で最も広いものであり、SaaSだけでも100のアプリケーションがある。クラウドは業界を変革させ、ソフトウェアを変え、ビジネスプロセスの定義など、すべてのものに影響を与える。従来はコストがクラウドのメリットだったが、いまはスピードが最大のメリットとなる」とする一方、「SoftLayerの買収は、IBMのインフラサービスの要となる。そして、スマータープラネットのデリバリープラットフォームとなり、DATAHOTEL for AppのIT基盤に採用される。SoftLayerは、すでに140カ国、2万4000のユーザーを持っており、妥協がなく、選択肢が広いITインフラを提供することになる」などとした。

 また、「IBMが提供するクラウドは、Amazon、Googleと比較できるものではない。それは、他社がコンシューマからスタートしており、エンタープライズ利用では制限があるのに対して、IBMのクラウドはエンタープライズの顧客の要求によって生まれたものである。SoftLayerによって、クラウドのエンタープライズ対応力をさらに高めることができる」と語った。

グローバル・テクノロジー・サービス事業について
ITの複雑性と変化の激しい市場が統合サービス提供のチャンスを創出
グローバル・テクノロジー・サービスのロードマップ
企業の既存システムをクラウドへと変革し、新たなクラウドアプリ基盤を提供するIBMの独自性

トレンドにエンド・トゥ・エンドで対応

 米IBM ミドルウェア・ソフトウェア担当のロバート・ルブランシニアバイスプレジデントは、IT部門における課題について言及。「ビッグデータは、伝統的にデータウェアハウスに格納するものではなく、顧客の一人一人の状況を知ることができるものであり、それを活用することで、ビジネスの最適化を行うことができる。これを実現するには、アナリティクスが必要である。ここでは、実際になにが起こったかということを理解することからはじまり、今後なにが起こるのか、どうすれば最大の価値が得られるのか、そして最善の判断はなにかというように、ビジネスの価値があがっていく。最上位の価値は、われわれのWatsonによって得られるものとなる」などとした。

 また、モバイル、セキュリティといった昨今のトレンドに対しては、「IBMは今年2月にIBM Mobile Firstを発表した。これはモバイルデバイスが起点となり、ソフトウェア、ソリューション、サービスを提供していくものだ。そして、誰もが私の企業はセキュリティの問題を抱えているとは言いたくないが、すべての企業がセキュリティへの対策が課題となっている。IBMではビッグデータを活用して、セキュリティ対策にも生かそうとしている。ビッグデータ、モバイル、ソーシャル、クラウド、セキュリティにおいて、IBMはエンド・トゥ・エンドの形でソリューションを提供でき、ユーザー企業は本業に力を集中させることができる」などと述べた。

IBMが目指すSmarter Enterpriseの取り組み

 米IBMの社内の変革については、米IBM エンタープライズ・トランスフォーメーション担当のリンダ・サンフォードシニアバイスプレジデントが説明した。

 「IBMは、2015年にSmarter Enterpriseを目指している。スマートな企業は、意思決定の方法が違うものになる。例えば、IBMが取り組むFinance 2.0では、Cognosによるアナリティクス機能を活用し、支出などを自動的に予測する仕組みを構築。支出予測の90%を自動的に生成し、国別の財務リスクを見ることもでき、効率性と精度が高まった。これは2300ユーザー、2500万データを活用するCognos最大規模の利用になっている」とした。

 また、クラウドでは、Blue Insightの事例を紹介。「100以上の複数製品のビジネスデプロイメントを統合し、20万人以上のユーザーをサポートするもの。100以上の1PBのデータウェアハウスに蓄積したデータの価値を実現し、500を超えるアナリティクスアプリケーションを、クラウドを通じて提供できる」などと述べた。

 そして、ソーシャルとモバイルの事例としては、「これが他社との大きな差別化になっている要因」と前置きし、「IBMエキスパティーズ」と呼ぶ仕組みを紹介。「IBMの専門家を検索し、特定することで、IBM社員同士をつなぎ、個々人の優位性と評価を生かせることができる」とした。

 最後にサンフォードシニアバイスプレジデントは、「2015年の目標実現に向けて、80億ドルの生産性向上を推進する。このうち60%を成長に再投資する。スマートを自ら実践し、最初に顧客に提供できる企業になっていきたい」とした。

 なお、質疑応答では、2020年の東京オリンピックでの日本IBMの貢献についてイェッター社長が回答。「招致決定おめでとうございます」としながら、「1964年の東京オリンピックでは、IBMがパートナーとして関与していたが、いまはそうした関係がない。だが、情報技術が大きな役割を果たすことは間違いなく、トラフィック管理をはじめとした需要が高まるだろう。IBMのグローバルの知見を生かしたい」と述べた。

ユーザー向けイベントにはロメッティ会長が登壇

 一方、同社では、7日午後1時30分から、東京・大手町のパレスホテルにおいて、350人のユーザー企業のシニアリーダーを対象にした「THINK Forum Japan」を開催。“THINK for a Smarter Japan - The Leadership Agenda”をテーマに、米IBMのジニー・ロメッティ会長・社長兼CEOによる講演や、パナソニックの津賀一宏社長などによるパネルディスカッションを行い、企業競争力の基盤となるビッグデータの活用と、モバイル、ソーシャル、クラウドといったテクノロジーの融合によるさらなる可能性について論議した。

 さらに、同会場では、IBMによる研究成果およびソリューションも展示した。

 会場で展示されたのは、都市を取り巻く気象、交通などのビッグデータを分析し、都市の迅速で適切な意思決定を支援する「Predictive Traffic Management for Smarter Cities」、アナリティクス技術を活用したネットワークの監視により、企業へのサイバー攻撃を迅速に探知・対応する「Analytics for Cyber Security」、さまざまな症例など、膨大な構造化されていないビッグデータを活用し、診断支援だけでなく医療現場の課題を解決できる仕組み作りを支援する「Watson-Cognitive Systems for Big Data:Advancing Healthcare Decision Support”」、画面の中に仮想的な車を作り、あたかも目の前に車があるかのように体感でき、車を購入したいお客さまと販売店が、Web、SNSを使って購入したい車の仕様、価格を決めていく「The Customer Engagement Transformation Journey」のほか、IBMの最上位サーバー製品であるIBM zEnterprise Systemの最新モデルzBC12を展示した。

大河原 克行