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進化した手のひら静脈認証、富士通研が世界初の技術

静脈画像から2048ビットの特徴コードを抽出して照合

ソフトウェア技術研究所 セキュアコンピューティング研究部 主管研究員の新崎卓氏

 株式会社富士通研究所(以下、富士通研)は5日、進化した手のひら静脈認証技術を開発したと発表した。手のひら静脈画像(生体情報)から、その特徴を2048ビットの“特徴コード”として抽出することで高速な照合を実現。また、1つの生体情報から複数のコードを生成できるため、サービスごとに異なる情報を登録できるという利点も生む。世界初の技術という。

 開発したのは、生体情報から0と1の2048ビットの特徴コードを抽出して照合する技術。従来のパターン照合とは異なり、数値的な特徴コードの単純な比較計算で照合できるため、照合処理時間を従来技術の1/1000となる約1マイクロ秒に短縮。データ量も約1/10に削減できるという。

 最大の特長は、1つの生体情報から複数の特徴コードを生成できる点。「従来、生体認証は身一つで本人認証が行える一方、生体部位に依存して自由に変更できないため、慎重に取り扱う必要があった」(ソフトウェア技術研究所 セキュアコンピューティング研究部 主管研究員の新崎卓氏)というが、新技術では複数の特徴コードを生成できるため、サービスごとに異なる認証情報を登録できるのがメリットだ。万が一登録した情報が漏えいした場合も、新しい特徴コードを作り直して再登録することで、安心してサービスを使い続けられるという。

開発した技術のまとめ
認証している様子
適用拡大に向けた課題

 1つの生体情報から複数の生体特徴情報を生成する技術は、「キャンセラブルバイオメトリクス」や「リニューアブルバイオメトリクス」と呼ばれる。ただし、従来は複数の生体特徴情報に対してパターン照合処理が複数回必要なため、処理に時間がかかるのが課題だった。

 そのため、生体情報のパターンから特徴を数値化し、その特徴コードの単純な数値計算で照合することで時間短縮する研究が行われてきた。しかし、そのためには静脈画像パターンを取得するたびに変化する手の傾きや形などに影響されない安定した特徴コードを生成する高度な技術が必要だったため、なかなか実現できずにいた。

 新技術では、「処理時間の短縮」「安定した特徴コードの生成」という課題を、「手のひら静脈画像を正規化する技術」と「特徴コードの抽出技術」という2つの技術で克服している。

 「手のひら静脈画像を正規化する技術」は、手のひら静脈画像の手の輪郭情報を用いて、手のひら静脈画像の位置補整や形状補正を行うもの。センサーから取得された手のひら静脈画像を、一定の位置と形に置かれた静脈画像のように変換し、大まかな位置あわせを行うとともに、大きな変形を取り除く。これにより、特徴コードの抽出再現性を向上させる。

 一方の「特徴コードの抽出技術」では、手のひら静脈画像の各部分での情報量に応じて画像領域を分割し、分割した領域から静脈パターンの特徴成分を抽出し、情報量削減の技術を用いて最終的に2048ビットの特徴コードを抽出。画像領域を適応的に分割することで、多少の位置ずれや変形があっても影響を受けにくい抽出方式を実現した。抽出された特徴コードから元の画像を類推するのは困難で、特徴コードは完全なデジタル情報であるため、各種の秘匿技術や暗号技術との連携も容易という。

手のひら静脈画像を正規化する技術
特徴コードの抽出技術
特徴コードの生成・照合フロー

 これらの技術を用いることで、1つの生体情報から複数の特徴コードを生成できるため、例えば署名やパスワードを変えるように、利用するサービスごとに別々の特徴コードを登録できる。万が一登録した情報が盗難・漏えいした時も、新しい特徴コードを生成して再登録することで安心してサービスを使い続けられるとしている。

 また、サービス側には「特徴コード」と「変換条件」のみを登録しておくことになるため、個人情報となる手のひら静脈画像そのものを登録する必要がなくなるのもメリットという。

 ただし本人拒否率や他人受入率は従来技術には「ほんのちょっと及ばない」(新崎氏)ため、今後は2015年度実用化を目指して、これらを強化。具体的には「入力時の手の傾きや形状などの制限を減らすための画像正規化技術の強化」「特徴コード抽出技術の高精度化」などを進め、同時に「同技術を利用した生体認証基盤の設計・構築」「さまざまな利用シーンへの適用検討」を開始する予定。

川島 弘之