NEC、1万人の人員削減を含む構造改革を発表~2011年度は1000億円の最終赤字に下方修正


NECの遠藤信博社長
今回の経営改革の骨子

 日本電気株式会社(以下、NEC)は26日、2012年度上期までに1万人の人員削減を含む、構造改革に着手すると発表した。また、2012年度を最終年度とする長期経営計画「V2012」で掲げた売上高4兆円は未達になるとの見通しを明らかにした。

 NECの遠藤信博社長は、「マクロ環境、事業環境の急回復が見込めないなか、現状の売上高レベルでも安定的な収益をあげる効率的な事業運営が必要。構造改革の断行、注力分野への集中投資による経営方針の転換を図る」と宣言。確固たる利益体質への転換のための構造改革として、課題事業を対象にした構造改革を打ち出し、国内7000人、海外3000人の合計1万人の人員削減を実施する。

 また、NECの強みであるITサービス、キャリアネットワーク、社会インフラを軸とした経営へとシフトするとともに、エネルギー事業において、垂直統合型の事業体制を確立。キャッシュフロー重視の事業体への変革を図るという。

 「3兆円の売上高でも、V2012で掲げた営業利益率5%を確保することには固執していきたい。クラウドを中心としたITサービス、キャリアネットワーク、社会インフラに、エネルギー事業を加えた4軸を、これからの事業の柱とする。国内のGDP成長は2.2%。これに、当社の海外事業の強化、ネットワーク事業における貢献、社会インフラの確実な成長を考え、今後は年率5~10%の成長を見込む」としている。

 海外事業比率については18%にとどまっているが、「2009年の円レートで換算すると、20%程度にまで拡大している」などと語った。


安定したキャッシュフローを創出する事業に集中する

 4つの柱のひとつとするITサービス事業においては、「安定的な成長が見込める分野であり、2012年以降もこの成長維持を期待している。医療、自治体、企業エリアで手堅い反応がある。クラウド分野における事業ボリュームを考えた場合、海外ビジネス展開は避けては通れない。パートナーリングによる海外事業基盤の強化、アセット化や開発・運用の標準化のほか、一昨年から取り組んできた不採算プロジェクトの抑制についても、相当厳しく推進しており、プロジェクト・マネジメント・オフィサーをプロジェクトの最初から入れることで、管理が徹底されてきた。すでに不採算額は半減している」という。

 キャリアネットワークについては、LTEの国内出荷拡大とグローバル展開のほか、昨年開発したiPASOLINKが、すでにPASOLINKの売り上げの80%を占めるといった状況を説明。「今後は、クラウド社会を支えるネットワーク基盤の強化、海外向けソリューションの提供体制の強化、海外調達や現地生産、オフショア開発などによる総費用のドル化の加速を図る」という。


ITサービス事業キャリアネットワーク事業

 社会インフラについては、「NECにとって、大きな領域になる」と前置きし、「昨年、今年と確実に成長している。セキュリティ、無線領域に加え、東日本大震災の復興需要でも貢献できると考えている」とした。

 エネルギー事業に関しては、日産自動車とのジョイントベンチャーによる自動車向けリチウムイオン二次電池事業の拡大や、家庭用蓄電システムなどの新事業領域の事業化を加速するとした。「EV向けの安定的な供給に加えて、スマートXXと呼ばれる領域にも積極展開していく」と語った。

 また、遠藤社長は、「クラウドサービス、クラウド基盤、クラウド端末およびセンサーは、NECがすべてを持っている領域。エンド・トゥ・エンドでC&Cクラウドを提供できる」と述べた。


社会インフラエネルギークラウド事業にも注力する

 一方、NECでは課題事業として、携帯電話事業、プラットフォーム事業、NECトーキンの3つをあげ、プラットフォーム事業では、ビッグデータをはじめとするクラウドプラットフォームに集中し、パートナリングによるグローバルな競争力を獲得。ハードウェアでは海外生産展開の加速により、開発、生産体制のスリム化を図る。

 「NECは、サーバーをはじめ、数多くのメニューを用意しているが、これらをすべてNECでやるのではなく、パートナーを通じてメニューをそろえていくということが必要である。NECが得意とする領域に開発リソースを集中し、また海外における競争力を高めることに力を注ぐ」などとした。

 携帯電話事業では、抜本的な構造改革を検討し、海外JDM(Joint Design Manufacturer)の活用を積極化することで、開発および生産リソースのスリム化を図るという。

 また、NECトーキンにおいては、タイの工場被災に伴うタイ国内の新拠点の立ち上げを行い、他社との事業提携も模索していくという。

 1万人の人員削減については、対象となる具体的な事業部門については言及を避けたが、正規社員と非正規社員の比率は1対1とし、早期退職制度の実施なども含み、2012年度上期にこれを実施する。

 「なるべく早い段階で体力をつけたい。ここで400億円の構造改革費用を投入する。2012年度には人員削減関連および費用削減関連とをあわせて400億円の営業利益への効果を見込み、2013年度も同じく400億円の効果とし、そのうち300億円で人員削減効果を期待している。現状の売上高を前提とした固定費水準の適正化により、2012年度以降の利益改善に寄与できる」などと語った。


経営改革に伴う一時費用および効果額構造改革の推進とキャッシュフロー重視の事業体への変革を目指す

 

2011年度第3四半期は865億円の最終赤字に

 2011年度第3四半期(2011年10~12月)の売上高は、前年同期比7.2%減の6690億円、営業損失は53億円改善したものの82億円の赤字、経常損失は154億円の改善となったが116億円の赤字、当期純損失は、600億円悪化し、865億円の赤字となった。

 第3四半期のITサービス事業の売上高は前年同期比2.8%増の1758億円、営業利益は79億円増の13億円。プラットフォーム事業の売上高は前年同期比2.5%減の805億円、営業損失は29億円減の49億円の赤字。キャリアネットワーク事業の売上高は前年同期比1.8%増の1483億円、営業利益は35億円増の93億円。社会インフラ事業の売上高は前年同期比5.1%増の700億円、営業利益は9億円増の13億円。パーソナルソリューション事業の売上高は前年同期比26.4%減の1420億円、営業損失は13億円減の30億円の赤字。その他事業の売上高は前年同期比15.3%減の524億円、営業利益は2億円増の16億円となった。


2011年度第3四半期の業績と通期の見通しセグメント別の業績と見通し

通期業績見通しを下方修正、1000億円の赤字に

下方修正の要因

 一方、2011年度の通期業績見通しを下方修正。2011年10月の公表値に対して、売上高は1500億円減の3兆1000億円、営業利益は200億円減の700億円、経常利益は200億円減の350億円、当期純損失は1150億円減の1000億円の赤字になるとした。

 通期見通しにおいて、150億円の最終黒字の計画から、一転して1000億円の最終赤字へと修正した要因として、事業構想改革費用として400億円を計上したこと、繰り延べ税金資産の見直しにより740億円を計上したことをあげた。

 また、携帯電話事業において、国内市場の劇的な変化や海外展開の遅れが影響し、9カ月累計の出荷台数は約330万台となったことから、年間の出荷計画を650万台から500万台へと再度下方修正。携帯電話事業を担当するNECカシオモバイルコミュニケーションズは通期で営業赤字になるとの見通しを明らかにした。

 さらに、タイの洪水被害により、プラットフォームおよび電子部品事業を中心に、売上高で220億円減、営業利益で90億円減の影響があったとしたが、「HDDの調達に関しては、サーバーへの生産の影響があったが、昨年末から供給不足が解消方向にある。3月からは平常に戻る」とした。

 企業向けPBXやキーテレホンを生産しているNECインフロンティアタイおよびキャパシタ生産を行っているNECトーキンタイが水没したが、NECインフロンティアタイでは一部生産を国内に移管したほか、3月中旬には生産が再開できるとしている。


携帯電話事業の状況タイの洪水の影響

 なお、事業セグメント別の通期見通しは、ITサービス事業の売上高が前年比0.7%増の8100億円、営業利益は146億円増の360億円。プラットフォーム事業の売上高は前年比0.2%減の3750億円、営業利益は39億円減の50億円。キャリアネットワーク事業の売上高は前年比12.3%増の6800億円、営業利益は143億円増の550億円。社会インフラ事業の売上高は前年比5.1%増の3350億円、営業利益は34億円増の180億円。パーソナルソリューション事業の売上高は前年比11.9%減の6750億円、営業利益は29億円増の10億円。その他事業の売上高は前年比8.1%減の2250億円、営業利益は23億円減の50億円とした。

関連情報
(大河原 克行)
2012/1/27 00:00