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【SAPPHIRE NOW 2013】進化を遂げるSAP HANAがビジネスにもたらすパワーとは~2日目基調講演

インメモリDBからイノベーションプラットフォームへと変革

 5月14日~16日(米国時間)の3日間にわたり、米国オーランドで開催された独SAPの年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2013」。初日のビル・マクダーモット共同CEOに続き、2日目のキーノートには、もうひとりのCEOであるジム・ハガーマン・スナーベ(Jim Hagermann Snabe)氏が登壇、SAP HANAが切り開くビジネスの可能性について強く訴えた。本稿ではその概要を紹介する。

ビジネス進化論 powered by SAP HANA

SAP 共同CEOのジム・ハガーマン・スナーベ氏

 スナーべ氏のプレゼンテーションは自然科学や歴史の話題をITやビジネスに関連付けて折り込むことが多く、今回のキーノートにおいてもダーウィンの進化論から話を始めている。

 「19世紀のチャールズ・ダーウィンは自分自身の脳をインメモリコンピュータとして活用し、進化論というイノベーションを結果として残した。進化論では、環境に適応できない種は絶滅の運命をたどる。これは現代のビジネスでも同じように当てはめることができる」とスナーべ氏。

 続けて「自然界ではときどきミューテーション(突然変異)が起こり、劇的な変化がもたらされる。ビジネスの世界におけるミューテーションはイノベーションであり、環境の変化にビジネスを適応させるなら、自らがイノベーションを起こしていく必要がある」と語り、そのイノベーションは“powered by SAP HANA”によって生まれると強調する。

 単なるインメモリデータベースという枠を超え、「HANAはイノベーションプラットフォームに進化した」と語るスナーべ氏の言葉に、リリースから2年で数々の成功事例、すなわちイノベーションを生み出してきたHANAに対する自信があふれている。

 進化論に続いてスナーべ氏は、産業革命時代から続く“大量生産/大量消費”を例にとり、「このモデルは150年ほどはうまく機能したが、70億人もの人口を抱えるようになった現在、食糧や土地、エネルギーなどあらゆるリソースが不足する事態となっている」と指摘、この現状を打破するには「マスではなく、個人のニーズを満たす方向を目指さなくてはならない」と語る。

 「産業革命の時代と異なり、現在は人と人の関係や、モノやサービスの流れをテクノロジによってデジタル化できる時代であり、そこで生まれたデータを分析/活用すればリソース不足による機会損失を防ぐことが可能だ」(スナーべ氏)。

 この主張が机上の空論ではないことを示す例として、スナーべ氏は5つの業界に迫っている変化を挙げている。

・インテリジェントカー :近い将来、クルマがあらゆるモノやサービスとつながるようになり、ドライバーは運転中のエンターテインメントを数多くの選択肢から自由に選び、ガソリンスタンドや駐車場探しに苦労することもなくなる
・リテール :店舗のドアを開ける前からさまざまなデジタル化されたエクスペリエンスを顧客に提供する試みはすでに始まっている。サプライチェーンも顧客ひとりひとりのエクスペリエンスを高める方向にシフトする必要がある
・ヘルスケア :現在最も求められているのは患者のDNAをデジタイズすること。3500以上の疾病がDNAの異常から発生しており、これらをすべてリアルタイム分析できれば医療の世界は劇的に変わる
・フィナンシャルサービス :モバイルによるオンラインバンキングの口座開設が手数料ゼロで行えるようになれば、途上国などにおいて20億人を超える膨大な見込み客を呼び込むことが可能になる。無駄に海外支店を作る必要はない
・エネルギー :使わないエネルギーに無駄なコストを払っている状況を変えるには、リアルタイム分析で必要なところにだけエネルギーを配分するシステムが重要になる

 そしてこれらのデータはすべてメインメモリに置くことでリアルタイム分析が可能になる。その分析結果はソーシャルですみやかに共有され、人々はモバイルから情報にアクセスする。そのすべてを支えるのがHANAだというのがSAPの主張だ。

 「HANAこそこの20年で最も成長したソフトウェアであり、われわれにとっての最大のイノベーション。すでに1500社以上の企業に導入を果たし、ビジネスのゲームのルールを変えた。スピードの重要を知らしめ、クラウドへの移行を促進したこともクオンタムリープ(大躍進)の1つ。そしてHANAの躍進は、マスではなく“個”に注目し、最適化する時代がきたことを象徴している」(スナーべ氏)。

「稼働(RUN)から最適化(Optimize)へ、そしてイノベーション(Innovation)のためのプラットフォームとしてHANAは進化を遂げてきた」とスナーべ氏

“もしHANAがひとりの女性だったら世界を変えた存在として歴史に残っただろう”

HANAがいかにマクラーレンのビジネスを変えたかについて力説する、ロン・デニス会長(左)
マクラーレンで活用している、レース結果を分析するためのダッシュボード

 SAPPHIRE NOW 2013の1週間前、SAPは大企業向けのクラウドサービス基盤として「SAP HANA Enterprise Cloud」を発表した。そして今回のキーノートにおいては、スナーベ氏が「SAP Business Suite powered by SAP HANA」の一般提供(GA)開始を発表している。これらのソリューションは顧客の環境をクラウドへとスムーズに移行させ、新たなスキルやハードウェアを一切必要としないことが最大のポイントだ。

 これらのサービスは、ローンチ前に、パートナーやアーリーアダプタのユーザー企業とテストを重ねてきている。その1社がレーシングチームのマクラーレンで、バックオフィス業務からグランプリレースでのリアルタイム分析に至るまで、HANAをフルに活用しているユーザーとして知られている。壇上には、昨年のSAPPHIRE NOWにも登場したマクラーレンのロン・デニス会長が登場し、HANAの魅力を存分に語っている。

 「もしHANAがひとりの女性の名前であるなら、彼女は世界を変えた存在として歴史に記録されたことだろう」「われわれのビジネスは効率性がすべてだ。そしてわれわれは環境にやさしい企業でありたいと願っている。テクノロジがなければそれらは実現しない。そのテクノロジの象徴がHANAだ」「HANAはわれわれに分析の力を与え、迅速で正確なシミュレーションや予測を可能にしている」「スピードとスケーラビリティを兼ね備えたシンプルなプラットフォーム、それがHANA」と、最大限の賛辞を送った。

 グランプリにおいては、一度のレースで1台のレーシングカーが生成するデータは65億にも上る。この膨大なデータが生成されるそばから、リアルタイムなクエリ処理を実現する環境をHANAが提供しているという。

 マクラーレンの成功体験と同様のエクスペリエンスをより多くのユーザー層に届けるため、HANAのパワーを「290万人を超えた」(スナーべ氏)というSAPクラウドポートフォリオのユーザー全般に広げるべくして登場したのがSAP HANA Enterprise Cloudであり、SAP Business Suiteとなる。今後、SAPの提供するクラウド基盤は基本的に“powered by HANA”であり、HANAによってドライブされることになる。

実績を積み重ねてきたSAPクラウドだが今後はpowered by HANAへとシフトしていく

 なお、キーノートではペプシコ、TIMKEN、ネスプレッソといったSAPクラウドのユーザー企業のエグゼクティブも登壇し、SuccessFactorsなどSAPが提供するクラウドによってビジネスを変えてきた事例が紹介されている。

・ペプシコ :世界87カ国26万人の従業員をSuccessFactorsで管理、タレントマネジメントの効率性を大幅に改善
・TIMKEN :SuccessFactorsでタレントマネジメントを行うようになって30年間にわたって1つのシステムに縛られていた状態から、3カ月ごとに新しい環境に移行できるように
・ネスプレッソ :コアアプリケーションのデリバリにSAPのクラウドプラットフォームを利用するようになってから、プロジェクト開始6週間で成果を得られるよう

 「ユーザーは一度でもHANAを経験すれば、二度と元には戻りたがらない」と、スナーべ氏はキーノート終了後に報道陣に語っている。

 HANAの高速性は単に分析のスピードを速めるだけではなく、ユーザー企業のビジネスそのものを速めていく。そしてクラウドもまた、ビジネスのアジリティを加速する環境であることは多くの企業が実証済みだ。“powered by HANA”によってより高いパフォーマンスを得たクラウドはユーザーにどんな未来をもたらすのか。

 少なくとも、過去に利用していた環境に戻りたいと思わせるようなものではないはずだ。

(五味 明子)