【MS WPC基調講演】目下の敵はGoogle、Apple、VMware、Linux/OSS、Oracle

~クリントン元大統領も登壇


 米Microsoftは7月11~15日(米国時間)の5日間に渡り、米国Washington D.C.でパートナーイベント「Microsoft Worldwide Partner Conference(WPC) 2010」を開催中だ。

技術とセールスと世界への貢献

Kevin Turner, Microsoft Chief Operating Officer

 14日の基調講演は、ゲストスピーカーとしてビル・クリントン元大統領が登壇するということもあって多くの来場者を集めた。会期としてはまだ15日を残してはいるが、多数の来場者を集める機会としてはこの基調講演が事実上最後となるため、盛りだくさんの内容が詰め込まれる形となった。

 冒頭に行なわれたのは“A-List”と称されるプロトタイプのデモンストレーションだ。現在研究開発中の技術を紹介するという企画であり、一種のエンターテイメントとして楽しめるものだ。

 次いで、米MicrosoftのCOO(Chief Operating Officer)のKevin Turner氏のプレゼンテーション、最後に、米国第42代大統領のBill Clinton氏のスピーチが行なわれた。ここでは、Kevin Turner氏のプレゼンテーションを中心に紹介したい。

勝つための具体的な戦術

 Kevin Turner氏は「この先1年間、パートナーと共に何をしていくのか」を語った。いわば、営業方針説明だ。

 同氏は冒頭で35年前に創業者であるBill Gates氏が語った「すべての家庭にPCを」というビジョンが当時は冷笑を浴びたが、Microsoftは結局はこのビジョンを実現した、という歴史を振り返り、「遠大な目標こそがMicrosoftの推進力となる」という企業文化を示した。

 その上で、「クラウドサービスをすべての人/すべての企業に(“Continuos Cloud Services For Every Person And Every Business!”)」というのが現時点での“遠大な目標”だと宣言した。

35年前のBill Gatesのビジョン新しい“遠大な目標”

 そのために同社自身が「クラウド・サービス・カンパニー」に変わりつつあること、コンシューマ向けにもさまざまなクラウド・サービスを既に提供しており、多数の利用者の支持を得ていること、そして商用クラウド・サービスでは既にマーケット・リーダーであること、などを力説した。

 パートナーに対しては、「クラウドはビジネスになる」と言ってきたわけだが、パートナーの業態別にそれぞれクラウドにどう取り組むのがよいのかという指針も示した。

 たとえば、SI事業者であれば「マイグレーション/インテグレーション・サービス」「MSのオンライン・アプリケーションに無い機能を追加する」といった具合に、SI、リセラー、ディストリビューター、ISV/アプリケーション開発者、ホスティング事業者のそれぞれに対して想定しうるビジネスを列挙し、クラウドへの移行を促した。

 同氏は、「1年前に“失われたシェアを奪還する”と約束したが、15分野のうち、13分野で奪還に成功した」と紹介した。

 ここで、奪還できなかった2分野とは「モバイル・デバイス」と「ウェブブラウザー」だが、そこに対しても「Windows Phone 7」や「IE9」の投入が予定されていることから明るい見通しが立っているという。同氏はiPhone 4との競争にも楽観的で、「Windows Phone 7ではどのような持ち方をしても心配ない」などと語って会場を爆笑させていた。

 また、営業面での戦略説明にふさわしく、個々の競合企業を逐一名指しして対抗意識をむき出しにする場面では、来場者の盛んな喝采が聞かれた。来場者であるパートナー企業の多くは、Microsoftと同様にこれら競合企業と競いあう立場にあるのだろう。

 Googleに対しては、「MSはユーザーのメールを勝手にインデックス化したり広告を表示したりはしない」、Appleに対しては、「ノートPCのシェアは奪還した」「Apple TAXはWindows PCよりも割高」、VMwareに対しては「高価格でロックイン戦略」、Linux/OSSに対しても「シェアは下がっている」、Oracleに対しては「クラウドに消極的」「ロックイン戦略」といった具合に攻めるポイントを明確化していき、「シェアを奪い、競争に勝つ」という確固たる意志を示した。

 最後に同氏は、「パートナー自身が最新の製品やソリューションを利用し、それについて語ることが顧客の信頼を得るために重要だ」というポイントを指摘し、まず自分たちがクラウド・サービスを理解する努力をし、さらにそれを顧客に語ることを勧めた。

パートナーの業種毎のビジネス機会業界の各分野における競争相手と、対応する製品のマッピング

 どのような戦いでも、守る方が難しく、攻める方が意気が上がるわけだが、Microsoftの競合戦略も、圧倒的なシェアを得てアンチトラスト法の見地から監視が強められた時代とは異なり、強力な敵の姿が明確に見えている現在の方が生き生きとした説得力を持ち始めているように思われる。

 クラウドへの移行は、一面では「オンプレミスではどうやってもMSに勝つのは困難」という前提に立って積極的にゲームのルールを変えてきた、という面がある。一方で、そのルールの変更がMSを挑戦者の地位に置いたことで、逆にMS社内の結束を強め、明確な戦略目標を与えてしまったことになるのかもしれない。

クリントン元大統領も登壇

 基調講演にゲストとして登壇した米国第42代大統領のビル・クリントン氏は、登壇の際には聴衆が皆自発的に立ち上がり、スタンディング・オベーションで迎えるなど、元大統領に対する米国市民の敬意の大きさには改めて驚かされた。

 クリントン氏のスピーチはクラウドには直接関わらないものの、「貧困国の最大の課題はちゃんと機能するシステムを作ること」だと指摘し、さらにコスト削減を実現することが重要だという観点からも「ITには世界をよりよくするためにできることがたくさんあるはずだ」と語った。

基調講演にゲストとして登壇した米国第42代大統領のビル・クリントン氏
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(渡邉 利和)
2010/7/15 09:08