【MS WPC基調講演】クラウドに注力しながらも、従来型製品の継続的強化をアピール

Dynamics CRM 2011は9月にβ提供へ


 米Microsoftは7月11~15日(米国時間)の5日間に渡り、米国Washington D.C.でパートナーイベント「Microsoft Worldwide Partner Conference(WPC) 2010」を開催中だ。

データ分析アプリケーション「Dallas」や新たな運用管理ツールを紹介

12日の基調講演でWindows 7関連の講演を行なったCorporate Vice President and CFO, Windows & Windows LiveのTami Reller氏

 12日の基調講演では、MicrosoftのPresident, Server&Tools BusinessのBob Muglia氏が“Dallas”(コード名)のデモを行なった。2010年第4四半期にリリースが予定されるデータ分析アプリケーションで、“New Information Marketplace”と表現されるものだ。データの属性を踏まえた可視化などを行なうツールで、一種のBIアプリケーションのようにも見えるものだった。

 また、運用管理ツールの強化も行なわれ、新ツールとしてSystem Center Virtual Machine Manager Self-Service Portalの投入が発表された。同社の戦略は、オンラインとオンプレミスの共存という点にあり、クラウドサービスでのユーザーメリットの追求とオンプレミスでのユーザーメリットの追求はほぼ歩調を合わせている。

 Windows Serverを始めとするオンプレミス型のプラットフォームも、ユーザーサイドで実装されるプライベートクラウドとして使われる可能性も考えられるため、その環境を効率よく運用管理することの重要性は変わらない。

 Muglia氏は、“Service Platform”としてWindows AzureとSQL Azureを挙げ、そこで求められる要件を「標準化されたサービス」「運用コストの軽減」「アップデートはマイクロソフトが実施」という3点を挙げる一方、“Server Platform”としてWindows ServerとSQL Serverを挙げて、「カスタマイズ可能な製品」「運用コストの軽減」「アップデートはユーザーが実施」という具合に綺麗に対比させて見せた。

12日の基調講演でサーバーソフトウェアのアップデートなどを紹介したPresident, Microsoft Business DivisionのStephen Elop氏

 このほかにも、エンタープライズ・ソフトウェアのアップデート計画として、同社のPresident, Microsoft Business DivisionのStephen Elop氏が「Communications Server 14」(2010年中にリリース)や「Microsoft Dynamics CRM 2011」(9月にβリリース)を紹介した。特に力を入れていたのがCRM 2011で、Officeでも採用されているリボンインターフェイスを導入するという。

 Windows 7の現状についても、12日の基調講演の中で紹介された。好調が伝えられるWindows 7はすでに1億5000万ライセンスが販売済みとされ、「インターネットユーザーの14%がWindows 7を利用している」という調査結果もあるという。

 その一方で、「企業内で利用されているPCは5億7,000万台で、そのうちの74%でWindows XPが稼働している」という数字も紹介された。これはパートナーにとってのビジネスチャンスであり「ユーザー企業を近代化していこう」とのメッセージが打ち出されていた。

 

コンシューマ製品の強化

 全世界のパートナーが一堂に会するWPCというイベントにふさわしく、13日午前の基調講演は、まず“Partner Award”受賞企業の紹介から始まった。今回のWPCのテーマは間違いなく「クラウドへの移行」で、主にエンタープライズ市場での取り組みということになるが、一方でマイクロソフトにとってはコンシューマ向け製品も重要な位置づけを占めている。

13日午前の基調講演でWindows Phone関連の話をしたSenior Vice President, Mobile Communication BusinessのAndrew Lees氏。氏が掲げているのは、動作確認用に少数用意されたテスト用機材で、新製品ということではない

 それはつまり、同社のコンシューマ製品の取り扱いを主要ビジネスとしているパートナーも相応に存在するということにもなるため、それなりの扱いがあって当然ということにもなるだろう。それもあってか、この日の基調講演(Vision Keynote)は、その大半が同社のコンシューマ向け製品の紹介に充てられた。

 具体的には、Windows Phone 7やXbox 360などが紹介され、ホームユーザー向けに“Windows 7+Personal Cloud”というコンセプトでSkyDriveなどのデモも行なわれた。

 また、Xbox関連では「Kinect」のデモが紹介された。カメラがユーザーの動作を光学的に認識してトレースする、という点は既に何度も公開されたデモだが、個人的には音声認識機能があることは今回のデモで初めて知ったところだ。

 Xboxで映画を再生している場面で、“Xbox pause”“Xbox play”などと発話すると、実際に映像再生が一時停止したり再生再開したりしていた。日本語に対応するのは難しいかもしれないが、映画の再生中であり、映画の中の音声が再生されている環境での認識であり、実用性は高そうだった。

 

クラウドに注力しても何も捨てない

 Microsoftのクラウド戦略の難しさは、クラウドに専念する形で他のものをすべて切り捨てるような「選択と集中」という手法は採れない点だ。基調講演などのスポットライトの当たる場で紹介されるパートナーは、クラウドへの移行で成果を挙げつつある、いわば先行事例だ。

 それを見て自分たちもクラウドに移行しようと考える多くの聴衆は、まだ従来型のビジネスモデルで事業を展開していることを考えれば、一足飛びの移行一辺倒ではパートナーの支持も得られないだろう。

 そうした事情を反映してか、クラウドを強烈にアピールする一方で、従来型の製品の紹介なども手厚く行ない、全方位にくまなく配慮している形となっているように感じられる辺りが、パートナーイベントならではの微妙なハンドリングということになるのかもしれない。

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(渡邉 利和)
2010/7/14 11:08