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人類以後にもLinuxは残るか!? カーネル開発者たちが議論
LinuxCon Japan 2016 3日目基調講演レポート
2016年7月19日 11:45
Linuxの開発者が集まる世界的な技術カンファレンス「LinuxCon Japan 2016」が、7月13~15日に開催された。主催は、Linux開発の非営利コンソーシアムでありLinus Torvalds氏を雇用している「The Linux Foundation」。併催イベントとして「Automotive Linux Summit」も13~14日に開催された。
参加登録者数で、LinuxConが約600人、Automotive Linux Summitが約350人と、大勢のLinux開発者が集まった。
著名カーネル開発者たちによるパネルディスカッションを開催
3日目の基調講演としては、著名カーネル開発者がLinux開発動向などについて語りあうパネルディスカッション「Kernel Developer Panel」が開かれた。
パネリストは、kprobes等のメンテナーの平松雅巳氏(Linaro)、Video4Linux(V4L)コア開発者のLaurent Pinchart氏、ストレージまわりで活動するChristoph Hellwig氏、セキュリティサブシステムのメンテナーのJames Morris氏(Oracle)。モデレーターを、stableカーネルなどのメンテナーのGreg Kroah-Hartman氏(The Linux Foundation)がつとめた。
まずKroah-Hartman氏が平松氏に日本のカーネルコミュニティの状況の話題をふった。平松氏は「企業の中ではカーネルハッカーが上位レイヤーの仕事にシフトする傾向があるが、カーネルのコミットログを見ると日本から個人開発者など多くのコントリビュータがいるようだ。新人が継続的に参加してくれている。また、有望な学生がOSなどの低レイヤーの技術で活発に活動している」と答えた。
そこから、Kernel Summitで「新しい人に参加してほしい」という話になったことに話題が向き、新人だったころに先輩コミッターにパッチやツールなどを教えてもらったのでメンタリングが重要という話や、典型的な“白人男性”という層以外の特に女性の開発者を増やしたいという話、The Linux FoundationのOutreachプログラム、学生への支援などが語られた。
会場から、新人がカーネルのどの部分から参加するのがおすすめかという質問が出ると、メンテナーがTODOリストを公開していればそこからという意見や、自分が修正したいものがあればそこからという意見、投稿されたパッチをテストしてくれる人もありがたいという意見、テストという意味ではtoolsディレクトリにあるテストスクリプトも重要という意見などが出た。
「パッチを投稿してリジェクトされると落ち込む。せめて、どこが間違えているか、どう直したらいいかアドバイスが欲しい」という声には、「個人攻撃ではなく技術的なこと。どこが悪いかわからないときは質問するのがいい」という回答がなされ、メンテナーは大量のパッチを受け取るので基準を厳しくすることで仕事をこなせるという声や、メンテナーがメールクライアントでフィルタリングしていることもあるので、質問するには相手をTo:に、メーリングリストをCc:にするとよいといった声が出た。
「カーネル開発にC言語以外を使う可能性は?」という質問には、アセンブリ言語が使われているという話や、厳密なチェックには静的解析ツールが使われているという話、LLVMのCコンパイラではまだちゃんとカーネルをコンパイルできないという話、カーネルのトレースツールSystemTapのスクリプトも一種の言語という話(注:SystemTapのスクリプトのデモとしてテトリスも作られている)などが出た。
会場からは、「SF的な質問ですが」と前置きして「Linuxはこの先も生き残るか、人類の文明が終わっても続くか」という質問も出た。「AIを作って人類以後にメンテナンスしてもらおう」「ターミネーターもLinuxで動いている」というジョークのあと、何年も競争を続けてきて、これからも存続すると思うという声が出た。一方、「われわれ開発者が愚かなことをすると駄目になる可能性もある」「大きくなりすぎて、レガシーなコードベースが残って新しいOSに負ける可能性もある」「これまでとまったく異なるハードウェアが主流になるとLinuxが合わなくなるかもしれない」という声も出た。そのうえで「いまのLinuxは、特定の大企業にコントロールされることはない」と、プロジェクトの健全性が主張された。