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Red Hat Summit 2016で発表された新製品群を一挙レポート

「企業利用に適したプラットフォームを提供するのがRed Hatの役割」

 6月28日(米国時間)から30日まで、米Red Hatのカンファレンス「Red Hat Summit 2016」が、米国サンフランシスコのMoscone Centerで開催された。

 これに合わせてRed Hatは、本誌既報のOpenShiftやコンテナに関する新ソリューションのほか、マルチクラウド統合管理ソフトの新版「CloudForms 4.1」や、システム診断ツール「Red Hat Insights」のアップデート、Java EEアプリケーションプラットフォームの新版「JBoss Enterprise Application Platform(EAP) 7」を発表した。

 いずれの製品の変更点の多くも、マルチクラウドやコンテナ、DevOpsといった、クラウドネイティブ時代の新しいアーキテクチャや開発・運用プロセスに対応したものといえる。

 Red Hat Summitの2日目である29日午前のジェネラルセッションには、Paul Cormier氏(Executive vice president and president, Products and Technologies)が登壇。こうした新しいモデルについて語り、それに対してRed Hatの製品ポートフォリオを位置づけてみせた。

「ビジネスがオープンハイブリッドクラウドとマイクロサービスを求める」

 「今回が12回目のRed Hat Summit。この12年間もテクノロジーは速いペースでどんどん発展してきた」とCormier氏。特に現在は「アーキテクチャ」「プロセス」「プラットフォーム」の3つが、アプリケーションとインフラの両方の領域で同時に変わってきていると語る。

 Cormier氏は「こうしたイノベーションは、オープンソースだからできる」としつつ、「新しいテクノロジーでも、エンタープライズの安定性へのニーズはなくならない。顧客の利用に適したプラットフォームを提供するのがRed Hatの役割」と語った。

 また新しいインフラとして、物理サーバー・仮想サーバー・プライベートクラウド・パブリッククラウドを一貫性をもって扱う「オープンハイブリッドクラウド」を挙げたほか、新しいアーキテクチャとして、1つのアプリケーションを疎結合した単機能サービスの集合で実現する「マイクロサービス」に言及。「マイクロサービスのアーキテクチャはビジネスの力になる。アプリケーションの進化を発展させるのは、技術よりビジネスの要求だ」(Cormier氏)とした。

 新しいプロセスとしては、「DevOps」や「アジャイル」が挙げられた。「今日ではウォーターフォールは実践的な手法ではない。今日のビジネスでは競争のための成長スピードが求められるため、アジャイルやDevOpsによってビジネスの変化に応えていく必要がある」と、Cormier氏は語っている。

Red HatのPaul Cormier氏(Executive vice president and president, Products and Technologies)
「アーキテクチャ」「プロセス」「プラットフォーム」が同時に新しいものに変わっている

 ここでCormier氏は、アプリケーション開発者の仕事と関連づけて、システム統合の「JBoss Fuse」、プロセス自動化の「JBoss BRMS」、データサービスの「JBoss Data Virtualization」「JBoss Data Grid」、そしてアプリケーションプラットフォームの「JBoss EAP」を紹介した。

 「今週、新版であるJBoss EAP 7を発表した。ネイティブでマイクロサービスをサポートしている」(Cormier氏)。

 また、Java EE以外に、Railsや.NET、JavaScriptなどの実行環境も必要に応じて求められる。これをLinuxコンテナ化することで、開発から実運用まで一環したプラットフォームを実現できるという。

 さらに、コンテナを選ぶことで、開発・テスト・デプロイのサイクルを頻繁にくり返す、継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)のコンセプトを実現できるという。「コンテナにより、開発者のPCからテスト環境、実運用環境まで、一環性をもって実行できる。さらに、1つのアプリケーションを数百のマイクロサービスから構成して、オープンハイブリッド環境でどこでも動かせる」とCormier氏。「ただし、あまりに複雑になるので、運用の自動化が必須だ」。

JBoss製品
新発表されたJBoss EAP 7
各実行環境をコンテナに
一貫性をもったコンテナによりサイクルを頻繁に繰り返す

 コンテナについては、コンテナプラットフォーム「OpenShift」について、前日にプレス説明会で発表したことをCormier氏は報告した。本誌でもすでにレポートしたように、開発者環境向けの「Red Hat OpenShift Container Local」、テスト向けの「Red Hat OpenShift Container Lab」、本番環境向けの「OpenShift Container Platformというラインアップにより、開発者から本番環境まで一貫性をもったプラットフォームになるという。

 また、OpenShiftやOpenStackなどプライベートクラウドに必要な製品を一式まとめた「Red Hat Cloud Suite」や、クラウドやDevOpsなどのコンサルテングサービス「Red Hat Open Innovation Labs」についても紹介した。

 最後にCormier氏は「Continuous developent(継続的開発)とContinuous Integration(CI)が、Continuous Innovationを生む。これまでのRed Hatのエンタープライズビジネスは、そこに来るための準備だった」と講演をまとめた。

OpenShiftの新しいラインナップ。開発、テスト、本番環境に対応
「Continuous Innovation」へ

壇上でDevOpsのデモ

 Cormier氏の講演を受けて、Red Hat製品を使ったマイクロサービスとDevOpsのデモが壇上で行なわれた。

 開発チーム2人と運用チーム2人に分かれ、スマートフォン向けブラウザーゲームを動かすというもの。ゲームはWebで公開され、会場で知らされたURLから実際に参加者もその場で参加できた。

 サーバアプリケーションはOpenShift上で、非同期実行フレームワークのVirt.xや、JBoss EAP 7、WildFly Swarm、JBoss BPM Suite、Node.js、PostgreSQLなどの構成で実行される。また、ブラウザー側のコードはTypeScriptで記述される。

 開発者がIDEからgitでpushすると、Jenkinsによるビルドとテストが実行され、デプロイされる。この管理は運用チームの仕事だ。また、コンテナの管理やデプロイも運用チームが行ない、ブルーグリーンデプロイメント(アプリケーションの更新を動作中とは別のシステムに反映して切り替える方式)などの手法も用いる。

 デモでは、ゲームに出てくる風船を大きくするなどの変更を壇上で加えてみせていた。

壇上でDevOpsをデモ。向かって左のテーブルが開発チーム、右のテーブルが運用チーム
デモするアプリケーションの構成
IDEからコードをコミット
CIが自動的に行なわれる
スマートフォンで対戦
JBoss BPMでデータを関連づけ
Ansible Towerでジョブを管理
CloudFormsでシステムを管理
講演中に筆者がPCでゲームにアクセスしたところ。左の画面が、変更によって右のような画面に変わった

コンテナと従来型のどちらをとるか?

 同日、OpenShift関連についてRed HatのAshesh Badani氏(Vice President, General Manager, Cloud/OpenShift BU)に話を聞く機会があったので、コンテナやマイクロサービスについて尋ねた。

 ジェネラルセッションでCormier氏がマイクロサービスを推していたことについて「すべてコンテナによるマイクロサービスに移行するのか」と尋ねると、「まずはステートレスなクラウドアプリケーションをコンテナでサポートする。しかし、物理や仮想のサーバーで動く従来型のアプリケーションはこれからも続く」との回答だった。

 また、コンテナと従来型のどちらをとるかの選択については、「会社のカルチャーや哲学による。大きな銀行で新しいスタイルのアプリケーションや開発に進んでいるところもある」とのことだった。

CloudFormsとInsightsの変更点

 会期にあわせて発表されたマルチクラウド統合管理ソフトの新版「CloudForms 4.1」とシステム診断ツール「Red Hat Insights」のアップデートについては、Red HatのJoseph Fitzgerald氏(GP & General Manager, Management Business Unit)に話を聞いた。

 CloudForms 4.1では、Google Cloud Platformのサポートと次世代Mirosoft Azureのサポート、NuageのSDNのサポートが追加されたという。「Google Cloud Platformについては、Googleから話をもらって対応した」(Fitzgerald氏)。

 また、構成管理ツールのAnsibleの管理ツールAnasible Towerとの統合も追加された。「AnsibleとCloudFormsの組み合わせはとてもよい」とFitzgerald氏。AnsibleのパラメータをCludFormで管理してデプロイしたり、デプロイ先に応じて設定を変換したりできるという。

 またInsightsでも、コンテナやKVM、OpenStackなどに対応したなど、より新しいプラットフォームに対応したのが変更点だ。