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Red Hat Summit 2016基調講演レポート、ホワイトハーストCEOが語るオープンソースの力

 6月28日(米国時間)から30日まで、米Red Hatのカンファレンス「Red Hat Summit 2016」が米国サンフランシスコのMoscone Centerで開催された。開発者向けイベント「DevNation」も併催。参加登録者数が約5000人、6本のジェネラルセッションと、約300のブレイクアウトセッション、展示会など、大規模なイベントとなった。

 イベントのオープニングとなる28日午前のジェネラルセッションには、Red Hat社CEOのJim Whitehurst(ジム・ホワイトハースト)氏が登壇した。Whitehurst氏は自社の製品や技術ではなく、Red Hat Summit 2016のテーマである「The Power of Participation(参加の力)」という言葉を軸に、オープンコラボレーションやイノベーションについて語った。

ジェネラルセッションやDevNationなどが開かれたMoscone Center North
展示会やブレイクアウトセッションなどが開かれたMoscone Center West

「第四次産業革命はコラボレーションから」

 オープニングの管弦楽の演奏を受け、総合司会による「オープンソースはオーケストラのようなもの。われわれ(Red Hat)の指揮者を紹介します」との言葉により、Jim Whitehurst氏が登場した。Whitehurst氏は高名な指揮者の言葉を引用して、オーケストラの演奏は演奏者、楽器や観客、指揮者が集まることにより高いパフォーマンスを実現するとし、Red Hat Summit会場に実際に参加する意義も「The Power of Participate」だと語りかけた。

Red Hat社CEOのJim Whitehurst氏
開始直前のブレイクアウトセッション会場
オープニングの管弦楽の演奏
Red Hat Summit 2016のテーマ「The Power of Participation(参加の力)」

 Whitehurst氏は現在イノベーションを妨げるものはなにか考えるにあたって、2016年ダボス会議で論議された「第四次産業革命(4th industrial revolution)」をとりあげた。産業革命は、18世紀の第一時産業革命から、19世紀の第二次産業革命、20世紀の第三次産業革命ときて、技術やコミュニケーションツール、機械学習、3Dプリンティング、IoTなどによる第四次産業革命が提議されている。

 「会議では、技術そのものより、生活や働き方、組織のありかたなどの根幹へのインパクトが議論された」とWhitehurst氏は説明し、それを考える材料として第二次産業革命について語った。第二次産業革命では、電力や大量生産がもたらされた結果、人々は大都市に集まり、大きな会社に勤めるようになった。そして、数百や数千の人が働くために、企業で現代に続く階層型の組織管理がなされるようになった。これは変化のない環境にあわせたものであり、それがイノベーションを阻むとWhitehurst氏は主張した。

 これが第四次産業革命では変わり、クリエイティビティや判断が求められ、そうでないのは自動化に進むという。「オーケストラの指揮者の言葉に戻ると、美しいアンサンブルには互いの音を聴くことが必要だ。イノベーションは会議室から生まれるのではない、より顧客の現場に近いところで生まれる。コラボレーションや参加が重要だ」とWhitehurst氏。

 ここでコラボレーションについて過去の産業革命時代に学ぶ例として、電磁気学の基礎を作った19世紀イギリスの科学者のマイケル・ファラデーを挙げた。科学を独学で学んだファラデーは、実験成果やアイデアを公開した。これは現代のソーシャルメディアのさきがけだとWhitehurst氏。数学の苦手だったファラデーはマックスウェルとコラボレートして電磁気学が生まれた。さらに公開実験のエンターテイメントによって多くの人を啓蒙し、電気や電磁気学が発展した。

 「もしファラデーが研究成果をクローズにしていたら、イノベーションは遅れていた。電気もモーターもラジオもテレビも携帯電話もなかったかもしれない」とWhitehurst氏が語ると、会場の照明が暗転した。

 同氏はオープンソースについて、アイデアを独り占めにするのではなく、共有することでベストなアイデアを生み出すものだとし、2人の脳腫者患者が医療データをシェアすることで治療法を見付けようとする試みを紹介したビデオ「The Open Patient」を上映した。

「第二次産業革命で人々は大きな会社で働くようになった」
「階層的な組織構造は第二次産業革命で生まれた」
「第四次産業革命はコラーレーションや参加」
「マイケル・ファラデーはコラボレーションで電磁気学を作った」

 続いて、オープンオースのレバレッジ効果について言及した。「GoogleやFacebookはユーザー獲得で競合しているが、両社はオープンソースの2大コントリビューターでもある。競合していても、コンポーネントをオープンソースにすることで、ほかの企業や開発者をまきこんでイノベーションを加速する」とWhitehurst氏は述べた。同様にブロックチェインの上にさまざまな企業が集まってサービスが生まれ、輸送会社や政府が集まって自動運転の試みがなされていると同氏は例を挙げた。

 第四次産業革命の軸である機械学習AIについては、GoogleやAmazon、Microsoft、FacebookがAIエンジンをオープンソースにしている。「いずれも営利企業であるが、オープンなエコシステムの価値を知っているからオープンソースにする」とWhitehurst氏。

 ここでRed Hatの話にたどりつく。Red Hatはオープンソースの世界に20年間参加してきたとWhitehurst氏は誇る。経営理念「to be the catalyst in communities of CUSTOMERS, CONTRIBUTORS, and PARTNERS creating better technology the open source way(顧客やコントリビューター、パートナーとコミュニティの間で触媒となり、オープンソースでよりよいテクノロジーを作り出す)」を紹介して、「これは『because are were here, things happenz』ということだ。われわれがコントロールするのではない。Red Hatは何百もの開発コミュニティに参加している。開発コミュニティには参加できる。それが皆がここに集まったことの目標だ」と語った。

 最後にWhitehurst氏は、Red Hatのオフィスのさまざまな場所に貼られている(ちなみに日本のレッドハットの会議室にも貼られていた)マハトマ・ガンジーの言葉「First they ignore you, then they laugh at you, then they fight you, and then you win」を紹介。「AIやIoT、モバイルなど、さまざまなイノベーションがLinuxとコミュニティの力で動いている」としつつ、「これはまだ始まり。飢餓など大きな問題が、解決のための参加を待っている」と説明。「“The Power of Participation”を自分の組織やより大きなエコシステムに活かしてほしい」と語って講演をしめくくった。

Red Hatの経営理念「to be the catalyst in communities of CUSTOMERS, CONTRIBUTORS, and PARTNERS creating better technology the open source way」

アジア各国でのRed Hat市場の様子

 同日には、Jim Whitehurst氏にAPAC(アジア太平洋)地域の記者が質問するプレスラウンドテーブルの場も設けられた。

 その中で興味深かった話題として、APAC各国のRed Hatの市場について、「それぞれの能力の違いがあるわけではない」と断りを入れたうえでWhitehurst氏が各国の状況について語ったものがあった。

 日本はRed Hatの市場としてAPACで最も大きく、それには強力なパートナーによるものが大きいだという。中国市場ではOpenStackやクラウドの市場が盛んだが、無償Linuxディストリビューションが強いためRHELのシェアが大きくなく、「サポートやエコシステムという我々の価値を伝えたい」とWhitehurst氏はコメントした。韓国市場については「まだUnixが多く、Linuxはこれから」だとコメントし、韓国の記者も「私も疑問に思っている」と答えていた。

プレスラウンドテーブルのJim Whitehurst氏