進化するMicrosoftのクラウドサービス「Azure」
10月末に米国シアトルで開催された開発者向けのセミナー「Professional Developer Conference 2010(以下PDC 2010)」で、クラウドサービスのAzureに関して、さまざまなアップデートが行われた。
今回は、日本で開催されたThe Microsoft Conference Japan 2010(以下、Microsoft Conference)の情報を含めて、日本でのAzureの現状と2011年に向けたアップデートを解説していく。
■Azureの現状
2010年の2月から正式にサービスを開始したAzureは、日本国内でも順調にユーザーを伸ばしているようだ。
8月末に開催されたTech・Ed Japan 2010では、「日本国内で開発されているAzure上のアプリケーション数は5000を超えている」と、執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏が解説していた。
11月に開催されたMicrosoft Conferenceでは、実際にPaaS(Platform as a Service)としてAzureを利用したオンラインサービスがいろいろと紹介された。例えば、会計ソフトとして有名な弥生は、Azureを利用した弥生オンライン(SaaS)のクローズドβを開始し、2011年9月には商用サービスを開始すると発表している。また、システムインテグレータのNTTデータでも、電子入札システムを構築している。
このように、Azureは、テストフェーズだった2009年の段階から、2010年には、サードパーティなどによる開発フェーズに進み、さらに2011年には、Azure上に構築されたサードパーティのSaaSサービスが運用フェーズに入っていく。
システムインテグレータなどが、自社のサービスとしてAzureなどのパブリッククラウドを利用し始めたのは、多くの企業がパブリッククラウドの利用を検討していることが背景にあるだろう。自社でのパブリッククラウド利用を通じて、システムの設計や開発、運用ノウハウを蓄積し、今後のビジネスにつなげていこうとしている、ということだ。
これ以外にも、携帯電話向け着うたサービスのmusic.jpなどを提供しているMTIでは、年末年始など、アクセスが集中するサービスにAzureを利用しようとしている。平常時は、自社のサーバーで運営するが、アクセスが集中する年末年始など季節変動が大幅にある時期には、Azureを利用して、安価にサーバーを増強していこうという狙いだ。Azureなどのパブリッククラウドをうまく利用すれば、必要な時期に、必要な数だけのサーバーを用意することができる。もちろん、必要がなくなれば、Azureのサーバー数を少なくするだけで、効率的なサーバー運用が行える。
今までなら、最も多数のアクセスの状況に合わせて、サーバーを増強していた。しかし、本当に多数のアクセスが行われるのは、年に数日といったことが多い。これに合わせてシステムを設計すると、平常時はサーバーが無駄になってしまう。また、平常時に合わせてシステム設計すると、アクセスが集中する日にシステムダウンを引き起こしたり、サービスにアクセスできなくなったりしてしまうことになり、サービス自体に不信感をもたれる。これは、ビジネス的には大きな痛手になる。
つまり、コンシューマを対象としたサービスは、大きな季節変動を見込んだ設計が必要になる。この時にAzureなどのパブリッククラウドを使用すれば、必要な時に必要なだけのサーバーを増減していくことが可能になる。これなら、アクセスが集中しても、瞬時にサーバーを増強したり、必要なくなればサーバーの数を縮小したりすることができる。
今までのように自社でサーバーを購入する場合、購入するサーバーを決めて、導入し、データセンターに設置するためには、早くて数カ月、遅いと1年ほどのタイムラグがある。これでは、明日起こるかもしれない、アクセス集中を回避することはできない。こういった場合でも、Azureなどのパブリッククラウドなら、今この瞬間にサーバーを増強して、集中したアクセスをさばくことができる。
ただし、このように、Azureなどのパブリッククラウドをうまく利用するためには、簡単にサーバーが増強できるようなシステム設計を行っておく必要がある。
■日本国内にAzureのデータセンターを
7月に米国のワシントンD.C.で開催されたMicrosoft Worldwide Partner Conference(WPC)では、パートナー企業がAzureを提供できるように、Windows Azure Platform Applianceというプラットフォームが発表されている。
Windows Azure Platform Applianceは、Azureのソフトウェアプラットフォームをインストールしたサーバーを提供するというものだ。このプログラムには、HP、Dell、富士通、eBayなどが早期採用企業として参加している。
富士通は、Windows Azure Platform Applianceを自社のデータセンターで運用して、日本国内のユーザーに提供する予定にしている。単に、富士通が日本国内にAzureのパブリッククラウドを提供するということではなく、富士通が持つさまざまなソフトウェアスタックをWindows Azure Platform Appliance上に提供していく。もちろん、富士通がシステムインテグレータとして、Azure上のソフトウェア開発を提供することになるだろう。
現在、Microsoftでは、北米、欧州、アジアにAzureのデータセンターを設置しているが、日本国内にはデータセンターは設置されていない。このため、ネットワークのレイテンシが大きくなってしまうし、国外にデータを持ち出すことを認めていない企業、官公庁では、国外のパブリッククラウドを利用するのはためらわれる。もし、日本国内でAzureのサービスが提供できるようになれば、こういったデメリットはなくなる。
富士通では、AzureにJavaの動作環境を追加していく予定だ。これに合わせて、Windows Azure Platform Applianceを使ったクラウドサービスを提供していく | 富士通が計画しているAzureへのミドルウェア展開計画 |
また、Windows Azure Platform Applianceは、大企業などがプライベートクラウドを構築する場合にも利用されることになる。自社の内部にプライベートクラウドとしてHPやDellなどが提供するWindows Azure Platform Applianceを設置し、Azureベースでの社内サービスを構築できるようにする。
今年になってからAzureで提供されたサービスとしては、Dallasというコード名で言われていたデータ配信サービスもWindows Azure Marketplace DataMarket(以下、DataMarket)という名称でサービスが開始されている。ここでは、政府や企業が持つさまざまなデータが無償/有償で提供されている。
DataMarketを企業としては、米国の企業や政府だけでなく、国内のXebral(ゼブラル)という企業が日本企業の開示情報をデータとして提供している。
これ以外にも、2月のAzureスタート時には、積み残しになっていたAppFabricの機能追加も行われている。
■PDC 2010で示されたAzureのアップデート
11月末に開催されたPDC 2010では、Azureに関するいくつかのアップデートが発表された。
まず、Azureに新しいVM Roleというインスタンスが追加され予定になっている。今までAzureは、Web RoleとWorker Roleの2つのインスタンスしかなかった。今回追加される予定になっているVM Roleは、他社のクラウドサービスと同じように、仮想マシン自体を提供しようというモノだ。これを利用すれば、利用者自身が特別なな環境を用意することができる。
現在、VM RoleではWindows Server 2003、Windows Server 2008 SP2のOSイメージが利用できるようになる予定だ。
Microsoftでは、あらかじめ決められたOSイメージだけでなく、利用者がオンプレミスでOSとアプリケーション環境を構築して、Azureにアップロードすることができるような機能も計画している。オンプレミスでの仮想マシンの作成ができるようになれば、オンプレミスのWindows Serverで動作している環境を仮想化して、Azureにアップすることもできる。このようになれば、オンプレミスのサーバーをクラウドに移行しやすくなるだろう。
この機能は、Server Application Virtualizationとして、2011年後半にリリース予定のSystem Center Virtual Machine Managerの次期バージョンで提供する予定にしている。
また、PDC 2009で発表されたProject SydneyもWindows Azure Connectという名称になり、テストが始まる。Windows Azure Connectを使えば、Azure上の環境とオンプレミスのWindowsサーバーをIPSECで接続できる。これにより、クラウドとオンプレミスのサーバーの相互運用性がアップすることになる。
例えば、Windows Azure Connectを使えば、Azure上に構築したアプリケーションから、オンプレミスのSQL Serverにアクセスしたり、オンプレミスのファイルサーバーにアクセスしたり、オンプレミスのプリンターなどにアクセスすることができる。ここまでくると、Azureとオンプレミスの境がなくなることになる。
もう1つ大きな発表としては、開発者向けにExtra Small Instanceという料金プランを発表している。Extra Small Instanceでは、今までよりも小さなCPU単位を提供することで、コストを時間あたり5セントにまで安くしている。今までよりも小さなクラウド環境のため、本番環境として利用するにはパワー不足だが、開発環境としてテストに利用するには十分だ。時間あたりのコストが安いため、開発中でもそれほどコストがかからない。
このほかにも、Web Roleとしてフル機能のIISが提供されるようになったり、ゲストOSやアプリケーションレイヤーでサービス管理を可能にするAdminアクセス機能が提供されたりする。また、稼働中のアプリケーションのインスタンスにアクセスして稼働状況を監視する、リモートデスクトップ機能も提供される予定だ。
Azureは、2011年には多くのサービスのプラットフォームとして利用されることになるだろう。2010年は、実際にAzureをテストしたり、アプリケーションを開発するフェーズだったが、2011年はAzureを利用したさまざまなSaaSやサービスが提供されることになるだろう。
Microsoft側でもAzureを使いやすくするために、さまざまな機能を追加したり、SDKやTool Kitを提供している。こういった意味でも2011年はAzureにとって、大きなターニングポイントになるだろう。