マイクロソフト、「The Microsoft Conference+Expo Tokyo」を開催

基調講演で樋口社長が多数のゲストを迎え、クラウド戦略を語る


 マイクロソフトは、11月25日、26日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において、「The Microsoft Conference+Expo Tokyo」を開催している。

 同イベントは、マイクロソフトのパートナー、ユーザーを対象に開催する同社プライベートイベントで、マイクロソフト関係者やパートナー各社による各種セミナー、同社最新製品の展示などが行われる。また期間中には、開発者向けのPDC 10や、経営者向けのMicrosoft Executive Briefing、金融マネジメントフォーラムなど7つのイベントが併催される。

 初日の午前10時30分から行われた基調講演で、同社・樋口泰行代表執行役社長は、「マイクロソフトが提供するクラウドパワー」をテーマに講演。Microsoft Dynamics CRM Onlineを2011年1月に市場投入することを明らかにしたほか、パブリッククラウドサービス「Windows Azure Platform」や「Office 365」など、同社の最新製品を軸に、クラウドに対する取り組みを紹介。ユーザー企業や、パートナー企業も登壇して、マイクロソフトのクラウドビジネスの広がりを示した。

2年ぶりに開催されたThe Microsoft Conference「The Microsoft Conference + Expo Tokyo」の受付の様子

 

クラウドへの真剣さを伝えるのが一番の目的

マイクロソフトの樋口泰行代表執行役社長
リクルートの柏木斉社長

 冒頭、樋口社長は、「マイクロソフトは、クラウドという新しい流れ、新しいトレンド、新しい顧客ニーズに真剣に応えようとしている。その真剣さをお伝えするのが、今回のイベントにおける一番の目的」とし、「今日からクラウドの新たなロゴを使用する。このロゴは、雲の形をしているが、この雲を構成しているのが歯車。発動機のように、クラウドから大きな力を供給し、大きな力を生み出すことを示した。クラウドのパワーで、パートナーとともに、クラウドを強く推し進めていく」とした。

 さらに、グローバル化が進展するなかで、日本の企業がこれまでのやり方に固執していることが問題としながら、「クラウドは、これをブレークさせる一材料となる。マイクロソフトは、ソフトウェアによるプラットフォームを提供する会社。クラウドにおいてもパートナーとの組み方を考えて、新たなニーズに応えたい」などとした。

 スペシャルゲストとして、Microsoft Online Servicesを導入したリクルートの柏木斉社長が登壇。樋口社長と対談形式で、マイクロソフトのクラウドの特徴を紹介した。

 柏木社長は、「情報は当社のビジネスにとって、最も重要な要素。創業時は情報を集めれば価値になったが、現在は、情報の量に対応するだけでなく、受け手に対してタイミングよくスピードを生かして提供すること、個人個人のニーズへのベストマッチといった要素が必要。そのためには、ITインフラをどう作るかが大切である。新しい技術を企業経営のなかにどう取り込んでいくかが大切である。マイクロソフトは、大きく局面が変わるたびに、先進的な提案をし続けてもらえる企業である」などとした。

 

デモやビデオでマイクロソフト製クラウドの魅力を紹介

 デモンストレーションでは、マイクロソフトが提供する予定のOffice 365では、PCで作ったExcelのデータを、Webブラウザ上でも簡単な操作で、同じ形で表示できるのに対し、Googleドキュメントでは操作が煩雑なこと、Webブラウザ上では表が崩れることなどを提示。このような、競合との具体的な機能比較をしながら、「どちらを選びますか」と問いかけた。

Office365のデモストレーション。Excelで作ったデータをブラウザ上でもそのまの表示できるこれに対して、Googleでは表の体裁が崩れてしまう

 また、富士通およびオンキヨーが開発したWindows 7搭載のスレートPCや、海外で出荷されているWindows Phone 7を搭載したLG製スマートフォンを紹介しながら、クラウドでの利用事例を示したほか、講演会場に隣接する展示会場にいるWindows Liveのイメージキャラクター、マイクロまい子さんのをビデオ会議ソリューションのMicrosoft Lyncで呼び出し、Lyncによってデスクトップ上のアプリケーションを共有する様子を示してみせた。

樋口社長は富士通が開発中のスレートPCを持ち出すまた、オンキヨーのWindows 7搭載のスレートPCを使ってデモンストレーション
Lyncのデモでは、マイクロまい子さんを呼び出して、アプリケーションを共有してみせた

 ビデオでは、GoogleのクラウドサービスからMicrosoft Online Servicesに移行した伊藤病院を紹介。コストが約60%削減したことや、柔軟性を持った運用が可能であることなどを示し、「GoogleとMicrosoftのクラウドは同じように見えるが、まったく違うサービスである」などとした。

 

Dynamics CRM Onlineを発表、パートナーとの連携も推進

 さらに、Microsoft Dynamics CRM Onlineでは、日本語β版を利用して説明。樋口社長は、「オンプレミスよりも、先にオンライン版を提供するのがMicrosoft Dynamics CRM Online。ここでもマイクロソフトがクラウドに本気であることを感じてほしい。そして、他社のCRMと異なるのはOfficeとの連携の強み」などとし、Office連携のメリットをデモンストレーションや、saleforce.comからの移行しやすいことなどを示した。

Microsoft Dynamics CRM OnlineのデモンストレーションMicrosoft Dynamics CRM Onlineの対応表明パートナー

 Microsoft Dynamics CRM Onlineの導入を発表した帝国データバンク・鈴木良平常務取締役は、「当社は、現地現認を基本とした企業信用調査を、1600人の調査員が、135万社を対象に実施している情報をもとに、マイクロソフトのクラウドを利用して新たな企業情報サービスを2011年2月から行うことになった。Microsoft Dynamics CRM OnlineとTDBオンライン企業情報サービスを連携させた、クラウド型統合顧客管理サービスを提供することで、取引可否、与信金額、リスク評価の総合判断をリアルタイムで提供できる」などとした。


帝国データバンクが提供するクラウド型統合管理サービス帝国データバンク 鈴木良平常務取締役

 salesforce.comからMicrosoft Dynamics CRM Onlineに移行させた三和コムテックの事例をビデオで紹介。Outlookを窓口としてすべての内容を見ることができること、ストレージ容量が大きいこと、トータルコストを3分の2に削減できたことなどを示した。

 また、プライベートクラウド、パートナークラウド、パブリッククラウドが、シームレスで利用できることを示しながら、SysemCenter Operations Plannerによる運用管理の様子などもデモンストレーション。さらにクラウドからオンプレミス資産を管理するWindows Intuneや、Windows Azureにより、クラウドからビジネスデータを取得するといった様子をデモンストレーションした。

ビデオ出演した三和コムテックの柿澤晋一郎社長SysemCenterによって、プライベートクラウドからパブリッククラウドまでのシームレスな管理を可能にする

 

顧客企業も登壇、マイクロソフトへの期待を語る

 一方、ゲストとして登壇したパソナ 真瀬宏司取締役会長は、社内の異なるプロジェクトにおいて、Salesforceとマイクロソフトの双方を導入し、プロジェクトの予実管理を行っていることを示し、「選択肢を増やしたいということから双方に取り組んでいる。マイクロソフトのクラウドサービスでは、思った以上にパフォーマンスが出ている」などと評価。

 また、パソナグループ 情報システム企画部マネージャーの高橋智則氏は、「パソナグループの子会社にも展開する考えで、その際に、あまり負荷がかからないというメリットを期待している」などとした。さらに、真瀬氏が日本CIO協会の会長を務めている立場から、「日本CIO協会では、12月から1月にかけて、マイクロソフトのクラウドに関する効果をまとめて発表する」などとした。

NTTデータ 山田伸一代表取締役常務執行役員

 NTTデータ 山田伸一代表取締役常務執行役員は、社内で電子入札システムをWindows Azureへの移行プロジェクトを実施したことを紹介。インフラ関連コストを90%削減したことや、導入に伴い既存アプリケーションとAzureのギャップを埋めるためのツールとガイドラインを整備した取り組みを紹介。「ファイルアクセス制御で詳細にACLが設定できないなどの課題はあるが、劇的なコストダウンのメリットは大きい」などとした。

 一方で、「クラウドが定着期からしっかり使いこなす時期に入ってきた。これからの広がりを考えると、オンプレミスのアプリケーションが、クラウド環境に移ることを視野に入れないと本当の拡大がない」などと語った。

Windows Azure移行プロジェクトクラウドビジネスの事業領域

 

「弥生オンライン」を正式発表、クラウドの流れは必然

弥生の岡本浩一郎社長

 弥生・岡本浩一郎社長は、「この場で新たな発表をする」として、Azureを活用した弥生オンラインを正式に発表。「クラウドの流れは必然であり、迷うことなくSaaSクラウドサービスを開始する。弥生がAzureをプラットフォームとしたのは、パッケージ開発で活用しているC#や.NETフレームワークといった開発資産をそのまま活用できる点にある。弥生オンラインは、従来の弥生会計とはまったく異なる統合型の業務ソフトとして提供していくことになる。よりかんたん、やさしいを実現する製品となり、中小企業、個人事業主、起業家向けのミニEPRといえるものになる。これまで弥生を敬遠していたユーザーにも使ってもらいたい」と語った。

 11月25日から弥生のパートナーである家計事務所向けに限定的なβテストを行い、2011年7月にオープンβを開始し、2011年9月の商用サービス開始、2015年度まで30万ユーザーの獲得を目指すという。

富士通のサービスビジネス本部 本部長兼常務理事 阿部孝明氏

 Azureにおいてマイクロソフトと協業関係を結んでいる富士通のサービスビジネス本部本部長兼常務理事・阿部孝明氏は、「先週、館林の当社データセンターにAzureのサーバーを整備完了した。日本のインフラを活用したサービスを提供できる。基幹システム、フロントシステム、社会システムのほか、農業ノウハウ継承、渋滞緩和、パンデミック対策といった新たな分野で活用していきたい。富士通のデータセンターを活用したクラウドサービスを、第1弾として館林データセンターからサービスを提供し、Azure技術者を5000人強を育成する。富士通ならではの高品質なサービス群を付加価値提供する。さらにクラウドパートナープログラム内で、FJ-Azureインテグレーションバートナーを育成し、新たに200社と共創する」とした。

 樋口社長は、そのほかに、IDCフロンティアによるクラウドサービスを利用した野村不動産向けの大規模マーケティングキャンペーンサイトでの活用、NTTコミュニケーションズとのクラウド連携などを紹介した。

 

プライベートクラウド導入を支援する「Hyper-V Cloudプログラム」

 さらに、今日発表の新たな施策として、「Hyper-V Cloudプログラム」を実施すると発表。2010年上半期におけるx86サーバー用仮想化ソフトウェアの導入企業数で、初めてVMwareを抜いて首位に立ったことを示しながら、このプログラムの内容について説明した。

 顧客のニーズにあわせたクラウド構築方法をパートナーとともに提供するもので、構築ガイドとサービスの提供コストをVMwareの3分の2とする「Hyper-V Cloud Deployment」、検証済みのハードウェアの提供を最短30日間で行う「Hyper-V Cloud Fast Track」、Windows Serverの資産活用サービスをパートナーから提供する「Hyper-V Cloud Service Providers」、プライベートクラウドの導入支援プログラムである「Hyper-V Cloud Accelerate」で構成する。

 Hyper-V Cloud Fast Trackは、デル、NEC、日本IBM、日本HP、日立製作所、富士通の6社が参加。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、検証を完了した製品を出荷する。

Hyper-V Cloudの概要Hyper-V Cloud Fast Trackには、デル、NEC、日本IBM、日本HP、日立、富士通の6社が参加する

 日立の情報・通信システム社執行役員プラットフォーム部門COOの小菅稔氏は、「日立のクラウド関連ビジネスは、2009年度には500億円だったが、これが2012年度には2000億円、2015年度には5000億円になる。高信頼、高機能の製品と、マイクロソフトの先進的なスタックとともに、ユーザーの課題を解決する垂直統合型のソリューションとして提供していく。マイクロソフトとの協業で、クラウド分野における提案力を高めていく」としたほか、NECの藤吉幸博代表取締役執行役員副社長は、「NECは基幹系クラウドを追求していく考えであり、これまでにやってきたシステムインテグレーション事業を強化し、NECらしいクラウドサービスを提供する。NECはWindows基盤システムとして、Hyper-V Cloudを採用。オールインワン型クラウド基盤としてグローバルに提供する予定である」とした。


日立の情報・通信システム社執行役員プラットフォーム部門COO 小菅稔氏NECの藤吉幸博代表取締役執行役員副社長

 

他のクラウドサービスとの差異化を強調、「常日ごろから競合を意識」

クラウドに関するロゴマークを一新し、全世界で展開する

 多くのゲストを招いた基調講演は、マイクロソフトのクラウドへの本気ぶりを証明するものになったといえよう。

 樋口社長は締めくくりに、「パートナー各社には、マイクロソフトとともに、クラウド時代を築いてほしい。そして、お客さまにはマイクロソフトのクラウドへの真剣な取り組みを理解してほしい」と呼びかけた。

 基調講演は全体的に、競合他社のクラウドサービスとの差異化を強調していたのが特徴だった。

記者会見での樋口社長

 基調講演終了後の報道関係者向けの会見では、樋口社長は「常日ごろから競合他社を意識しているが、今日、ご紹介した内容は、あくまでもお客さまの声としてとらえてほしい。十分に競合に対抗できるものがそろっている」などとした。

 また、マイクロソフトのクラウド事業の黒字化については、「いかに囲い込むかがいいまの競争である一方、メガデータセンターの設置など、規模の経済性の競争もあり、まだキャパシティには余力がある段階で投資をしている。これは日本法人としては分かりかねる。大きなトレンドの変化であり、迷いがあってはいけない。その点をきっちりと理解して取り組んでいく。パートナーのビジネスも、クラウドによって、目の前に売りが立つのではなく、月額課金で伸びる。顧客を集めることで経営の安定性がたもてる。マイクロソフトはパートナービジネスを展開している企業であり、パートナークラウドとの連携が必要であると考えている」とした。

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