XenDesktop 5で加速する仮想デスクトップ


 10月頭にドイツ・ベルリンで開催された米Citrixのコンファレンス「Citrix Synergy2010 Berlin」において、デスクトップ仮想化ソフトのXenDesktop 5が発表された。

 そこで今回は、XenDesktop 5に関して解説していこう。

 

仮想デスクトップを全方位でサポートするXenDesktop

Windows 7の登場により、デスクトップ仮想化のマーケットが急速に拡大している
デスクトップ仮想化に注目が集まるにつれて、XenDesktopに対するニーズも高まっている
仮想デスクトップの画面。エンドユーザーは、PCを使っているのと同じ感覚でVDIが利用できる
日本国内でも、大企業において数千台ベースの導入が行われている

 XenDesktop 5の特徴を解説する前に、XenDesktopそのものについて、まず説明しよう。

 XenDesktopは、デスクトップ仮想化のためのインフラだ。大きく分けて3つの仮想化システムが用意されており、ユーザーのニーズに合わせて利用することになる。

 1つ目の仮想化システムとしては、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)がある。VDIは、サーバー上でハイパーバイザーを動かし、仮想化された環境でデスクトップOSを動かそうというものだ。クライアント側からは、シトリックスのFlexCastテクノロジーとHDXを使ったクライアントソフト(Receiver)を使ってアクセスする。FlexCastやHDXは、Windows OSのリモートデスクトッププロトコル(RDP)の一種だ。シトリックスでは、古くからマイクロソフトと協力してRDPの開発を進めている。

 仮想化されたデスクトップOSを動かすハイパーバイザーとしては、シトリックスのXenServerだけでなく、マイクロソフトのHyper-V、VMwareのESXなどもサポートしている。

 XenDesktopのVDIにおける最大の特徴は、ユーザーのニーズに合わせて、さまざまなシナリオに対応していけることだ。例えば、コールセンターのように、多くのオペレーターが同じ環境を利用する場合は、VDIでまったく同じ環境を起動していけばいい。オペレーターがクライアント端末に電源を入れれば、自動的にXenDesktopが環境をコピーして、仮想環境上に仮想デスクトップを起動していく。

 先ほどのシナリオでは、すべてのユーザーが同じ環境を利用していることになる。このため、ユーザー各人が、プライベートな環境を使うことはできない。これでは、PCを使って仕事をしているオフィスワーカーにとっては、自由度が少なく使いにくい。そこで出てきたのが、個人のデスクトップ環境を1つ1つ仮想環境上に用意して、ユーザーはリモートからアクセスするというものだ。

 このシナリオなら、個人個人の環境を仮想サーバー上用意することができる。いってしまえば、クラウド上に、個人のPC環境が用意されているといったところだろう。

 メリットとしては、各ユーザーがPCというハードウェアに縛られる必要がなくなる点が挙げられる。本社のデスクにあるPCでも、出張先のノートパソコンでも、セキュリティさえしっかりしていればネットカフェのPCからでも、会社のデスクトップ環境に簡単にアクセスを行える。

 IT管理者側でも、個々のパソコンを管理する手間を省くことができる。サーバー上に仮想化されたデスクトップ環境を一括して管理していればOK。OSやアプリケーションのパッチ適応も、簡単に行える。

 このシナリオでは、パワフルなサーバーを効率よく利用することができる。多くのオフィスワーカーは、それほど高い負荷がかかるアプリケーションを始終動かしているわけではない。今までのように、クライアントPCを個人に配布するとなると、ある程度のパフォーマンスの製品を配布することになるが、VDIのシナリオなら、アクセスするPCは非力でも、サーバーがパワフルなら、アプリケーションも高いパフォーマンスで動かすことができる。

 もし、CAD/CAMなどの個々のユーザーが高いパフォーマンスを必要とする場合は、サーバー側のデスクトップ環境を共有せずに、ブレードPCなどを導入して、1人のユーザーが1つのブレードPCを占有するようにすれば、エンジニアリング ワークステーションについても、VDI環境で利用することができる。

 

アプリ配信機能「XenApp」とクライアントハイパーバイザー「XenClient」

 XenDesktopが持つ2つめの仮想化システムとしては、XenAppといわれるアプリケーション仮想化のシステムだ。

 VDIでは、デスクトップ全体をリモート端末に転送していた。しかし、XenAppでは、アプリケーションのウインドウだけをリモートに転送する。

 これを使った場合、例えばローカルPC上でWindows XPが動作していても、XenAppにより、Windows XPではサポートしていないInternet Explorer 9(β)などを動かすことができるため、画面上ではWindows XPの上で、Internet Explorer 9が動いているように見える。

PCに詳しくないユーザーにとっては、VDIでは、2つデスクトップ画面があるのは不思議かもしれない

 ユーザーにとってわかりやすいのは、一度ローカルPCのOSを起動して、再度VDIで仮想デスクトップにアクセスする、といった手順がいらないことだ。また、VDIのようにデスクトップ画面が2つ存在するということは、仕組みを知らないエンドユーザーにとっては、訳がわからなくなってしまう。

 XenAppならこのようなことはない。現在動かしているOS上で、アプリケーションを動かすのと同じ感覚で、リモート環境で動作しているアプリケーションが使用できる。

 XenDesktopのVDIとXenAppは、リモート端末として、PCだけを対象にしているわけではない。例えば、iPadやiPhone、Androidベースの端末などでも、Receiverソフトが用意されている。これらの端末から、簡単に自分のデスクトップ環境にアクセスして、仕事をすることができる。

 例えば、出先ではiPadからXenDesktopを使って、Windowsのデスクトップ画面にアクセスすることができる。ノートパソコンを持ち出すよりも、セキュリティを考えれば安全し、ローカルに作業したデータが残らないので、もしiPadを紛失したとしても、セキュリティ上問題になることがない。

 XenDesktopがサポートする最後の3つ目は、先日発表されたばかりのXenClientだ。クライアントPCに導入するハイパーバイザーのXenClientは、独自のライセンスではなく、XenDesktopのライセンスに含まれている。

 現在、XenClientは、XenDesktopの管理ツールと連動しているわけではない。また、XenServer上に仮想アプライアンスとして動作しているSynchronizerとXenDesktopのVDI機能が連携しているわけでもない。つまり、XenDesktopのVDIで動作する仮想マシンを、XenClientに持って行きローカルPCで動かしたり、逆にXenClientの仮想マシンをXenDesktopのVDI持って行ったり、という双方向性はない。

 このあたりは、2011年にリリースされるアップデートで、サポートされる予定になっている。今回のXenDesktop 5では、XenClientがXenDesktopファミリーに入ったというだけで、今後XenDesktopのVDIやXenAppとの連携や融合を進めていくことになるだろう。

XenDesktop 5で行われた機能アップは?

FlexCastテクノロジーは、VDIから、XenClientなどのクライアント仮想化の領域でも幅広いシーンで利用されている

 XenDesktop 5では、FlexCastやHDXの機能アップが行われている。両テクノロジー共に、低速回線でのパフォーマンスをアップするために、画面転送の圧縮率がアップされている。さらに、QoSをサポートすることで、画面転送の帯域保証を行っている。

 これ以外にも、以前からサポートされている動画再生、3Dグラフィックスのサポートなども強化されている。

 FlexCastやHDXの機能アップは、段階を踏んで行われることになる。今年中にリリースされるXenDesktop 5では、いくつかの機能強化しか行われないが、2011年には、マイクロソフトの新しいリモートデスクトップ機能「RemoteFX」に対応する予定だ。

 XenDesktop 5でも最も大きく変わったのが、以前Dazzleといわれていたアプリケーション配信ポータルだ。XenDesktop 5ではこれが、Citrix Receiverと統合されている。

 このアプリケーション配信ポータルサイトでは、あらかじめ登録されているアプリケーションやSaaSアプリケーションなどを、ユーザーが自分の手で仮想デスクトップに登録し、自分のデスクトップ環境を簡単に構築できる“セルフポータル”。Web UIで簡単に利用できるため、IT管理者がエンドユーザーのリクエストをいちいち聞いて、仮想デスクトップ環境を構築する必要もなくなる。

 もし、アプリケーションに対して、利用権限がなければ、利用権限をリクエストし、上司の認証を受けた後にインストールする、といったこともできる。


XenDesktopのReceiverは、PCやシンクライアントだけでなく、スマートフォンやタブレットにも対応しているDazzleから名称が変わったセルフポータルサイト。XenDesktop 5からは、Receiverに統合された
新しいReceiverの画面。ここから、簡単にエンドユーザーがアプリケーションの追加が行える。エンドユーザーは、アプリケーション名の横にある「Add」ボタンを押すだけで、仮想デスクトップにアプリケーションをインストールすることができる。

 さらに、XenDesktop 5では管理ツールが強化され、新しく「Desktop Studio」と「Desktop Director」という管理ツールが用意された。

 このうち、Desktop Studioは、仮想デスクトップの構築や配布を支援する管理ツールだ。管理者は、デスクトップの構築・テスト・アップデートを、1カ所で一度実行するだけで、すべてのユーザーの仮想デスクトップを展開し、運用管理できる。インストールにかかる時間はわずか10分ほどで完成する。

 今までのXenDesktopでは、管理ツールが機能別に複数に分かれていたため、仮想デスクトップ環境を1つ作るのにも、手間がかかった。Desktop Studioでは、今まで無駄な手間がかかった作業を、1つの管理ツールで一貫して行えるようになった。これにより、XenDesktopの運用がやりやすくなった。

 また、Desktop Studioは、各操作をPowerShellコマンドで出力することもできる。これを利用すれば、Power Shellを使って、自動化も行える。

 Desktop Studioは、将来的にマイクロソフトのSystem Centerに統合されていくのかもしれない。そうなれば、Windowsと密接な関係でXenDesktopの管理・運用が行えることになるだろう。


XenDesktop 5では、管理の用意さを実現するために、10分間で新しい仮想デスクトップ環境を構築できるよう、Desktop Studioが開発された。Desktop Directorは、XenDesktopの利用者に対して、素早いヘルプを提供できるようにしたDesktop Studioの画面。ここでは、サーバー別に動作している仮想デスクトップの状況を確認できる

 もう1つのDesktop Directorは、Webベースの管理ツールだ。この管理ツールでは、すべてのユーザーの仮想デスクトップの監視、トラブルシューティング、修復などの作業をリモートから実施できる。さらに、各ユーザーのセッションに割り込んで、仮想デスクトップやアプリケーションの使い方を画面とキーボード/マウスを相互に操作しながら、教えることもできる。これなら、ヘルプデスクの作業も楽になるだろう。


Desktop Directorでは、ユーザーが使用している仮想環境の負荷などを簡単に確認することができる仮想デスクトップの動作状況もDesktop Directorを使えば、簡単に分かる。これを使って適切なヘルプを行うことが可能になる

 XenDesktop 5は、今後統合されていくデスクトップの仮想化における大きな第一歩といえるだろう。2011年には、XenClientとの統合、マイクロソフトの製品群との融合など、さまざまな改良が控えている。VDI、アプリケーションの仮想化、クライアントPCの仮想化など、全方位的にサポートしているのはXenDesktopだけといえる。

 XenDesktop 5は、12月までに正式版がリリースされる予定だ。日本語版も、正式リリース同時に提供される。

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