大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Windowsの無償提供でMicrosoftが狙うこと~日本市場への影響を考える (Windowsの無償提供で狙っていることは?)

Windowsの無償提供で狙っていることは?

 もうひとつのポイントは、Windowsの無償提供によってMicrosoftが狙っているのは、Officeの事業拡大であるという点だ。これはOffice for iPadと同様の狙いがあるといえる。

 今回発表した9型未満のデバイスに対するWindowsの無償提供では、同時に、「ハードウェアパートナーに対して、Office 365の1年間無償サブスクリプションなどのサービスを含む」という言葉が付け加えられている。

 これにはいくつかのとらえ方がある。

 ひとつは、「Office 365の1年間無償サブスクリプション」に関してである。

 これは、OEMベンダーおよびODMベンダーといったハードウェアパートナーに対して、Microsoftが無償で、Office 365の1年間無償サブスクリプションを提供するのか、あるいは、Microsoftはこの部分は有償でハードウェアパートナーに提供し、エンドユーザーは無償でこれを利用できる仕組みであるのかという点が不明確だ。Build 2014に関するレポートでは多くが前者のような形でとらえて報道しているが、Microsoft社内では、後者のとらえ方も出ている。

 つまり、Windowsは無償で提供するが、それに付随するOffice 365の1年間無償サブスクリプション部分は、ハードウェアパートナーに買い取ってもらうというわけだ。

 これによってWindowsは無償でも、Office 365で収益を得るという仕組みが成り立つ。タブレットやスマートフォンにおけるOfficeの普及戦略にも大きく貢献することになるだろう。そして、エンドユーザーは、1年間を無償で利用したのちに、2年目以降は有償サービスに移行するという動きも見込まれるのだ。

 もうひとつとらえておかなくてはならないのは、「Office 365の1年間無償サブスクリプションなど」という表記において使用した「など」という言葉だ。

 前面にはOffice 365が出ているが、「など」ということを考えれば、Microsoftが持つ他のアプリケーションも、提供対象になる可能性がある。例えば、Skypeの有償サービス、あるいはBYODを視野に入れてYammerの有償サービスも、無償のWindowsとともに提供する可能性があるというわけだ。この場合も、有償サービス部分はハードウェアパートナーに買い取ってもらう、という提案が見込まれる。場合によっては、Office 365は有償で買い取ってもらい、その他のソフトウェアは無償で提供するという提案も考えられるだろう。

 いずれにしろ、Microsoftは無償のWindowsをきっかけとして、サービス事業の地盤を固めよう姿勢であることは間違いないのだ。

 そしてもうひとつ気になるのは、このWindowsの無償提供プログラムに、仕入れ台数の「縛り」を設けているのかどうかといった点だ。

 これは、日本のスマートフォンメーカーが参入できるかどうかの鍵にもなる。

 当初、Windows Phoneを生産するメーカーはNokia、Huawei、HTC、Samsungの4社に限定されていた。それは、Microsoftが用意したメーカー支援策が、Windows Phoneデバイスの生産数量(つまりライセンスの調達量)にあわせて設定されており、その数量をコミットできるメーカーしか競争力を発揮できないプログラムになっていた、という背景がある。

 だが現在では、その内容を緩和したことで、多くのメーカーがWindows Phone市場に参入できるようになっている。インドなどの新興国では、Windows Phone搭載のスマートフォンを投入する地場メーカーが登場。現在では、全世界で11社がWindows Phone市場に参入し、エコシステムを形成している。

 しかし、それでも日本のスマートフォンメーカーは、この11社のなかには1社も含まれていない。緩和したプログラムでも、数量のコミットにはまだハードルがあるからだ。

 今回の無償での提供プログラムに関しては、Microsoft社内に取材をしても、まだその詳細については明らかな情報が出てこない。もしここに調達数量のハードルが設定されているようだと、無償とはいえ、日本のスマートフォンメーカーからはWindows Phoneが登場しない、ということになりかねない。このあたりが気になるところだ。

 また、日本のスマートフォンメーカーからWindows Phoneが登場しなかった場合には、外資系メーカーの製品、中でもMicrosoftの傘下に入るNokiaのWindows Phone搭載スマートフォンの国内投入が期待されるが、その際に、キャリア主導の日本市場において、Office 365などの同時提供が、サポートなどの観点からどう判断されるかも注目されよう。

 2014年夏からは、一部のスマートフォンメーカーから、この施策にのっとったデバイスが登場すると見られている。そのときに日本の市場への展開はどうなるのか。また、その後の展開もどうなるのか。

 もし、これが実現しなければ、Windows Phone向けに提供されるパーソナルデジタルアシスタント「Cortana」の恩恵も、日本のユーザーは受けられなくなる。

 今後の動向には、引き続き注目していきたいところだ。

大河原 克行