大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Windowsの無償提供でMicrosoftが狙うこと〜日本市場への影響を考える

 Microsoftは、米サンフランシスコで開催した開発者向けイベント「Build 2014」を境に、戦略の舵を大きく切ったといえる。

 それを象徴する施策が2つある。

 ひとつは、IoT(Internet of Things)向けのWindowsと、OEMおよびODMベンダー向けに提供する、9型未満のディスプレイを搭載したデバイスへのWindowsの無償提供を開始すると発表した点だ。

 そして、もうひとつは、Build 2014の開催前に発表したiPad向けのOffice製品「Office for iPad」の無償提供の発表だ。これは3月27日にAppStoreで無償公開後、わずか1週間で、1200万ダウンロードに達した。

 まさにこれらは、同社がソフトウェアカンパニーから、サービスカンパニーへとシフトすることを示すものであり、サティア・ナデラ氏がCEOに就任してから発表した、初の大きな施策だともいえる。

 では、これらの施策が日本市場にどう影響するのだろうか。そして、無償提供をベースにした施策において、収益モデルをどう考えているのか。

新たな市場領域への進出を目指して

 まずは、「Office for iPad」の無償提供である。

 この施策の狙いは、ひとことでいえば、Officeユーザー拡大のために新たな市場領域への進出だといえる。

 もともとOfficeは、Windowsプラットフォーム上で10億人以上が利用する、世界最大の出荷数を誇るビジネスアプリケーションだ。だが、この利用者数をさらに増やすには、Windowsプラットフォーム以外への展開が今後の鍵になる。そのターゲットがiPadというわけだ。

 Office for iPadは、「Word for iPad」「Excel for iPad」「PowerPoint for iPad」で構成されるOffice製品で、WordやExcel、PowerPointのファイルを閲覧することができる機能を持つ。

 しかし、iPad上での新規ファイルの作成や編集作業する際には、このアプリだけでは操作できない。そして、Microsoftにとっても、iPad向けに無償のままで終わってしまっては、収益は一切ない。

 そこで登場するのが、同社がクラウドで提供する「Office 365」のサブスクリプションサービスである。

 つまり、iPad上でOfficeファイルを閲覧する機会を増やすことで、結果として、編集作業を行うきっかけを作ったり、作業をしたくなったりする機会を増やすことができる。これにより、編集作業に適したサブスクリプションサービスの購入へとつなげようというわけだ。

 Office for iPadは、Office 365のサブスクリプションサービスとの組み合わせによって、初めて収益モデルが成り立つのである。

 これは見方を変えれば、冒頭に示したように、Microsoftがソフトウェアカンパニーから、サービスカンパニーへのシフトを象徴する出来事となる。

 iPad上でのOfficeの収益モデルは、ソフトウェアのライセンス販売ではなく、Office 365によるクラウドサービスでの収益確保ということになるからだ。

 Officeは、同社の収益の柱であるが、その基本はパッケージやプレインストールなどのライセンス販売。Office 365は急速な勢いで成長しているが、まだサービスによる収入は少ない。

 iPadという新たな市場攻略において、ライセンスモデルの収益構造を崩さずに、利用者を拡大するという点でも、この施策は理にかなったものだといえるだろう。

 では、日本ではどうなるのだろうか。

 Office for iPadは、日本語を含む29言語に対応しているが、現時点では、日本では提供されていない。「言語」では対応しているが、「市場」としては、日本は含まれていないという不思議な構図となっている。

 だが、Office for iPadは、Office 365のサブスクリプションサービスとの組み合わせの施策という前提を考えれば、答えは至ってシンプルだ。

 日本では、個人ユーザーを対象にしたOffice 365のサブスクリプションサービスが提供されていない。収益の受け皿となるサービスがないのだから、無償のOffice for iPadだけを日本で提供する意味はない、というのが今の状況だ。

 日本において、個人向けOffice 365のサブスクリプションサービスを提供していない背景には、PCにOfficeをプレインストールして提供する手法が定着している点があげられる。このビジネスモデルは、世界的にみても日本が突出したものとなっており、日本マイクロソフトの収益基盤を支えるものとなっている。言い換えれば、ライセンスモデルによる販売手法から脱却しにくい状況にあるともいえる。

 だが、新たな市場開拓のために、iPad市場の攻略が必須となれば、話は違ってくるだろう。

 実は、日本マイクロソフトでは、年内を目標に、個人向けOffice 365のサブスクリプションサービスを開始する方向で検討しており、それにあわせて、Office for iPadを無償提供する公算が高い。Office for iPadは、すでに日本語対応ができているだけに、あとは個人向けOffice 365のサービス開始とタイミングを合わせるだけだ。

 Office for iPadの存在が、日本における個人向けOffice 365のサービス開始を動かすことになるともいえよう。

(大河原 克行)