ネット直販で追い込まれる国産メーカー



 パソコンメーカーにとって、インターネットを通じたダイレクト販売は、もはや見逃すことができないほど比重が高まっている。

 ネットによる直販が8割を占めているデルはもとより、デルへの対抗色を強く打ち出している日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)、ディーラー網が整備されている日本IBMにおいても、ネット直販の出荷比率が急激に高まっているのだ。

 事実、日本HPでは「パソコンの販売に限れば55%がネット直販であるダイレクトプラスを通じたもの」とコメント、日本IBMでも「国内パソコン出荷の50%以上がネット通販や電話によるダイレクト販売を担当する.comセンターによる販売」という状況だ。

 とくに、中小企業などのパソコン販売において、この比重が高まっているのが特徴だといえる。


ディーラー販売と融合するネット直販

 もうひとつ特徴的なのが、最近では、単なるダイレクト販売だけではなく、既存のディーラー販売と組み合わせたネット販売の手法が活用されはじめていることだ。

 例えば、エンドユーザーが地元の販売店や取引実績のあるディーラーから購入したいが、価格面や納期の面でメーカーのダイレクト販売を活用したいという例もある。メーカー直販の低価格は魅力だが、アフターサポートの面や、ハードウェア以外のソリューションを同時に手に入れたいという要求もあるからだ。

 日本HPを例に取れば、このときに、エンドユーザーは、ダイレクトプラスの仕組みを利用し低価格でのパソコンやサーバーの購入手続きを行うと、製品は、メーカーから直接、ユーザーのもとに配送。一方で、注文書はディーラーに回され、中間マージンなどがディーラーに支払われるという仕組みになっている。そして、ソリューションやアフターサポートはディーラーから購入するという仕組みだ。

 日本HPによると、ダイレクトプラスの販売のうち、実に7割がこの仕組みを利用しており、ネット直販の比重を高める要因のひとつとなっている。

 少し前までは、メーカーのネット直販は、販売店と直接競合するものだと捉えられていたが、このように、ディーラー販売と融合する仕組みが構築されており、むしろ、これがネット直販を加速する要因のひとつとなっているのだ。


ますます熾烈化する価格競争

 だが、ネット直販が加速するに伴って、メーカー側では問題も噴出している。

 価格競争の熾烈化だ。

 とくに、しのぎを削っているのが、デルと日本HPの外資系2社である。

 日本経済新聞の紙面を舞台とした低価格キャンペーンの広告展開では、両社が連日のように低価格の製品を提示しているのを見ても、その争いが熾烈化しているのは明らかだろう。

 このキャンペーンでは、パソコンそのものを低価格で打ち出すとともに、ディスプレイを低価格あるいは無料で付属させたり、メモリをアップさせたりといったサービスもあり、ユーザーの買い得感を煽っている。

 ある大手国産メーカー幹部は次のように話す。

 「デルや日本hpが、直販サイトに一般的に掲載してある価格にならば、なんとか追いつける。だが、新聞広告によるキャンペーンとなると話は別。とても、あれだけの価格を継続的に打ち出せるものではない」。

 つまり、国産メーカーにとって、デルや日本HPのネットでの一般表示価格は脅威ではないが、新聞広告を活用した低価格キャンペーンはまさに脅威に値するというわけだ。


これだけ違う、外資系メーカーと国産メーカーの差

 では、低価格を打ち出せる海外メーカーと、それを脅威としてしまう国産メーカーとの差はどうして生まれてしまうのだろうか。

 ひとつは、全世界規模での出荷実績の差がある。IDCやガートナーなどの調査会社の調べによると、デルやHPの年間出荷規模は2500万台。それに対して、国産メーカーは、もっとも多い富士通で630万台。国内ナンバーワンのNECは270万台と、まさに一桁違う差がある。この量産規模の差が、生産コストの差となって生まれるのは当然のことだ。

 また、海外シフトを進める国産メーカーだが、アジア地域などの安い労働力を生かす地域への生産シフトを完了させている米国メーカーの方が、すでにその効果を発揮しやすい状況にあるというのもうなづける。

 さらに、国産メーカーの体制が、海外メーカーに比べてスリム化できていないという声があるのも事実だ。

 そして、日本全国津々浦々まで張り巡らしたディーラー網、販売店網が足かせとなって、その反発を恐れるあまり、ネット直販に本格的に乗り出せないというのも事実だ。

 富士通、NECなどの国産メーカーのネット直販比率は、依然として1桁台前半。体制は作っていても、決して数字に結びついているわけではないのだ。


国産メーカーに勝算はあるのか?

 では、国産メーカーは、ネット通販によるダイレクト販売はこのままにとどまってしまうのだろうか。

 実は、主要各社に聞くと、ネットによるダイレクト販売は避けては通れない取り組みだと話す。また、この事業に乗り出さなければ事業拡大にも限界があるとの危機感もある。

 事実、富士通は今年1月から「試験的」とはいいながらも、低価格を打ち出したキャンペーンによる広告展開を開始させたし、NECも、2月から直販サイトの名称を121@storeから、NECダイレクトというメーカー直販であることがわかりやすい名称に変更させ、新年度となる4月以降、中小企業向けの展開を強化する方針を示している。

 だが、先にも触れたいくつかの課題もあり、外資系メーカーのようなダイナミックな展開ができないのも事実だ。

 企業向けのネット販売の比重はますます拡大する方向にある。デルが国内パソコンシェアで3位に躍進したのも、ネット直販の効果が大きいのは明らかであるし、この事業を重視しはじめた日本HPは、新聞広告への投資予算を2003年には前年比3倍としたものを、今年はさらにその2倍規模に拡大する予定で、ネット直販事業の手綱を緩めるつもりはない。

 果たして、国産メーカーは、どう対抗するのか。早い段階で手を打たなければ、国産メーカーのシェアの行方にも影響を及ぼすことになりそうだ。

(大河原 克行)
2004/3/30 11:22