デルの成長を左右するのはエンタープライズ事業だ



 デルが、第1四半期(1-3月)の国内IAサーバー市場で初めてトップシェアを獲得した。

 ガートナージャパンの調べによると、デルの出荷台数は24,850台となり、シェアは20.9%。これまで首位を獲得していたNECは、出荷台数は23,950台で、シェアは20.1%で2位となり、僅差でデルがNECを抜き去った。

 デルの浜田宏社長は、昨年末の段階で、「2004年第1四半期は確実にトップシェアになるだろう」と予測していたが、その予測が現実のものになった格好だ。


スケールアウト戦略に特化

デル株式会社 代表取締役社長の浜田宏氏

 同社のサーバー事業の特徴は、スケールアウト戦略に特化している点だ。

 他社がスケールアップあるいは、スケールアップとスケールアウトの2本立ての戦略であるのに対して、スケールアウトに特化したのは、まさにデルならではの戦略だといえる。

 浜田社長は次のように説明する。

 「デルが推進するスケールアウトとは、業界標準技術を採用したサーバーを、ユーザーのシステム拡張要求に応じて増設し、常に高い稼働率で、ITリソースを活用するという手法。2Way、4Wayという標準化された低価格のサーバーを組み合わせることで、ユーザーは低コストでシステムが構築できる。一方、他社が推進しているスケールアップは、大規模なシステムを事前に導入し、必要とされるITリソースの変化に対応していくというものだが、過剰なシステム投資が求められること、長期に渡って稼働率が低くなる可能性が高いこと、さらに、スケールアップによって提案される大規模システムには独自技術が使われていることが多く、導入コスト、運用コストの面でも高価になりがちだ」


米Dellのマイケル・デルCEO

 米Dellのマイケル・デルCEOもこう語る。

 「市場の流れは、独自の技術を利用したものや、大きなシステム構成のものから離れていく傾向にある。16Way、32Wayのサーバーを利用するのではなく、2Wayのような小さなサーバーをつなげていくスケールアウトが主流になってきた。要求されるリソースの変化が大きいWebサイトの構築や運用、大規模データベースやアプリケーションを稼働させるときにも、大きなサーバーを1台導入するのではなく、小さなサーバーを20台、40台とつなげていく使い方が求められている」

 デルのサーバーの魅力は低価格だが、その低価格サーバーの活用領域が、大企業の部門サーバーや中小企業の基幹サーバーに留まらず、大手企業の情報システム部門主導の基幹システムの領域にも広がってきている。これも同社のサーバーの出荷台数の拡大を後押しすることにつながっている。


UNIXの置き換え戦略を推進

デル・プロシェッショナル・サービス事業部 技術統括部長の諸原裕二氏

IAサーバーの対応範囲が拡大している

 デルのサーバー戦略で見逃すことができないのが、UNIXサーバーからの置き換えだ。むしろ、デルのサーバービジネスにおいては、ここが主要ターゲットとなっている。

 現在、デルのサーバーの出荷構成比を見ると5割がWindowsサーバー、3割がOS非搭載、そして2割がLinuxとなっている。

 「WindowsやLinuxという標準化した技術によってサーバーを提供するデルは、レガシーやUNIXで構築するシステムよりも、はるかにコストが安く済み、さらに、それ以上のパフォーマンスが発揮できるということを多くのユーザーが認知しはじめている。最も安価に、そして、高いパフォーマンスを実現する手法がスケールアウトであることに、日本のユーザー企業が気がつきはじめた」(デル・プロシェッショナル・サービス事業部・諸原裕二技術統括部長)。

 実際に、いくつかの事例が出ている。

 ある案件では、デルをはじめ7社が競合。デル以外の6社はUNIXでのシステム提案となった。当然、IAサーバーで提案したデルは圧倒的ともいえる低価格でのシステム提案を実現した。だが、競合ベンダーは、デルの提案ではシステムが稼働しないとまで言い切ったという。結果は、他社が2カ月かかるといったシステムをわずか2週間で稼働させ、現在でも安定稼働しているという。

 また、別の案件では、ハイエンドUNIXによるシステム構築の検討が進んでいた企業から、「あくまでも参考意見。デルが採用される確率は3%」とまで明言されて始まった提案が、検討を重ねるうちに、ハイエンドUNIX以上の高性能なシステムが、低コストで実現できることが認識され、結果としてデルが採用されることになったという。

 こうしたデルのサーバーの提案が受け入れられ始めているのは、サーバーが低価格であるという理由だけではなく、ソリューションを提案できる体制が整い始めたことも影響している。

 具体的には、サーバー事業の成長とともに、整備してきたコンサルティングチームや技術チームの存在だ。

 その中核となるデル・プロフェッショナル・サービス(DPS)では、三共製薬のような数億円規模のシステム案件に関するコンサルティングという実績も出始めており、サーバーをデルに決定する前に、まずはデルのDPSを活用するという事例も増えているという。

 また、同社の川崎本社内に設置しているテクノロジー・ソリューション・センターも、システムの動作検証を行う拠点として見逃すことができない存在だ。

 そして、日本ヒューレット・パッカードやサン・マイクロシステムズといった外資系コンピュータベンダー、アクセンチュアなどのコンサルティングファームなどでエンタープライズ事業で実績を持つ人材が、続々とデルへと入社してきている点も見逃せない。


 デルのある事業責任者はこう話す。

 「ここ1-2年で、デルのエンタープライズに対する体制は一気に整ってきた。しかも、商談やシステム提案の現場を見ると、IAサーバーの案件では、競合する国産メーカーや、外資系メインフレーマなどは、とても一線級の技術者やコンサルタントを投入しているとは思えないのが実態。IAサーバーに精通した一線級の技術者が、直接ユーザーに対応しているデルとの差が出るのは明白だ」

 現在、DPSを担当する社員は約60人。これに日本ユニシスや野村総合研究所など約20社のパートナー企業の担当者をあわせると約150人の体制となる。さらに、海外で蓄積したLinuxやWindowsによる基幹システム構築の実績、ノウハウの共有や活用、IAサーバーによるシステム構築のためのテンプレートの整備なども進んでいる。

 また、ストレージにおけるEMC、ソフトウェアにおける日本オラクル、マイクロソフトとの緊密なパートナーシップも、同社のエンタープライズ事業を後押ししている。デルの本社には、日本オラクルの社員が常駐して技術面での緊密な連携をとっているほどだ。

 デルのイメージは、まだ低価格のパソコンメーカーという印象だろう。だが、そのイメージとは裏腹に、エンタープライズ事業を拡大する体制を着実に整えつつある。

 日本では、液晶ディスプレイなど、「デジタル家電」とされるコンシューマ事業にばかりスポットが当たっているが、実のところは、社内では、エンタープライズ事業が今後の成長の柱に位置づけられている。デルの今後の成長を占うのならば、コンシューマ事業よりも、エンタープライズ事業に焦点を当てて分析するべきである。

関連情報
(大河原 克行)
2004/4/27 00:00