日本IBM、中堅・中小企業向けに本格展開



 日本IBMが中堅、中小企業向けのビジネスに本腰を入れ始めた。

 そして、その事業を推進する中核的役割を担っているのが、これまでパソコン事業、マーケティング、ソフトウェア事業で手腕を発揮した常務執行役員の堀田一芙氏だ。

 1月1日付けで中堅・中小企業向けのビジネスを担当するゼネラル・ビジネス事業担当に就任。早くも部長の3割を入れ替えるなどの大幅な人事・組織改革にも乗り出している。

 果たして、日本IBMの中堅、中小企業向けのビジネスはどうなるのか。就任2カ月の堀田氏に話を聞いた。


日本IBM 常務執行役員の堀田一芙氏

 ここ数年、IBMは、全世界規模でゼネラル・ビジネス事業のテコ入れを取り組んでいる。

 その成果は昨年あたりから徐々に出始め、すでに、昨年実績では売上高で前年比2桁増の伸びを達成しているという状況だ。

 では、なぜIBMは、中堅・中小企業向けビジネスに力を注ぐのか。

 堀田氏は次のように説明する。

 「全世界におけるIBMのビジネスを見た場合、米国、欧州、日本という重要な市場に加えて、インド、中国というエリアが極めて重要な位置を担いはじめている。これらの市場の特徴は、SMBと呼ばれる中堅・中小企業をいかに攻略するかという点に尽きる。つまり、今後のIBMにとって、SMB市場に対するアプローチが重要だという判断が働いている」

 IBMの主要顧客は、周知の通り、ビッグアカウントである。

 ゼネラル・ビジネス事業部が担当する中堅・中小企業の市場には、過去なんどもアプローチを繰り返しているが、日本においては、国産メインフレーマーが全国各地の拠点やパートナーを通じたきめ細かい販売網を構築しているのに対して遅れをとり、その牙城を切り崩せずにいた。だが、今回の取り組みは、全世界的な方針のもとにSMB市場へのアプローチが開始されたという点で、これまでとはわけが違うのだ。

 「日本においては、e-Japan計画などの動きがあり、SMBにおける導入機運が高まっている。また、バブル崩壊後、企業系列が崩壊しつつあり、一方で企業規模に依存しない形で成長を遂げる企業も出てきた。小さい集団でありながら、グローバルに大きなビジネスを動かすという企業も出てきている。こうした成長性のある企業に対しても、フォーカスしていくことが重要になっている」と堀田氏は語る。


 堀田氏は、1月1日付けでゼネラル・ビジネス事業部長に就任してから体制を一新した。その組織体制は、いわば、ゼネラル・ビジネス事業部が目指す今後のひとつの形を表したものともいえる。

 堀田氏がゼネラル・ビジネス事業部において最も不可欠だと判断しているのはエコシステムの構築だ。

 「ビッグアカウント向けのシステム提案では、カスタマイズを中心とした提案になるが、SMB向けで重要なのは、いかにハード、ソフト、サービスを組み合わせた製品提案ができるかに尽きる。求められているのは、IBMのハードやミドルウェアに、IHVの周辺機器、ISVのソフトウェア、パートナーのSI力やサービスなどをいかに組み合わせることができるか。これが、ゼネラル・ビジネス事業部に求められている点だ」

 SMBの攻略においては、リーズナブルな価格で、いかに早くソリューションを提供できるかといった仕組みを構築することが鍵だとすれば、エコシステムの構築は不可欠といわざるを得ない。

 「日本IBMの直販体制では、SMBの要求に対応できるだけのスピードやコスト体質はとても実現できない」と堀田氏は繰り返す。

 だからこそ、SMBへのアプローチにはエコシステムが必要なのだという。


 このエコシステム型の事業体制は、パソコン事業のやり方に通じるところがある。この点は、堀田氏も認める。

 「いかにパートナーとの連携を図るかという点、そして、製品の良さを訴えるマーケティング戦略が重視される。さらに、事業そのものに求められるスピードやコストを考えると、パソコン事業の経験者、マーケティングの経験者、エコシステムの構築手法を熟知している人材が必要だ」

 これをパソコン事業のDNAと称する。

 堀田氏の体制になってから、パソコン事業経験者が重要なポジションを占めている。つまり、日本IBMのゼネラル・ビジネス事業は、かつてのパソコン事業のスピード感やマーケティング戦略、パートナー戦略が持ち込まれる公算が強いといえるだろう。


 一方で、日本IBMでは、SMB向けの製品群として、EXPRESSを用意している。

 だが、単に中小企業が購入しやすいように、製品を低価格化しただけのイメージが先行している感が強い。このあたりを堀田氏に聞いてみた。

 堀田氏は、「確かに価格先行の製品という形で受け取られることもあるようだ」という点に触れながら、「その印象が強いのは、エコシステムの構築が追いついていないのが原因だ」と話す。

 続けて、「IHV、ISV、パートナーとのエコシステムがしっかりと構築された上であれば、日本IBMが提供するEXPRESS製品群は、低価格の単なるひとつの材料であるという認識から、顧客のソリューションを提供する代名詞に変わるはず」と話す。

 EXPRESSを、SMB向けのサーバー、ミドルウェア製品の総称から、SMB向けのオンデマンドビジネスのためのツールへと発展させるのが今後の課題だとも話す。

 そして、4月には、堀田氏が目指すオンデマンドビジネス型のEXPRESS製品の第1弾が登場するという。それは、具体的には、業種ごとにセグメント化したテンプレート型の製品になりそうだ。いくつかの主要業種を対象にしたソリューションツールがEXPRESSの冠のもとにラインアップされることになる。

 加えて、エコシステムについても、地域ごとのエコシステムが構築されるという点も見逃せないだろう。

 堀田氏の新体制下では、テリトリーマネージャー制を導入し、テリトリーごとに大幅に権限を委譲するとともに、地域別エコシステム構築を命題としている。

 「例えば、神奈川県の製造業のシステムをどうするか、といった課題に対して、エコシステムをテリトリーごとに構築する」というわけだ。

 EXPRESSという製品とともに、ISV、IHV、パートナーが地域ごとに連携することで、SMBユーザーが最も重視する地域密着型のビジネス体制を確立することになる。


 このように、日本IBMのゼネラル・ビジネス事業部による中堅・中小企業向けビジネスは、パソコン事業のDNAを核に動きはじめた。ビッグアカウントを主力とするIBMにとっては異例ともいえるDNAが、この事業を動かすことになる。

 ここ数年、国産メインフレーマー各社は、業績の悪化とともに収益性が比較的高いエンタープライズフォーカスへとシフトし、SMBを対象とした地域密着型の戦略は、後回しになっていた感がある。ここに、名乗りをあげたのが日本IBMというわけだ。

 果たして、堀田氏による日本IBMのゼネラル・ビジネス事業部の本格的な展開は、どこまで成果をあげることができるのだろうか。

関連情報
(大河原 克行)
2004/2/24 13:35