マイクロソフト研究所
Windows 10の新たなアップグレードコンセプト「Windows as a Service」
2017年3月29日 06:00
MicrosoftではWindows 10から、OSの継続的なアップグレードを目指してWaaS(Windows as a Service)というコンセプトを打ち出している。
WaaSでは、Windows 10を継続的にアップグレードしていく(OSにどんどん新機能が追加される)ため、Windows 8までのように、数年後にメジャーアップグレードとして新しいOSを販売することはなくなった。
実際、2015年7月29日にリリースされた当初のWindows 10(開発コード名:Threshold、バージョン1507)が最初にリリースされて、同年の11月にNovember Update(同:Threshold2、バージョン1511)、2016年8月2日にはAnniversary Update(Redstone1、バージョン1607)が提供されている。これらのアップグレードでは、さまざまな新機能が追加されている。
Microsoftとしては、年間に2回ほどのアップグレードを提供する計画を立てている。当初は年間3回もしくは4回といっていたが、企業ユーザーからのフィードバックにより、年間の回数を抑え、アップデート時にある程度まとまった機能を入れ込むようにした。2016年はアップデートが1回しか提供されていないが、WaaSへの移行を考えたイレギュラーな状況だった。
一方、品質更新プログラム(Quality Updates:累積的な更新プログラム)は、今までと同じように月1回提供されている。以前、セキュリティ更新プログラムは個々のモジュールとして提供されていたが、Windows 10では重要な更新プログラムだけでなく、その月にリリースされたすべての更新プログラムを一括してアップデートする「ロールアップモデル」に変更された(Windows 7/8.1も後に追随)。
アップデートをシンプルにし、一括してインストールすることで、Windows OS自体のフラグメンテーションを起こりにくくする狙いがあり、企業のIT管理者が特定の更新プログラムだけをインストールするといったことはできなくなった。
なお、年2回のアップグレードは機能更新プログラム(Feature Updates)と命名されている。
WaaSにおけるサポート期限は
Windows 10では、WaaSというコンセプトを採用したため、サポート期間が大きく変化している。
まずWaaSというコンセプトでは、Windows 10のアップグレード提供モデルを、主にコンシューマ向けのCurrent Branch(CB)、主に企業向けのCurrent Branch for Business(CBB)に分けている(例外として大企業向けのLong Term Servicing Branch:LTSBという提供モデルも用意されているが、そちらは後述)。
CBBは、Pro、Enterprise、Educationなどのエディションで提供されており(HomeはCBのみ)、これらのエディションでは、CBとCBBをユーザー自身の手で切り替えることが可能だ。また企業では、Active Directory(AD)のグループポリシーとして適用することもできる。
CBとCBBの違いは、機能更新プログラムの扱いにある。CBは、コンシューマを対象にしているため、いち早くWindows 10の新機能を利用できるように、機能更新プログラムが提供されたら、4カ月以内にアップグレードが行われる。
一方でCBBは、企業内でのWindows 10の利用を想定しているので、機能更新プログラムが提供されても直ちにアップグレードせず、一定期間の間に社内で計画的にアップグレードを行えるようになっているのだ。
機能更新プログラムは原則として年2回提供されることになっており、サポート対象となるのは、最新より1つ前のバージョンまで。これを踏まえて、最短で12カ月はアップグレードを延期することができる。さらにその後、猶予期間として60日間が設定されているので、実際は約14カ月、アップグレードを延期できるわけだ。
なおCBBでは、Windows Update for Business(WUB)によって、クライアントPCを複数のグループに分け、グループごとにアップグレードするタイミングをコントロールすることができる。
例えば、IT部門はテストを行うために、最初にアップグレードを行うリング1に設定し、経理部門や工場などには安定したWindows 10を届ける必要があるため、アップグレード期限の最後に行う、といった具合だ。
企業側に求められる対応
このようにWindows 10では、今までのメジャーアップグレードとは異なり、年2回のマイナーアップグレードを繰り返していくことで、さまざまな機能が追加されていく形になる。
企業側でも、こうした形への対応が求められる。年2回のアップグレードとなると、今までのように微に入り細に入りテストをしている余裕はなくなるだろう。基本的に、Windows 10は互換性を重視して開発されているため、新たなアップグレードでも動作する可能性は高く、テスト自体をもう少し軽くしていく必要がある。できれば、自動的に検証を行うようなツールがあると良いのかもしれない。
企業専用の特殊な提供モデル「LTSB」
Windows 10 Enterpriseでは、LTSBという特殊なアップデート提供モデルを選択可能だ。LTSBは専用のインストールメディアでインストールされ、年2回の機能更新プログラム(Feature Updates)は提供されずに、継続的に品質更新プログラムが提供される。
大企業のミッションクリティカルな用途で利用され、安定した同じ環境をできるだけ使い続けられるようになっている。
ちなみに、LTSBは年1回リリースされ、サポート期間に関しては、メインストリームサポート5年、延長サポート5年の10年間となっている。
例えば、2015年にリリースされたWindows 10 Enterprise 2015 LTSBはメインストリームサポートが2020年10月13日まで、延長サポートが2025年10月14日まで。2016年にリリースされたWindows 10 Enterprise 2016 LTSBは、それぞれ1年がプラスされる。
WaaSはわかりにくい?
このように、同じWindows 10という名前のOSでも、サポート対象となるバージョンが何かは、アップグレード提供モデルによって異なっている。
ほとんどのユーザーが利用する機会のないだろうLTSBだが、サポートライフサイクルの考え方がこれまでのWindowsに近いため、こちらはわかりやすいだろう。
これに対してCBBでは、サポート期間が明確に決まっていない。前述したようにCBBにおいては、1つ前のバージョンまでがサポート対象となり、2つ前のバージョンは、一定期間の猶予を経てサポート終了になる。
Windows 10は1年に2回のアップグレードが想定されているので、12カ月+60日間(猶予期間)が最短サービスライフサイクルとなるが、Windows 10の機能更新プログラムが毎年何月にリリースされるか決まっていないため、実際にリリースされてみないと、古いバージョンをいつまで使い続けられるかがわからない。
例えば、2015年7月2日にリリースされたWindows 10(バージョン1507)は、時間だけを見ればもうサポートが終了していてもおかしくないが、2016年には機能更新プログラムが1つしか提供されなかったため、サポート期間が最短の場合よりもずいぶん長くなっている。
それでも、2017年3月末にサポートを終了するはずだったものの、WaaSが広く認知されていないためか、Microsoftはひっそりとサポート終了を5月まで延長した(5月と書かれているだけで、何日とは明記されていない)。
実際のところ、長くなる分にはユーザーが困ることはないだろうが、このあたりのあやふやさが、WaaSを余計にわかりにくくしているのだろう。