特別企画
Windows 10の3つ目のアップデート提供モデル「LTSB」
(2016/2/9 06:00)
Microsoftから、Intelの第6世代Coreプロセッサ(開発コード名:Skylake)では、Windows 7/8.1に対するサポートが限定的になること、さらに、Intelの第7世代SoCとなるKabyLakeを使用したプラットフォームでは、最初からWindows 10のみのサポートとなることが発表された。これは、Intelのプロセッサだけでなく、AMDの次世代SoCのBristol Ridge、Qualcomm の8996プロセッサなども当てはまり、今後リリースされるすべてのプロセッサでは、Windows 10のみのサポートになる。
この発表は、米国、日本でも大きな影響を及ぼしているため、最終的に、もう少し緩やかなルールに変更される可能性はある。ただ、Skylake以降にリリースされるプロセッサに関しては、Windows 10だけがサポート対象になるだろう。
そこで問題になるのが、企業内のWindows OSのバージョンだ。
多くの企業は、特需を生み出した2014年のWindows XPの延長サポート終了の時に、Windows 7やWindows 8への移行を果たしている。ただ、数百台、数千台、数万台のPCを導入している企業においては、計画を立てて年間で全体の20%ぐらいを新しいPCに入れ替え、5年~7年ぐらいで、すべてのPCを入れ替えるようにしている(経営状況によっては、入れ替え周期も長くなる。短くなることはほとんどない)。
また、多くの企業では、できるだけ同じクライアント環境を保持したいと思っている。これは、異なるバージョンのOSが混在すると、アプリケーションの互換性テストの煩雑さ、サポートの煩雑さなどができるため、新しいPCであっても、SA(ソフトウェアアシュアランス)のダウングレード権を使って、Windows 7などにしているケースも多い。
しかし、2017年以降はこういった手法は使えなくなる。古いモデルをあえて調達しない限り、Windows 10を利用せざるを得ないからだ。しかしWindows 10では、これまでよりも早いサイクルでアップデートが行われるようになるため、これまでのような運用が、場合によっては難しくなる。
コンシューマ向けの「CB」と企業向けの「CBB」
Windows 10では、ひんぱんにアップデートを提供することで、Windows 10自体を常に最新のトレンドにマッチさせたOSにしようとしている。これが、Windows 10が最後のメジャーバージョンと言われるゆえんだ。
そのWindows 10では、一般的なアップデート提供モデルとして、Current Branch(CB)、Current Branch for Business(CBB)の2つを用意している。
CBは、Windows 10のコンシューマ向けのアップデート方法だ。CBでは、新しいアップデートがリリースされて4カ月以内に適応を強制される。つまり、2015年11月にリリースされたNovember Updateは、3月以降はWindows Updateにおいて必須アップデートとなり、“問答無用”でアップデートが行われる。3月以降に配布されるWindows Updateのパッチは、November Updateが前提になるのだ。
一方のCBBは、企業での利用を考えてCBよりも長い8カ月の移行期間が設けられている。この間にIT管理者はテストを行いアップデートを配布することになる。ちなみに、CBBが利用できるのは、Pro、Education、Enterpriseだけで、HomeはCBに固定されている。
またActive Directory(AD)を利用している環境では、Windows Update for Business(WUB)が利用できる。WUBを使用すれば、社内のPCを複数のリングとして登録して、アップデートのスケジュールをコントロールすることができる。
とはいえCBBであっても、最長8カ月後にはアップデートする必要がある。2015年11月にNovember Updateがリリースされているため、2016年の7月までには、CBBを適用させたProやEnterprise、Educationであっても、アップデートする必要がある。
ひんぱんにアップデートできないユーザー向けのLTSB
ところが前述したように、アプリケーションの互換性などの問題で、こうした運用を行えない企業も多い。そこでMicrosoftでは、SA契約やEnterprise契約などの企業向けライセンスを持つユーザー向けに、アップデートをひんぱんに行わないLong Term Servicing Branch(LTSB)を用意している。
LTSBは、OSの機能としてはEnterpriseをベースにしているが、CBやCBBのように短い期間で強制的にアップデートされるのではなく、アップデートが提供されてから10年間、そのバージョンを利用し続けられるようにしている。つまり、2015年にリリースされたWindows 10 LTSBは、2025年まで利用し続けることができる(もちろん、Windows Updateで提供される更新プログラム=パッチは適応する必要はある)。
このようにMicrosoftでは、LTSBは10年間のサポートを保証している。しかし、Windows 10は年に数回のアップデートが行われるとされているため、5年程度でのアップデートを推奨している。10年間たつと、20~30回、あるいはそれ以上のアップデートが行われているため、一気にアップデートを行うとトラブルが起こる可能性もあるだろう。だからこそ、LTSBでも5年をめどにアップデートをしていくべき、との考え方からだ。
ちなみにLTSBはEnterpriseをベースとしてはいるが、長期メンテナンスを行うために、Enterpriseと比べてもインストールされるアプリケーションが少ない。Webブラウザなど、必要最低限のアプリケーションがインストールされているだけだ。
企業においては、メンテナンスを考えれば、LTSBの方が管理しやすい。しかしLTSBは、Windows 10の最大の特徴というべき年々の進化を強制的にストップさせたものだ。
こういったことから、Microsoftでは、LTSBは、工場で使用するFA用のPCや金融機関などで利用するPCなど、限定された用途向けの特別なOSとして位置付けている。一般的なオフィスで利用するOSなどは、EnterpriseやProを使用すべきだろう。
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日本のIT管理者は、OSのアップデートやアップデートに非常に慎重だ。確かに、OSをアップグレードすると、今までのアプリケーションが動作しなくなったり、ブラウザの挙動が異なったりしてトラブルが起こることが多かった。Windows Updateで配布される更新プログラムなども、配布直後にトラブルが起こることが多かった。
Windows 10では、CBやCBBといった猶予期間を設けることで、アップデートを提供直後にインストールするのではなく、トラブルがないか状況を見極めてから、数カ月後にインストールするという方針をとることができる。ただ、今までのように、ずっとオリジナルの(提供開始時の)Windows 10や、第1弾のメジャーアップデートである2015 November Updateを使い続けるといったことはできなくなる。
アプリケーションの互換性ということを考えていけば、現在主流のWin32アプリケーションではなく、UWA(Universal Windows App)ベースのアプリケーションへと移行していく必要があるだろう。
Microsoftも企業アプリケーションがUWAに移行していないということを問題視しているため、Win32アプリケーションをUWA化する開発ツールを2016年に提供する計画にしている。開発者にとっては、既存のWin32アプリケーションをUWA化するのは面倒と思うかもしれない。しかし、自社のアプリケーションだけを配布できるプライベートストアを使えば、不要なアプリケーションをユーザーが一般のストアからインストールしてしまうこともない。またUWA化しておけば、アプリケーションのアップデートもストアから自動的に行うこともできる。こういった面ではメンテナンス性が優れているといえる。
企業がWindows 10に積極的に移行するために、Microsoftはさまざまな施策を打ってくるだろう。企業側でも、ずっと古いOSに固執するのではなく、Windows 10へ移行すべきだろう。Windows XPのサポート切れで、いろいろと面倒なことが起こったことを思えば、数年をかけ、しっかりとした計画を立ててWindows 10への移行を計画していくべきだろう。