「次の10年を見据えたCloudPlexはゲームチェンジャーになる」~米Brocade・クレイコーCEO


 「CloudPlexはゲームチェンジャーになるアーキテクチャ。クラウド時代をリードするアーキテクチャになる」――。米Brocade Communications Systems(以下、Brocade)のマイケル・クレイコーCEOは、こう切り出した。同社が提唱するCloudPlexは、さまざまなベンダーの製品を組み合わせることでクラウド環境を構築。より柔軟で低コストでの構成を可能にすることができる。

 一方で、同社が提供する新しいネットワーキング技術「イーサネットファブリック」が広がりを見せていることを示しながら、「多くのユーザーの関心は、この技術をいつ自らの環境のなかで使えるのかという点に尽きる」と、イーサネットファブリックへの関心が日増しに高まっていることに自信を見せる。

 クレイコーCEOと、CTO兼コーポレート・ディベロップメント担当バイスプレジデントのデイブ・スティーブン氏、そして日本法人であるブロケード コミュニケーションズ システムズの青葉雅和社長に話を聞いた。

 

CloudPlexこそゲームチェンジャーだ

――Brocadeでは、2011年前半に「CloudPlex」という新たなアーキテクチャを発表しました。このアーキテクチャが及ぼす市場へのインパクトをどうとらえていますか。

米Brocadeのマイケル・クレイコーCEO

クレイコーCEO:私は、CloudPlexこそ、ゲームチェンジャー(編集注:世の中の流れを大きく変えるもの)になるアーキテクチャであると考えています。

 その理由は明白です。データセンターのアーキテクチャに対する考え方が、これまでのものとは根本的に異なっているからです。例えば、いまから5年前に設立したデータセンターでは、ビッグデータ時代を迎え、立ちいかなくなっている例を数多く見かけます。複雑化し、柔軟性を失い、多くのコストがかかっている。

 これに対して、CloudPlexは次の10年を見据えたアーキテクチャだといえます。そして、これからのクラウド環境の変化にも対応できるアーキテクチャです。10年後、20年後を考えても、人々は、仮想化やクラウドから離れていくとは考えられません。

 すべてのデータセンターにおいて、仮想化が進み、クラウドベースのサービスが増えてくることになる。それに伴い、ネットワークトラフィックが膨大になり、大量のデータが活用されるようになる。そうした流れに柔軟に対応するには、ファブリックベースのアーキテクチャが求められてくる。

 Brocadeは、パブリッククラウドのリーダーであり、そのBrocadeが提案したのがCloudPlexということになります。CloudPlexは今後10年間の大きな変化に向けたアーキテクチャであり、いまは、その初期段階にあるといえます。

スティーブンCTO:CloudPlexは、「ファブリック」、「グローバル」、「オープン」という3つの要素がポイントです。

 ファブリックではイーサネットファブリックが重要な技術となり、グローバルという観点では、仮想マシン間のデータ移動まで視野に入れた構成などの新たな考え方が鍵になります。

 そして、オープンという点では、ベストブリードによる仮想化ソリューションを提供するVirtual Compute Blockや、OpenFlowやOpenStackといったオープンな技術に対してコミットしていることがあげられます。特に、OpenFlowは、複数のベンダーの機器が採用されている大規模なクラウド環境において、プロビジョニングやマネジメントの面で効果を発揮する。OpenFlowの枠組みのなかで、ファブリックテクノロジーが活用されることで、大規模なクラウドの運用が実現することになります。

クレイコーCEO:Brocadeは、SANの市場において、全世界で70%以上のマーケットシェアを握っています。この状況はこれからも変わらないでしょう。ここでの経験をもとに、これからイーサネットファブリックの市場で積極的に展開していく考えです。現在、競合他社に先駆けて提供している製品や、今後の当社のロードマップをみていただければ、この市場においても、Brocadeがリーダーの地位を確立できることを理解してもらえるのではないでしょうか。

 Brocadeにとって、大変すばらしい成長機会がここにある。大きなチャンスが目の前にある。まずは、イーサネットファブリックの市場で50%以上のマーケットシェア獲得を目指します。

 

“蓄積がない”ことが強みになる

――端的にお伺いしますが、BrocadeとCiscoとの違いはどこにありますか。

米Brocade CTO兼コーポレート・ディベロップメント担当バイスプレジデントのデイブ・スティーブン氏

スティーブンCTO:Ciscoは、ネットワーキング分野において長年にわたりさまざまな活動を行い、その結果、大規模なインストールベースを獲得しています。今後も、これらのインストールベースを生かして、機能を追加し、ポートフォリオを強化していくでしょう。つまり、Ciscoには、過去20年をかけて作り上げてきた蓄積がある。

 しかし、Brocadeにとっては、ここにこそチャンスがあると思っています。長年かけて構築してきたネットワークは、複雑であり、高価であり、そして、障害が発生しやすい。柔軟性も低い。例えば、Ciscoが提案するネットワークは、仮想マシン間でのアプリケーションの移動は前提とはしていませんし、現時点でも、その点があまり考慮されていない。そこがBrocadeとは大きく異なる点です。

 Brocadeは、仮想化や、クラウド上でのアプリケーションの運用を最適化する新たなアーキテクチャを提供することができるのです。特に、ファブリックベースのアーキテクチャを最も生かすことができるのが、仮想化であり、そのために柔軟性を担保したいというのであれば、選択肢はイーサネットファブリックということになります。もちろん、Ciscoも、ファブリックベースのアーキテクチャを推奨しはじめていますが、同時に構築してきたレガシーなインストールベースにも対応していかなくてはならない。事業の観点からどう整合性をとるか、技術の観点からどうすべきかといったこともやらなくてはならない。

 Brocadeにはそうした側面がありませんから、お客さまの課題解決に重きをおいて、それに最適なものを提供することができます。

 もし、仮想化もやらない、クラウドもやらない、そして、IT予算がたくさんあるというのではあれば、そのままでもいいでしょう。しかし、そんな企業はありません。柔軟性を持ち、従来型のアーキテクチクャと比べてコストが50%も安くなるという、CloudPlexを選ばない手はないでしょう。

 

SANが当たり前になったようにイーサネットファブリックも広まる?

――もともとSANによるストレージビジネスでスタートしたBrocadeですが、いまはどんな事業フェーズに入っていると判断していますか。

クレイコーCEO:いまは成長のフェーズにあります。私がそう断言できるのは、今後、長期にわたって成長するためのテクノロジーと、イノベーションを持っていること。新たなカテゴリーにおいて、どんな製品や技術が求められているかを理解していること。これらにより、Brocadeは、市場を成長させるけん引役を果たすことができると考えているのが理由です。旧Brocade、旧Foundry Networksの強みをうまく融合させ、新たな強みを作ることができたのがいまのBrocadeです。

 私は、6年半前にCEOに就任したときに、SAN事業に加えて、新たな事業を推進するストーリーを考えました。データセンターに対するネットワークを語る上で、Brocadeの立場はユニークであると考えたからです。

 もともとSANのビジネスは、Brocadeと、McDATAの2つの会社によって作られたものです。1996年にはストレージネットワークは存在しておらず、多くの企業が、大規模で、高価な環境の管理に苦しんでいました。ファイバチャネル(FC)とストレージとの組み合わせが、お客さまのストレージの問題を解決できると考え、それが爆発的に広がった。

 私は、15年前にMcDATAでビジネスをしていたときに、みんなは私のことを「クレイジー」だといった。15年前にはそんなことを考えた人は一人もいなかったからです。しかし、いま、SANは、世界中のどこにでもある。

 興味深いのは、いま私が、イーサネットファブリックに関して、お客さまに話をしても、誰も私がクレイジーだとはいわない(笑)。また、本当のその技術が必要なのかという言い方もしない。お客さまが言ってくるのは、「いつうちの環境でそうした技術が使えるようになるのか」、「製品はいつそろうのか」といったことです。

 当社を追随するように、競合他社がイーサネットファブリックに関する発表を行っています。SAN市場でのこれまでの経験をもとにすれば、イーサネットファブリック市場も、今後10年、15年と成長を続けていくことになるでしょう。

スティーブンCTO:Brocadeは、お客さまとの会話を通じて、イーサネットファブリックのヒントを得ました。「仮想化を実現しようと思っているのだが、実装がうまくいかない」、あるいは「現在のテクノロジーでは限界がある」、「こんなテクノロジーがあればいいのに」という声です。ここから、イーサネットファブリックの考え方がスタートしています。

――いまのBrocadeの姿を表現するのには、どんな言葉が適していますか。

クレイコーCEO:ひとことでいえば、「ネットワークテクノロジーとプロダクトを提供する会社」ということになります。

 ネットワークテクノロジーに関していえば、世界で最も多くの会社に、テクノロジーを提供している会社がBrocadeだといえます。データセンター向け、サービスプロバイダー向け、ユーザー企業におけるエンタープライズ向けといったように、あらゆる企業に提供し、また、地理的にも、日本、米国、アジア、欧州というようにあらゆる地域に適用できる技術を提供しています。

 ただし、消費者向けにはビジネスは行っていません。これは将来的にも行う予定はありません。

 

日本市場にも引き続き注力していく

――ところで、クレイコーCEOは、日本市場への取り組みについてはどう自己評価していますか。

クレイコーCEO:Brocadeにとって、日本市場は大変重要な市場であり、過去15年間にわたって、積極的な展開をしてきました。私自身も定期的に日本に来日していますし、エグゼクティブレベルという言い方をすれば、毎週必ず誰かが日本を訪れているのではないでしょうか。

 日本法人においては、12年前にストレージ事業のために投資を開始し、その積極的な取り組みの成果もあり、日本におけるマーケットシェアは、グローバルシェアの70%よりも高い、85%を占めています。その成果については、大変うれしく思っています。

 ただ、旧Foundry Networks製品については、日本に関する投資額は小さなものであったので、この分野ではいま成長を加速しているところです。イーサネットファブリックに関する進ちょく状況には満足していますよ。今後、この分野にはさらに投資をしていく考えであり、その表れのひとつが、2012年2月に日本にオープンする予定の「OpenFlow ソリューションラボ」ということになります。これも日本に対する積極的な投資のひとつです。

スティーブンCTO:日本に「OpenFlow ソリューションラボ」をオープンするのは、OpenFlowに関して、アグレッシブな開発者が日本に多いということが背景にあります。また、OpenFlowに関するパートナー企業も多い。その点でも、OpenFlow ソリューションラボを、日本に置くことは理にかなっています。

 開発には、学びのプロセスがあり、やってみなくてはわからないことも多い。OpenFlowは初期段階の技術であり、試行錯誤しなくてはならない部分も多い。そして、OpenFlowのコミュニティは、まだ始まったばかりです。研究開発といっても、まだ「研究」という段階にあるといえます。OpenFlow ソリューションラボを活用することで、ここで生まれた成果を、標準化のプロセスとして貢献できないかということも考えています。

 OpenFlowによって、お客さまの悩みが解決できれば、それは業界にとっても、Brocadeにとってもプラスになる。そして、イーサネットファブリックの適用が高まるきっかけになればと考えています。

青葉社長:いま日本法人で取り組んでいる例をひとつお話ししましょう。Brocadeでは、現在、1万人のパートナー、お客さまに、(イーサネットファブリックの基盤製品である)VDXをみていただこうという取り組みを行っています。

 VDXは、プレゼンテーションを聞いていただいても、なかなか理解できないという声が多い。しかし、実際にデモをみてもらうと、「ネットワークを変えるというのはこういうことか」ということが理解してもらえる。1万人キャンペーンはまさにみていただくということなのです。

 直接、Brocadeのオフィスに来ていただいたり、セミナーを開催したり、あるいは、ネットワン・システムズ(以下、ネットワン)をはじめとするパートナーを通じて体験していただくことで、すでに半年間で1万人を超える方々に、VDXをみていただきました。ネットワンでも、数10台単位のVDXを、デモ用として導入している。パートナーからも「みていただくのが一番わかる」という声をいただいていますし、実際に、お客さまの意識が大きく変化していることを感じています。

――日本においては、2009年にネットワンと、データセンターソリューションに関する包括的な提携しました。2年を経過し、その後の成果がどうなっているのかを教えてください。

ブロケード日本法人の青葉雅和社長

青葉社長:ネットワンとのリレーションシップはうまくいっていると判断しています。ネットワンにおけるわれわれのビジネスは倍以上に成長しているなど、その成果は評価できるものだといえます。

 最大の効果は、新たな顧客を獲得しているという点です。特にイーサネットファブリックのような新たな技術に関しては、日本のお客さまは慎重な場合が多い。特に、金融分野や製造分野などのお客さまの場合は、いままではシスコを選択していたケースが多かったが、Brocadeがネットワンと組むのならば安心だという声をいただき、イーサネットファブリックという新たな技術を選択していただいています。

 ただ、大手のお客さまでは、評価作業に半年から1年を要します。いまはその時期ですね。50社ぐらいのお客さまがイーサネットファブクリックを試していますから、来年以降は導入のフェーズへと大きく変わっていくことになるでしょう。

クレイコーCEO:Brocadeにとって、日本は、長期的な視点からみても重要な市場です。私自身も高い期待を持っています。今後、ファブリックテクノロジーを採用した新たな製品も導入してもらいたいと考えています。私の経営スタイルは、長期的な視点で物事をみるというものであり、これは日本人の考え方に近いものではないでしょうか。日本の市場を重要視するという考え方はこれからも変わりません。

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