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NEC、社会ソリューション事業のグローバル化で成長軌道目指す新中計を発表

2015年度連結決算は減収減益に

 日本電気株式会社(以下、NEC)は28日、2015年度(2015年4月~2016年3月)の連結決算と、新たな中期経営計画「2018中期経営計画」を発表した。

 4月1日付で代表取締役執行役員社長兼CEOに就任した新野隆氏にとって、CEOとして初めて経営方針を示すものとなった。新野氏は、2018年度に売上高3兆円、営業利益率5%となる営業利益1500億円、当期利益850億円という目標値を掲げ、「2015中期経営計画は当期純利益を除き、経営目標は未達に終わった。新たな2018中期経営計画は課題を踏まえて変革を実行し、社会ソリューション事業への注力を継続する。収益構造の立て直し、社会ソリューション事業のグローバル化を実現することで成長軌道への回帰を目指す」と、これまで注力してきた社会ソリューション事業への注力をさらに強め、成長軌道へ回帰する方針を示した。

代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏
成果と課題
中期経営方針
中期経営目標

 2015年度連結決算は、売上高は対前年比3.9%減の2兆8212億円、営業利益は同16.2%減の1073億円、経常利益は同26.2%減の827億円、当期純利益は同20.2%増の687億円となった。売上高はエンタープライズ分野が大幅増収となったものの、パブリック、テレコムキャリア、その他の分野の売り上げが減少し、さらに物流サービス事業の非連結化の影響もあって、前年度比で減収となった。

2015年度概況サマリー
2015年度実績サマリー

 なお、NECでは2016年度から国際財務報告基準=IFRSを採用するため、2016年度予測はIFRSに則ったものとなる。2016年度通期売上高は2兆8800億円、営業利益は1000億円、当期利益は500億円と予想している。

 NECでは2015年度決算の結果については、「予想値に対し、売上、経常利益の実績は下回ったものの、営業利益、当期純利益については予想を上回った。営業利益の実績が予想を上回ったのは費用効率化などの影響によるもの。当期純利益については、子会社解散にともなう税金費用の減少などが寄与したことで、前年度比で増益。期初計画、中経目標を上回った」(執行役員常務兼CFOの川島勇氏)と説明している。

執行役員常務兼CFOの川島勇氏

 セグメント別では、パブリック売上高は前年比6.7%減の7668億円、営業利益は前年から172億円減の575億円。売上高については、前年にあった大型案件の売り上げが減少しことなどの要因で、官公庁案件向けに売り上げが減少した。営業利益も、売上減に加え、不採算案件が増加したことで減益となった。

セグメント別2015年度実績サマリー
パブリック事業

 エンタープライズは売上高が前年比11.2%増の3007億円、営業利益は前年から139億円増加の222億円。流通・サービス業向け、製造業向けともに大型案件があったことなどで売上高が増加。その影響に加え、システム構築サービスの収益性改善によって営業利益も増益となった。

 テレコムキャリアは、売上高は前年比5.6%減の6989億円、営業利益は前年から164億円減の456億円。国内事業は売上減となったが海外は海洋システム中心に売り上げが増加した。しかし、営業利益は売上減、海外プロジェクトでの不採算案件が発生したことで減益となった。

エンタープライズ事業
テレコムキャリア事業

 システムプラットフォームは、売上高は横ばいの7285億円、営業利益は61億円増の375億円。売上はハードウェアが増加したものの、保守サービスの減少などにより横ばいとなった。営業利益はハードウェアを中心とした収益改善などにより増益となった。

 その他は、売上高は12.8%減の3262億円、営業利益は129億円マイナスのマイナス89億円となった。物流サービスの非連結化の影響に加え、エネルギー事業、携帯電話端末事業の減少などにより売上は減収となった。営業利益についても、エネルギー事業が売上減に加え採算が悪化したことで減益となった。エネルギー事業に絞り込むと、売上高は550億円、営業損益が140億円と厳しい状況となっている。

システムプラットフォーム事業
その他事業

 2016年度予想については、日本基準からIFRSへと変更になる。「2015年度の決算結果を、監査していない状態で組み替えてみると、売上高は2兆8248億円でほぼ変化がないものの、営業利益はのれん代が含まれなくなるなどの変更があって914億円に、当期利益は759億円になる」(川島氏)。

 2016年度予想では、売上高は前年比2%増の2兆8800億円、利業利益は前年から86億円増の1000億円、当期利益は前年から259億円減の500億円。

 セグメント別では、パブリック売上高は前年比4.7%減の7350億円、営業利益は前年から117億円増の690億円。エンタープライズは、売上高は前年比1.6%増の3050億円、営業利益は前年から49億円減の190億円。テレコムキャリア売上高は前年比1.1%増の7050億円、営業利益は前年から15億円増の480億円。システムプラットフォームは、売上高は前年比3.6%増の7550億円、営業利益は前年から3億円増の320億円。その他は、売上高は前年比16.3%増の3800億円、営業利益は前年から192億円増の10億円と予想している。

業績予想サマリー
業績予想サマリー(日本基準→IFRS)

 こうした実績を受け、新野社長は2015年度までの中期経営計画である2015中期経営計画について、「利益・財務体質については不十分ではあるが、改善されてきている。2015中経でも当初はうまくいっていたものの、最終的に目標未達に終わった。特にテレコムキャリア、スマートエネルギーについては市場への過度の期待、実行力不足で目標未達に終わった」と実行力不足という側面があったと分析した。

 これをふまえNECの課題として、「実行力についてはPDCAを回す努力はしているものの、リスクが起こった時の対応をどうするのかといった検討が不十分な部分がある。また、変化への対応能力が不十分」と分析した。

 経営ポリシーとして、コンプライアンスの徹底・企業文化の進化とともに、1)経営スピードの向上、2)実行力強化、3)グループ経営を推進し、One NECの実現という3点をポリシーとした。

経営ポリシー

 こうした課題をふまえ、収益構造を立て直し、売上高3兆円、営業利益率5%となる営業利益1500億円を実現する収益構造の確立を中期経営方針として掲げる。

 「この目標値を達成するためには、年2%成長を実現する必要がある。海外に関しては当社の強みが生かせる領域を注力事業に据え、年10%成長を目指す。国内売上はほぼ横ばいとなるが、新たな事業機会をとらえることで、一部既存事業の縮小をカバーし、事業規模を維持する」(新野氏)。

 国内の新たな事業機会としては、2020年に向けたインフラ整備、マイナンバーなどスマートな社会に向けたソリューションの提供という2つを挙げ、どちらの例についても「もっと拡大できる余地がある」と分析する。

売上高目標の考え方
新たな事業機会の獲得

 またマイナス部分の見直しとして、収益構造の立て直しをはかる。課題事業、不採算案件への対応、2015年度の収益悪化の象徴的な事業であるスマートエネルギー事業の止血を実施する。スマートエネルギー事業は、4月1日付けでビジネスユニットからコーポレート直轄事業部へ、マネジメント体制を変更する構造改革をすでに実施している。

 収益悪化の原因については、「スマートエネルギー事業は日産自動車と進めているEV事業が当初見込みのように進んでいないこと、蓄電製品は相当な価格競争の影響でどのベンダーもほとんど利益がでない状況となっている」と現状について説明した。

 不採算案件は、エンタープライズで実施している不採算案件の抑制ノウハウをグループ船体に横展開、プロジェクトマネジメント力とPMO機能を強化することで、不採算案件抑制を目指す。

 また業務革新、開発・生産機能の最適化についても引き続き進めていく。

収益構造の立て直しの考え方
スマートエネルギー事業の止血
不採算案件の抑制

 成長の軌道への回帰については、前中経の注力分野であるビッグデータ、クラウド、サイバーセキュリティ、SDNに代わり、セーフティ事業、グローバルキャリア向けネットワーク事業、リテール向けITサービス事業の3分野を挙げる。

 「これからはIoT、AIの上に様々なビジネスが展開される。磨いてきた技術アセットがテコになる事業を注力事業として選定し、展開する」。

注力事業

 セーフティ事業は、APAC、中東・アフリカ、中南米の主要都市、政府や空港などの重要公共施設を重点ターゲットに、リアルタイムでの事業把握によってさらなる安全・安心の確保につながるソリューションを提供。パートナリングなどによるグローバル体制を強化し、ビジネスを進める。2015年度の売上高420億円から、3.4倍の1420億円を目標とする。

 グローバルキャリアネットワーク事業は、NEC、ネットクラッカーの顧客基盤を活用し、SDN/NFVはグローバル先進キャリアから他のキャリアへ水平展開を目指す。TOMS・SDN/NFV連携、IT/ ネットワークの融合ソリューションの継続強化などソリューション強化を進める。2015年度の売上高1200億円を、2100億円に拡大することを目標とする。

セーフティ事業
グローバルキャリアネットワーク事業

 リテール向けITサービス事業は、国内の大手コンビニ向け導入実績の24時間、365日止めない店舗運営を支える安全・安心・効率的なITサービスを、北米、APAC、中華圏、中南米の大手コンビニチェーン、ドラッグストア、バラエティストアをターゲットに販売を行う。ソリューションについても強化し、ITサービスライフサイクルマネジメントの強化や、オムニチャネルのような新たな価値ソリューション強化も行っていく。2015年度1340億円の売上高を1.2倍の1600億円とすることを目指す。

リテール向けITサービス事業
注力事業の売上高目標

 グローバルビジネスが成長の鍵を握ることになるが、「この3年の実感として、グローバルビジネスで事業の柱を作るのは時間がかかる。これを加速するために、M&Aで外部有識者を社内に入れながら,成長につながる改革を進めたい」と2000億円の予算で、海外での事業拡大に向けた企業買収も進める考えだ。

三浦 優子