次第に明らかになるARM版「Windows 8」 Microsoftの次世代OS戦略
Microsoftの次期OS「Windows 8」はいよいよ今年リリースを迎える。その最大の目玉はARMアーキテクチャへの対応だ。これまでARM版についての情報はほとんどない状態だったが、2月に入ってMicrosoftは公式ブログでARM版Windows「WOA」(Windows on ARM)に関するいくつかの重要な情報を明らかにした。Microsoftの狙いを読み解いてみると――。
■ARM版では既存アプリのサポートなし
Microsoftが次期WindowsでARMアーキテクチャをサポートすると発表したのは1年前の2011年1月だが、その後もARM版についての情報らしい情報はほとんど提供されてなかった。しかし、今年2月8日の公式ブログ「Building Windows 8」で、Windows部門責任者のSteven Sinofsky氏が次のようなポイントを含む最新情報を明らかにした。
- WOAではx86向けの既存デスクトップアプリの動作や、エミュレーションや移植をサポートしない
- MetroアプリはWOAとx86/64上のWindowsの両方でサポートされる
- WOAにはデスクトップ版の「Office 15」(開発コード名)が含まれる
- WOAはファイルエクスプローラや最新の「Internet Explorer(IE)」などのデスクトップツールを含む
- WOAは常時接続を前提に設計されており、スリープや休止はないが、ネットワークに接続した状態でスタンバイする「コネクテッドスタンバイ」を用意する
現在、x86向けのWindows 8は開発者プレビュー段階で、2月末にベータ版に相当するコンシューマープレビューになると予想されている。一方、WOAは一部の開発者がトライアル端末でテストしている段階だ。Sinofsky氏は具体的な時期については触れていないが、x86版とARM版を同じころに完成させたい意向という。MicrosoftはWindows 8のリリース時期を明言していないが、多くのメディアが2012年内とみている。
■Androidの分断化よりも大きな問題
Sinofsky氏のブログで最も重要なのは、ARM版での既存アプリの扱いが明らかになったことだ。
Windowsの強みは豊富なデスクトップアプリケーションであり、アーキテクチャの異なるARMでMicrosoftがどんな対応をするかが注目されてきた。今回、Microsoftは、既存のx86アプリへのサポートを捨てるという決断を下した。このことに対するメディアの見解は分かれている。
まずBYTEは、Microsoftの戦略を批判。Windows XP/Vista/7で現在動いているソフトウェアがまったく動かないことから、「Windows 8が動くARMベースのタブレットやコンピュータの購入動機がなくなる」と予想する。Metroアプリはx86とARMの両Windows 8で動くが、それ以前のWindowsでは動かないとなると、「Windows 7以前のデスクトップアプリを利用したいユーザーにとって、WOAタブレットを持つメリットはあまりない」という。
BYTEはWindows 8の開発者向けプレビュー版を使ってみて、Metroに一定の評価を与えながらも、Windows 7からWindows 8に移行する強い理由はないと述べている。一方で、Androidの「分断化」(バージョンが異なるOSが併存してアプリ互換性がなくなる)を挙げながら、ARM版とx86版で対応するアプリが違うと「Androidの分断化よりも大きな問題になるのでは」と指摘する。
■WOAは「Office 15」をどのレベルで“含む”のか?
WOAでMicrosoftが“隠し玉”として用意していたのが、Office 15だ。「Word」「Excel」「PowerPoint」「One Note」の4アプリケーションで、「使い慣れたOfficeソフトウェアと互換性のメリットを望むユーザーにとって妥協なき製品」とSinofsky氏は述べている。つまり消費電力やリソースなどの制限の克服と機能を両立させ、これまでのOfficeとの互換性も維持するというのだ。
Officeは、WOAで動く唯一の既存デスクトップアプリとなりそうだが、Sinofsky氏の言う“含む”が、具体的に何を意味するのかは不明だ。
OfficeはMicrosoftにとって重要なドル箱事業であることから、Computerworldは「アナリストたちが、この言葉の意味するところを探っている」と伝えている。それによると、IDCのAl Hilwa氏は「無料でバンドルされる」と予想し、MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏は、無料バンドルするのは「Office Starter 10」のような広告付きの機能制限版になるとみているという。
PC MagもSinofsky氏の言葉からは、マクロまで含めた全機能を持つものかどうかは判断できないとする。それでも、「x86版には含まれず、ARM版のみにバンドルされるのであれば、ARM版にとってプラス要因になるだろう」としている。
■「最大のリスクを負った」Windows 8
BetaNewsのベテラン記者、Joe Wilcox氏はMicrosoftを全面的に支持。PCから小型のモバイル端末へと主役が移行するポストPC時代に向け、Microsoftは後方互換性を犠牲にして、まったく新しいOSを開発するという決断を下した、と評価する。
Wilcox氏によると、Microsoftの狙いは、x86版Windows 8で既存アプリが動くという“ライフライン”を残しながら、開発者やサードパーティに、Metroの受け入れを奨励するメッセージを送ることだという。企業は現在、Windows 7への移行段階にあるが、今、WOAで開発者、パートナー、顧客らが新しいOSに対応する準備を始め、Windows 9のころにエコシステムを完成させるというのがWilcox氏が読み解くMicrosoftの長期シナリオだ。
Wilcox氏は、移行期間中にはMicrosoftとパートナーの売り上げに影響が出るだろうが、うまくいけば、Windowsは違ったものになり、もっとクラウドにつながったOSとなると予想。「Microsoftは5年後、まったく違った企業になるだろう」(Wilcox氏)としている。
もちろん、タブレットに限定してみるとWindowsは大きく後れをとっている。それでもPC Magは、企業が「iPad」の代替として、Intel/AMDベースのWindowsタブレットを好んでいることなどを挙げ、WOAよりもx86側の進化に注目している。
Windows 8の最新情報に続き、Appleが次期OS「Mac OS X“Mountain Lion”」を発表した。Androidと「Chrome OS」を持つGoogleも、Android版Chromeブラウザを公開したことでChrome OSの位置づけが再度問われ始めている。OSを巡る動きからは目が離せない。