クラウド、SNS、半導体 東日本大震災で海外メディアはどう伝えたか


 東日本を襲った大震災は、多くの犠牲者を出し、生活・ビジネスを支えるさまざまな機能をマヒさせた。その様子は連日、海外メディアも大きく報じられている。特にハイテク情報系メディアは、超巨大災害が影響した通信網などのインフラ、クラウド、Twitterなどソーシャルメディア、日本のメーカーの工場稼働とサプライチェーンなどに関心を寄せており、それぞれ分析・評価している。

 

強さを発揮したIP通信、クラウド

 E-Commerce Newsは発生直後の3月11日付記事で、直後の動向とハイテク関連の影響を多角的に分析。インフラでは、固定電話に比べ、全体としては携帯電話がサービスをよく維持したと伝えた。

 VoIPとインターネットベースの通信システムを専門とするComunicanoのCEO、Andy Abramson氏はこの記事で、ケーブル、無線、衛星などが「すべてこの状況でおのおのの役割を果たし、古い銅線ベースのネットワークよりも優れた選択肢であることを実証した」「日本は世界的に見て高度かつ堅牢な無線網を敷いており、今回の地震はそれを試すものとなる」と述べている。

 クラウドについては、Amazon Web Services、Salesforce.comなどの事業者が大きな支障なくサービス提供を継続していることが紹介された。クラウドの稼働状況に対する注目は全体的に高く、E-Commerce Newsのほかにも、CloudTweaks.com、VentureBeat、TechFlashなどが取り上げている。

 VentureBeatでは、ZD Net Japanの計画停電・支援・事業継続に関する特設サイトをGoogle Translateで英訳したリンクを張って報じているくらいだ。だが業務に支障が出た仙台ベースのグレープシティなど、日本企業のクラウドサービスの動向までは紹介されていない。

 その中で、クラウド情報専門サイトのCloudTweaks.comは、状況報告にとどまらず、自然災害の面からみたクラウドのメリットを解説。オフィスや社内データセンターが被害に遭っても、安全対策を講じているクラウドにデータがあれば、重要なデータをすべて失うという最悪の事態は避けられるとしている。

 同サイトは、Enterprise Strategy Groupの最新の報告書で災害復旧がクラウドコンピューティングを導入する主要な要因となっていること、IDCの調査担当者が2月のニュージーランド地震の折に、「クラウドという選択肢を受け入れる動機になった」とコメントしていたこと、などを紹介。すぐに利用できるクラウドの活用例として、需要にばらつきがある救済機関がニーズに応じてリソースを利用できると提案している。

 

生産設備の被害にも関心

 ハイテク企業の設備や工場の状況も伝えられている。ComputerWeekly、The Mercury News、Financial Timesなどはソニー、パナソニック、シャープなどの電気企業の工場破損規模、停電が生産現場に与える影響を報じた。特に懸念が大きいのが、さまざまな製品の部品となる半導体への影響だ。ComputerWeeklyは、「東芝のある工場でクリスマス前に1秒以下レベルの電力供給不調が起こったが、それですら生産に支障をきたした」とする半導体アナリストの警告を引用する。このアナリストによると、「世界の半導体生産の20~25%が日本」で「最大規模を誇る東芝/SanDiskは、世界の半分のNANDフラッシュを生産している」という。

 The Mercury Newsも「スマートフォン、タブレット、デジタルカメラなどに使われているフラッシュメモリーなどの部品不足」を懸念するObjective Analysisのアナリストの意見を紹介している。東芝は三重県に大型のフラッシュメモリー生産工場を持ち、被災地からは離れているが、半導体のFreescaleの仙台工場が閉鎖されたことなどを紹介している。

 アナリストは、部品不足は卸売りレベルでは価格に影響するが、消費者が購入する最終価格に反映されることは予想しにくいとしている。なお、Financial Timesによると、すでにスポット価格に影響が出始めているという。サプライチェーンへの影響は、今後も懸念される。Reutersは電機・精密企業から自動車メーカーまで、メーカーの稼働状況をまとめた記事を出している。

 

ソーシャルサービスなどで広がる支援

 一方、今回の災害では、TwitterやFacebookなどのソーシャルサービスの活躍にあらためてスポットがあたった。PCWorldは「TwitterとFacebookがライフラインに」というタイトルをつけ、Online Social Mediaの統計として、地震・津波の発生後に毎分1200件のツイートがあったこと、トレンドトピック上位10のうち地震関連のものが8~9を占めたことなどを挙げている。

 Facebookでも、友人間が状況報告に使ったほか、Japan Earthquakeなどの情報共有や救済支援を目的としたFacebookページが立ち上がったことを紹介している。このほか、Googleの安否確認データベースサービス「Person Finder」も複数の記事で紹介された。

 関連して、著名ブロガーのDoc Searls氏は、災害発生後の主要TVとラジオ局の速報状況をまとめながら、非常時の情報伝達・収集手段として「TVやラジオではなく、TVとラジオの両方を内包するネットが主役となった」と結論づけている。

 インターネットとソーシャルメディアは募金でも活用されている。ソーシャルメディアを使って募金を呼びかけたLady Gagaなどの有名人、救済団体、企業は数知れず、PC Worldは米赤十字による携帯電話を使った寄付を紹介している。

 そんな中で酷評を受けたのがMicrosoftだ。MicrosoftのBingマーケティングチームは3月14日付で、リツイートすれば救済機関に1ドルを寄付するという復旧支援を組み合わせたBingマーケティングキャンペーンを開始した。だがこのキャンペーンは、災害や悲劇に便乗するとの非難を浴びた。PCWorldによると、Microsoftは7時間後に謝罪とともにキャンペーンを閉鎖したという。Bingチームはその後、10万ドルを寄付したとツイートしている。

 未曾有の大災害に、ハイテク業界も救済活動に乗り出している。企業はもちろん、オープンソース団体のCKEditorは売り上げの10%を寄付すると発表し、Skypeは「Skype Access」を使った無料通話の提供を開始した。PC Worldは、停電への対応策としてガラスびんと太陽電池を使ったユニークな代替照明「Kimono Lantern」を紹介している。

 これらの報道の中からは、ハイテク先進国としてなじみのある日本に対するエールが感じられる。例えば、CloudTweaksの記者は、「日本が少しでも早くこの衝撃から立ち直り、人的および技術的に成功した輝かしい存在としての立場を再び獲得することを強く望む」と記している。世界が日本の復興を信じている。そのことが強く感じられる。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/3/22 11:09