共存を狙うAdobe最初の一手? FlashのHTML5変換ツール


 Adobe systemsがFlashをHTML5に変換するツール「Wallaby」の開発者向けプレビュー版を公開した。Flashをめぐっては、長年のパートナーであるAppleとの間に昨年来、対立がくすぶっており、変換ツールはその中でリリースするものとなる。Appleはリッチコンテンツを配信する技術としてHTML5を全面的に推進する考えだが、Wallabyはどんな影響を与えるのだろう。

 

iOSでFlashコンテンツ動作させるWallaby

 Wallabyは、AdobeのFlash形式のファイルをHTML5に変換するツールで、Flashランタイムをサポートしていない端末でFlashコンテンツが利用できるようになる。RIA開発・実行環境「Adobe AIR」を利用し、WindowsとMacに対応。現時点でWebKitをベースとするブラウザー(Google Chrome、Safari)と互換性があるという。

 Flashをサポートしていない端末の代表は「iPad」「iPhone」などAppleの「iOS」をベースとするモバイル製品だ。Wallabyはこれらの端末でFlashを利用するソリューションとなる。リリースノートによると、OS 4.2で検証済みという。

 Flashを再生するFlash Playerは、PCの世界ではデファクトスタンダードとなっており、無償のブラウザープラグインは、95%以上のPCにインストールされ、広告をはじめさまざまなコンテンツがFlash形式で提供されている。

 Appleは、そのFlashを排除する決定を下した。初代iPadでは「CPUを浪費する、オープンではない」などと批判して、Flashをサポートしないことを表明。Adobe側はFlashがiPhoneやiPad上で動作するための作業を進めているのに、Appleがその決断をしないとやりかえした。

 Appleはその際、動画などのリッチコンテンツもサポートする次期Web標準のHTML5の普及が進めば、Flashは不要になるとの見解を示した。Adobe側は、Flashのニーズがすぐになくなるわけではないと強調しながら、HTML5支持の姿勢も示し、変換ツールなどの開発を進めるとした。

 Wallabyは、その取り組みの結果だ。AdobeのJohn Nack氏は3月7日付のブログで、「Adobeの仕事は、開発者にどれか1つの技術を選ばせることではなく、問題を解決することだ」と、これまでの議論を避けるかのような説明をしている。

 

制限が多いWallabyに批判の声も

 しかし、Wallabyは全てのFlashコンテンツをHTML5に変換するわけではない。Adobeは「(Flash開発の)Flash Professionalの全機能をサポートしているのではない」と注意している。たとえばActionScriptに対応しておらず、HTML5の描画タグCanvasなど未対応の要素もあるようだ。

 TechCrunchは、こうした制限を指摘し、「あらゆる変換ツールがそうであるように、Wallabyも妥協なのだ」と指摘。「オリジナルのFlash以上に使えないHTML5アニメーションやゲームがインターネット上に氾濫することになる。Adobeがやることは全て、レガシーのFlash技術の延命を目標としている」と手厳しい。

 さらに、Wallabyの公開早々、新たなFlash不要論が出てきた。Mozillaの製品担当副社長、Jay Sullivan氏は、Flashはなくなるのか、というFast Companyの質問に対し「長期的にはそうなると思う」と答えている。同氏は、その根拠として、やはりHTML5を挙げ、HTML5によってインターネットをネイティブで体験できるようになり、“プラグイン地獄”から脱することができると述べている。

 

移行ではなく共存を、開発者の根強い支持

 では、Wallabyを出したAdobeはHTML5をどうみているのだろうか? InfoWorldは、WallabyでのAdobeの狙いを分析。(Wallabyが対応していないHTML5要素である)Canvasのモバイル端末でのパフォーマンスが貧弱であることを挙げ、Wallabyはモバイル端末を意識しているのだろうとする。

 その上で、Adobeの狙いを「典型的なFlashアプリが適していないデバイスで、既存のAdobeツールとファイルフォーマットを活用できるようにすること」とみている。HTML5への移行というよりも、「HTML5が対応できていない機能を提供することで、新しい標準と共存することを目指している」というのだ。

 実際、制作者の世界ではWallabyとHTML5は共存の方向にあるようだ。ZDNetが紹介している調査会社Jefferiesのクリエーター50人を対象にした調査では、「Adobeツールとオープン標準(HTML5、JavaScript、CSS3など)を併用する」と回答した人は2月時点で88%。2010年6月、9月、11月の3回で50%前後を推移したあと、2011年2月で急増している。

 一方で、「Adobeツールの代わりにオープン標準の利用を増やす」は2010年6月と9月がそれぞれ24%と19%だったのに対し、同年11月と2011年2月は0%となり、「Apple製品にはAppleツールを、Adobeは他の環境向けに使う」という回答は、2010年11月の50%をピークに、2011年2月は13%に急減している。そして、60%以上が「Creative Suite 5」にアップグレードする計画だと回答した。

 この推移を見る限り、Adobe対Appleの対立が強まった2010年前半と比べると、開発者のAdobeへの支持が戻りつつあるようだ。結局のところ、既存の知識やスキルを捨てることは、制作者や開発者にとって簡単なことではないのだ。

 Adobe自身は、Wallaby開発者プレビューの目標について、「典型的なバナー広告のHTML5への変換」としている。設計面からみると、「Webページに実装できるHTMLの最終形ではない。リッチなアニメーションを持つグラフィカルコンテンツを、Dreamweaver(AdobeのWebオーサリングツール)のようなデザインツールで開発中のWebページに簡単にインポートできるようにすることを目指す」とNack氏は説明する。そして、今後のフィードバックを見ながら、Wallabyの機能を改善・拡張していく考えを示している。

 HTML5のオーサリングツールはすでに出ているが、種類や機能ともにまだ成熟していない。Adobeがこのタイミングで完成度が高くないWallabyをリリースしたのは、HTML5との共存に向けた同社の最初の一手と見ることができそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/3/14 10:34