10年ぶりのMac互換機-謎の新興企業Psystar



 Mac OS互換機が店頭から姿を消して久しい。ところが、マイアミのPsystarという会社が突然、最新Mac OS「Leopard」が動作する非Apple製のパソコンを400ドルからという安値で発売した。これが評判となって、Macユーザーのみならず、広く関心を集めている。だが、どうもこの話、怪しいところがあるようだ。


 Psystarは「サイスター」と発音する。今月になってWebサイトを開設し、「OpenMac」(現在はOpen Computer)というMac互換機のオンライン販売を開始した。一般的なPCハードウェアで、Mac OS X Leopardを動作可能にしたものだという。

 製品は、Core 2 Duo 2.2GHzにチップセット内蔵グラフィック、250GB HDD、2GB RAM、DVDスーパーマルチドライブという構成で399.99ドル。Core 2 Duo 2.66GHz、NVIDIA GeForce 8600 GTを搭載した上位モデルで999.99ドルだ。キーボードやマウスは別売で、OSも付属しない。オプションで155ドルを追加するとLeopardをプリインストールして届けられるという。

 純正Macであれば、スペック的に劣るMac miniのエントリーモデルで599ドル、近いスペックの上位モデルで799ドルだ。Psystarの互換機はだいぶ割安ということになる。商品説明では、Leopardのほかに、Windows XP/Vista、Ubuntu linuxも利用可能としている。


 同社のFAQによると、PsystarがPCハード上でLeopardを動作させる仕組みは、Intel Macで採用されている新規格BIOS「EFI BIOS」のエミュレーターを利用して、OSからはハードがMacに見えるようにすることで実現したという。

 Mac互換機は10年前、Appleによって完全にシャットアウトされた。かつては、Power Computing、Motorola、台湾のUMAX、そしてパイオニアなどがライセンスを受けて、さまざまな互換機を販売していた。しかし、Gil Amelio氏の会長退任、Steven Jobs氏の復帰とともに行われた戦略転換で、すべてのライセンスが打ち切られ、最大手のPower ComputingもAppleに吸収された。Mac互換機は1998年末までに完全に姿を消している。

 Appleは現在も、非Appleハードウェア上でMac OSを動作させることを、エンドユーザー使用許諾契約書(EULA)で禁止している。このため、Psystarの製品にはMac OSのライセンス違反の疑いがあるのだ。Appleは過去、こうしたケースには法的措置で対抗してきたが、今回、これまでのところ沈黙を守っている。

 Psystar側は、FAQの中で「Open ComputerのアイデアはAppleのOSへの海賊行為ではなく、ユーザーが選択したハードウェアで動作させるだけである」と説明している。だが、製品名を当初の「OpenMac」から、いつのまにか「Open Computer」に変更したあたり、法的な対応は甘そうに見える。


 そして、Psystarが大きく報じられたあと、同社への疑念が急速に膨らんでいる。会社紹介では「エンタープライズレベル・システムでの30年以上の豊富な経験」をうたっているが、実際にはまったく知られていなかった。

 Guardianのテクノロジー担当記者Charles Arthur氏が調査したところでは、取材の電話をかけてもなかなか誰も出ず、やっと出てきた相手も留守番だと名乗ってらちがあかなかったという。同社はマイアミ商工会議所の会員でもなかった。また、4月15日に住所が「10645 SW 122nd Street」 から「10481 NW 28th Street」に不自然に移転し、前の方の住所は住宅地の民家であることが分かった。

 さらにこれを受けて、Gizmodoの読者が実際に新住所を訪問し、全然別のこん包資材会社があったと報告した。これを機に、ブロガーたちの間で、「Psystarはインチキだ」という声が高まっている。なお、Psystarは現在、サイトのアップデートで、先の住所は間違いで、実際は「10475 NW 28th Street」だと訂正している。

 また、このMac互換機が、実際になかなか購入できないことも疑惑の大きな理由になっている。同社のオンラインストアはメディアに一斉に報じられた4月14日にダウンして、その後復旧したものの、クレジットカード決済ができずに購入不能の状態が続いた。実際にOpen Computerを購入して、Leopardを動かしたという信頼できる報告も、いまだ出てこない。


 そんな中、Forbes.comがRudy Pedraza社長に電話インタビューしたと伝えた。この中でPedraza社長は、ダウンは、カード決済会社のPowerPayが圧倒的な注文を処理しきれず、アカウントを凍結したためであり、さらに決済業者をPayPalに変更したが、また過剰な注文に見舞われてストアが機能していないためと弁明している。

 また、住所の変更は、膨大な数の商品を4万平方フィートの倉庫に持ち込まねばならなかったためであり、注文に対応するものだとしている。

 しかし、Forbes.comによると、同氏は通常、新興企業が開示すべき情報を公開しなかったという。すなわち、自らの学歴、職業歴、過去のベンチャー歴などで、これらの質問には答えず、Open Computerが動作する仕組みについても説明しなかった。同氏は、Psystarの従業員は16人で、さらに4人を雇おうとしていると話したという。

 謎の企業Psystarの疑念は、責任者への取材でも払拭できなかった。新しいMac互換機は、まだグレイゾーンにある。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/4/21 09:06