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クラウドでDWH市場に殴り込み AWSの「Redshift」
(2013/2/25 08:47)
Amazon Web Services(AWS)のクラウドベースのデータウェアハウス(DWH)サービス「Redshift」の一般提供が始まった。2012年11月に開催した初のプライベートイベント「AWS re:Invent」で、既存のデータウェアハウス事業を切り崩す高性能・低価格サービスとして発表したものだ。その動向が注目されてきたRedshiftは、エンタープライズへの拡大というAWSの戦略も担う重要なサービスとなる。
ついにデータウェアハウスもクラウドで
Redshiftは、分析やビジネスインテリジェンス(BI)用のデータ格納場所であるデータウェアハウス環境を構築できるクラウドサービスである。AWSは昨年11月の発表時、「パフォーマンスは10倍、コストは10分の1」とクラウドならではのコストメリットと性能を強調した。
Redshiftは、複雑で面倒なデータウェアハウスの設定や、プロビジョニングなどの作業を自動化でき、バックアップや暗号化などの安全対策も備える。性能面では、カラム指向のストレージデータ圧縮などの技術を持つ。データベースには「PostgreSQL」を利用し、JDBCやODBCなどのドライバーを利用してSAP BusinessObjects、MicroStrategyなどのBIツールを利用できる。すでに、オープンソースのBIベンダーJaspersoftなどがRedshift対応を明らかにしている。
料金体系は2TB圧縮ストレージ付きのノード(XL)、16TBのノード(8XL)がそれぞれ1時間当たり0.85ドルと6.8ドル。1年または3年単位での契約オプションも提供する。2月15日に米国東部地域で本サービス開始しており、順次拡大していく計画だ。
すでにAWSは、処理系向けのデータベースサービス「Amazon RDS」を提供しており、Redshiftの追加によって処理系と分析系がそろうことになる。
メディアはその“破壊力”を大きく取り上げている。例えば、Cloud Timesは「Amazonは市場を破壊し、誰も提供してこなかったサービスを提供するのにたけている」とし、トレンドに沿った形で、コスト削減という大きなメリットも備えると好意的な見解を示した。
Redshiftは受け入れられるのか?
データウェアハウスといえば、IBM、Oracle、Teradata、EMCなどのベンダーの独壇場だった。高価で、かつ複雑なソリューションとなることから、大企業(エンタープライズ)向けのシステムにとどまってきた。AWSの試算では、通常のオンプレミスのデータウェアハウスシステムの場合の1TBあたりのコストは年間1万9000ドルから2万5000ドル。一方で、Redshiftは1TBあたり年間1000ドルという。圧倒的な低コストとなるが、これだけでRedshiftは顧客を引きつけられるのだろうか。
InfoWorldのクラウドウォッチャー、David Linthicum氏は、Redshiftの長所と短所をまとめている。長所は、コストの他、必要なときにすぐに大規模なデータベースをプロビジョニングできること、またPBを超える単位の大規模なデータベースの処理が可能となる拡張性などを挙げている。逆に短所は、障害発生の可能性、データの移行と統合にかかるコスト、新しいソリューションのためベストプラクティスがないことなどを挙げる。さらに、予想外のコストが発生して、想定しているコスト削減が得られないかもしれない点も留意すべきだとしている。だがその上で、Redshiftは「成功するだろう」と予言する。
多くのメディアやアナリストは、Linthicum氏のように、リスクに前向きなベンチャーなどのアーリーアダプターが最初のユーザーとなり、じわじわと浸透していくのではないかと見る。だが、広がり方についての意見は分かれるようだ。
SAPは「パブリッククラウドベースのデータウェアハウスはまだ成熟していない」と主張する。同社はRedshiftの発表後、自社ブログでデータウェアハウスのクラウド実装を分析し、「これまでのコモディティ化の歴史から、成熟までに少なくともあと5年はかかる」と予想した。だがプライベートクラウドでは魅力的なソリューションになるとして、コスト、敏捷性(アジリティー)、全体での管理が可能となることなどのメリットを示している。
当事者側からも、Redshiftが既存のデータウェアハウスを駆逐するようなことはないとの声が出ている。実はRedshiftのベースは、データウェアハウスシステムのベンチャー企業であるPar Accelの技術だ。AWSの親会社であるAmazonが2012年7月にPar Accelに出資。これによってPar Accel技術のラインセンスを獲得したという経緯がある。
Par AccelのCEO、Chuck Berger氏はInformation Weekに対し、Redshiftが成功したとしても、オンプレミスのデータウェアハウスも存続するという見解を示している。オンプレミスが今後も重要であるとする根拠は、セキュリティ、規制、性能の懸念が残ると考えるためだ。
セキュリティでは、財務や金融などの企業を中心に、パブリッククラウドにデータを置くことへの不安は根強い。性能では、データベースからのデータの出し入れではオンプレミスに軍配があがるという。Berger氏は、Amazonは高速な接続技術を提供するが、設定が複雑で高価になるかもしれないとも指摘する。
Berger氏は、AWSに技術が採用されたことで、自社のオンプレミス事業がIBMやOracleとの競合の中で有利になるのではとの期待もにじませている。
関係重視のエンタープライズにどこまでアピールするか
RedshiftでAWSが狙うのは、これまでコストや複雑さなどのためデータウェアハウスを導入できなかった中小規模企業、そして既存のデータウェアハウスが割高だと感じ始めているエンタープライズだ。re:Inventでは、ストレージの「Glacier」も目玉となった。中小規模企業はAWSの顧客の中心であり、また得意とするところだ。が、エンタープライズではどこまで食い込めるのだろうか?
AWS最高データサイエンティストのMatt Wood氏は、コスト削減に加え、これまでのようなIT部門のデータウェアハウスのメンテナンスが不要となるため、コアな部分に時間を割ける、とNetwork Worldにアピールしている。
だが、エンタープライズのほとんどはすでに何らかのデータウェアハウスを構築しており、AWSとしては、その中でRedshiftに移行してもらわねばならない。AWSのクラウドにデータを置く顧客は、同じくre:Inventで登場した「Data Pipeline」を利用して10ギガビット接続でデータを移行できる。
こうしたことからNetwork Worldは、新しいデータウェアハウスの構築にRedshiftを利用してテストし、クリティカルなデータはオンプレミスに残すのではないか、と予想する。
それでもクラウドの導入はどの企業にとっても選択肢の1つとなっている。Forrester ResearchのアナリストJames Staten氏は、エンタープライズのワークロードやアプリケーションの30%から50%が、いずれパブリッククラウドに移行するだろうとNetwork Worldに語った。Staten氏によると、ほとんどのエンタープライズ顧客が何らかの形でAWSを利用しているという。
Amazonのエンタープライズ戦略を分析したNetwork Worldは、最大の障害をエンタープライズのITが既存のベンダーと築いている“心地よい関係”と分析する。現時点ではAWSは開発者が好む技術だが、大企業の意思決定者とのリンクとなると、関係重視の既存のベンダーのほうが強い。同誌によると、AWSのマーケティング担当者はエンタープライズフォーカスのための協調した取り組みを進めているという。
Redshiftはエンタープライズ分野で、GoogleやRackSpaceなどクラウドベンダーだけでなく、Oracle、IBM、Hewlett-Packardなどのオンプレミスベンダーのクラウドソリューションにも対抗することになる。AWSが技術面の懸念を払拭し、どのようにしてエンタープライズに自社パブリッククラウド製品をアピールしていくのか――。注目されるところだ。