Infostand海外ITトピックス

webOSが復活? LGがHPから関連資産を買収

 2011年末にオープンソース化されて以降、その名をあまり聞くことのなかったwebOSが突如、メディアを賑わせた。Hewlett-Packard(HP)から、韓国のLG ElectronicsがwebOSを買収するとの報道が流れたのだ。かつて、 Android、iOSに対抗しうる“第三極”として期待されながら、失敗の憂き目を見たモバイルOS、webOSが再び表舞台に出てくるのか――。

「webOSは生きている!」

 買収報道をリードしたのはCNET Newsで2月15日朝、「WebOSは生きている!」と題して、LGがwebOSのソフトウェアや人材をHPから買収すると伝えた。スマートフォンのためではなく、スマートTV向けで、「もう死んだと思われたwebOSがLGによって、いまひとたびのチャンスを得た」とした。

 だが、この話には懐疑的な者も多かった。いまやメリットが薄いと考えられるからだ。直ちに反応したTecCranchは、「われわれは事実を直視すべきだ。webOSはもう死んでいる」と反論。HPは“お荷物”となったwebOSを処分し、LGはソフトウェアスタックをスマートTV向けに利用したいだけで、webOSが「決してコマーシャルプロダクトとして復活することはない」と切り捨てた。

 webOSは、かつてのPalmが開発したモバイルOSで、シンクロ機能などを持ち、少なくともiPhoneが発売された当初は、iOSに遜色ないプラットフォームと考えられていた。Palmの経営不振から、2010年にHPが12億ドルで買収。「クラウドソリューションの重要な要素」と位置づけて、スマートフォン、タブレットからPCまでに採用する計画を立てた。

 しかし、本体事業の不振から2011年8月に、当時のCEO Leo Apotheker氏がPC部門の切り離しを決定。これと合わせ、webOSも売却先を探したが、CEOを引き継いだMeg Whitman氏が“戦略見直しの見直し”を行い、オープンソース化を発表した。かつてPalmのOSは、使いやすいユーザーインターフェイスや開発者の人気からモバイルを切り開いた。米国のテクノロジー業界には、なおファンも多い。製品が復活するかにも関心が高いのだ。

クライアント部はLGへ、だがクラウド部分はHPに

 LGのwebOS買収の全貌は、果たして、その日の両社の正式発表で明らかになった。そして、CNETの記事には大事な部分が入っていなかったことが分かる。

 両社のリリースによると、合意事項は次の通りだ。

  • LGは、Web OSのソースコード、関連ドキュメント、エンジニア、関連Webサイトを取得する
  • LGは、Web OS製品のためHPのIPのライセンスを受ける。この中にはHPがPalmから取得した、広く利用されているOSの根本部分やUIの特許が含まれる
  • LGは、 オープンソースプロジェクトの「Open WebOS」と「Enyo」(オープンソースのJavaScrptアプリケーションフレームワーク)をサポートする
  • HPは、Palmのクラウドコンピューティングの資産(ソースコード、人材、インフラ、契約等)を引き続き保持する
  • HPは、Palmユーザーのサポートを継続する

 両社は取引の金額部分や条件などは公表していない。

 発表でLGは「次世代のスマートTV技術をサポートするため」にWeb OSを取得したと説明した。LGは薄型TVで世界2位のシェアを持ち、スマートTVの開発にもリソースをつぎ込んでいる。LGのCTO(最高技術責任者)、Skott Ahn氏は「(webOS)は、LGがコンシューマーエレクトロニクスを横断して、直感的ユーザー体験とインターネットサービスを提供するための新しい道筋をつけるものだ」とその意義を強調した。

 CNETの記事はおおむね正しかったのだが、1点、「HPがPalmのクラウドコンピューティングの資産を保持する」という点が入ってなかった。HPは、決してwebOSを譲渡してしまったわけではないのだ。

取引の勝者はHP?

 HPがwebOSのクラウド面を保持し続けるとは、どういうことだろう。以前からwebOSに熱心だったThe Vergeは、HPのCOO Bill Veghte氏に確認。HPが引き続き保持するクラウドサービス部分には、アプリカタログ、アップデートシステム、その他、webOSとやりとりするバックグラウンドサービスがあると説明する。「われわれは、webOSのクラウド部分をエンタープライズサービス部門で広く活用することができる」(Veghte氏)というのだ。

 またThe Vergeは、旧PalmとwebOSの特許はあくまでHPのもとにあり、LGはそれらのライセンスを受けるにすぎない、とも指摘している。

 こうしたことからThe Vergeは、この取引の勝者はHPだとみる。「HPが自信をもってクライアント側webOSからサービスに投資を移行させているのに対し、LGは非常にためらいがちで、混乱しているようにさえ見える」と述べ、LGが長期的な戦略を持たずに条件に乗ってしまったのではないかとの見方も示している。

 この見方を裏付ける話として、発表の場で「Web OSのどのコア部分がスマートフォンTVに役立つのか」を質問されたLGのAhn氏が、10秒間の沈黙のあと、答えられなかったと伝えている。

 ただ、HPの一方的な勝ち、という見方には異論もある。Appleに詳しいことで知られるAsymco.comのアナリストHorace Dediu氏は、Business Insiderに対し、この取引がwebOSを部分的に手にしたものであれ、LGが、(Appleでさえなれなかった)リビングの独占プレーヤーになれる可能性をもたらすと述べている。

 「LGがwebOSをTVコンテンツを売るための端末として使う限り、あまり大きな価値を得られないだろう。一方でもし、テレビを全く違う何かに再定義するため(例えば、ソフトウェアを実行するためのデバイスとか)にwebOSを使うなら、大きな繁栄の源となりうる」とDediu氏は言う。

 それにしてもかつてのPalmファンには、webOSが再びモバイルデバイスとして出てくることへの期待がある。これに答えるようにInformationWeekは、LGがwebOSを近い将来、モバイルデバイスに使う計画を持ってないとしても、その可能性は無視できないとしている。

 同誌によると、LGは現在、自社のスマートフォン・プラットフォームでは完全にAndroidに依存しており、MicrosoftのWindows Phoneプラットフォームからも距離を置いている。しかし、すべてのデバイスが1つのOSプラットフォームに依存するのはリスクがある。

 ライバルのSamsungもAndroidとWindows Phoneを採用しながら、さらにLinux Foundationが管理する「Tizen」と独自プラットフォーム「Bada」を統合する「Bada/Tizen」を推進しており、多様さを担保している。LGが、Android以外の選択肢としてwebOSを利用することもありうるとみるのだ。

 先週、スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2013」(MWC)では、iOS、Androidに挑むスマートフォンOSの第三極が話題となった。注目を集めたのはMozillaの「Firefox OS」と「Tizen」だ。AppleとGoogleが支配する現在のモバイルOSの中で、メーカーやキャリアが代替プラットフォームを持ちたいという欲求は強い。

 webOSの動向も、そんな中でのひとつのカギとなるのだ。

(行宮翔太=Infostand)