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特別編:海外IT話題の1年と2013年の展望~連載バックナンバーで振り返る2012年

 2012年は、クラウドが現実的な選択として確立した年だったと言えるだろう。また、Webの主力が次第にモバイルへと移り、ソーシャルメディアを中心とするWebサービス企業の覇権争いが、激しさを増した。「海外ITトピックス」の連載で取り上げてきた話題をもとに、2012年を振り返ってみよう。

2012年のトレンド~実用フェーズに入ったクラウド

 年始めのトレンド予測では、「ビッグデータ」や「PaaS」などをキーワードとして挙げた。1年を過ぎて振り返ると、ビッグデータでは急激に活用の事例紹介が増え、実用段階に入ってきていることがうかがわれる。10月のGartnerの予測調査では同市場の規模は2013年に340億ドル(前年比21.4%増)にまで拡大する見込みという。

 PaaSについては、日本でもベンダーから次々に関連ソリューションが発表されており、認知も広まっている。しかし、市場としてはまだ、端緒についたところと言えるだろう。本格的なブレイクはまだこれからと考えられる。

 IaaS環境では、OpenStackとCloudStackという2つのオープンソース基盤の動きが特筆される。“クラウドのLinux”を目指すOpenStackで4月に非営利団体「OpenStack Foundation」も設立され、8月には、RackspaceがOpenStackを利用した大規模なパブリッククラウドの提供を開始した。

 一方、CloudStackは、4月にCitrixがApache Software Foundation(ASF)に寄贈して本格的にオープンソースとして開発が進められ、11月にはCloudStack 4.0がリリースされている。

 OpenStackはベンダーニュートラルを特徴とし、CloudStackはVMOps時代からの多くの導入実績でアピールする。これから勢力争いが本格化するだろう。

 クラウド全体では、Gartnerの「幻滅期」入りの指摘が注目を集めた。クラウドは2012年に「流行期」のピーク(hype)を迎えたあと、2012年に幻滅期に移り、メディアや市場の関心が薄れてきているというものだ。クラウドは魔法でも特効薬でもない。「適切な目的のために正しく実装」することが求められている。

・2012年のクラウド 戦いはプラットフォームにシフトする
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120110_503276.html
・オープンソースIaaS戦争勃発? OpenStackかCloudStackか
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120507_530950.html
・「OpenStack」ベースのクラウドサービス Rackspaceのパブリッククラウド
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120806_551626.html
・「幻滅期」に入ったクラウド~正しい理解ができているか
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120903_557098.html
・「モバイルとクラウド、そしてビッグデータ」 GartnerのITトレンド予測
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20121029_569356.html

モバイル

 クラウドとは切っても切れないモバイルの進展もめまぐるしかった。スマートデバイスでのAndroidとiOSのシェア争いでは、次第にAndroidが追い上げている。3月のLinuxカーネル3.3でのAndroid再統合は、Android陣営に拡大の機会を与えるとみられるが、具体的な成果が見えるのには、もう少し時間がかかるだろう。

 企業でのモバイル活用で、急浮上したのが個人所有端末を業務に利用する「BYOD」(Bring Your Own Device)だ。管理、セキュリティなどの課題は多いが、ユーザー側、ベンダー側とも期待は大きい。BYDOの成功には、モバイルデバイス管理(MDM)のソリューションが不可欠で、来年にかけてもさらに盛り上がりが予想される。

 また、スマートデバイスは、今後のネットサービスの覇権のカギを握ると考えられる。2011年には、Amazonが自社専用の低価格タブレット「Kindle Fire」を投入し、Facebookが自社ブランド携帯電話を用意しているとのうわさも出て、「サービス&ハードウェア」という戦略にスポットライトが当たった。GoogleのMotorola Mobility買収も、その文脈から再検証が試みられている。

 今年夏には、Amazonがスマートフォンへ参入を計画しているとの報道があり、その動向に関心が集まった。秋口には、同社がTIのモバイルチップ事業を買収する計画があるとイスラエル発で報じられ、メディアも色めき立った。2013年こそ、Amazonスマホの投入があるとのうわさは根強い。

 ほかにChromeデバイス、MozillaのスマートフォンOS「Firefox OS」などの動向も気になるところだ。

・新しいデバイスに道を開く? AndroidをLinuxに統合
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120326_521516.html
・盛り上がるBYOD 導入には課題もいっぱい
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120611_539345.html
・再び浮上する謎 GoogleのMotorola買収
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120604_537519.html
・「Firefox」がモバイル進出 MozillaのスマートフォンOS
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120709_545715.html
・Amazonがスマートフォン参入? 無料配布の可能性も
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120717_547144.html
・TIのモバイルチップ事業買収? Amazonのプラットフォーム戦略
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20121022_567644.html
・Chrome OSは浮上するか? 200ドルを切った新世代「Chromebook」の期待
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20121119_573992.html

Webサービス企業のデータ統合

 Webサービスの側面からは、Google、Facebookなど超大手のプライバシーポリシー変更が注目される。これまでサービスごとに分かれていたユーザーデータを統合するポリシー変更が相次いだ。データ統合すれば、ユーザーの求めに対する答えの精度を高め、サービス体験や品質の向上をできるというのが理由だ。もちろんターゲット広告の精度も高くなる。こうしたデータ統合の流れは、先のビッグデータの隆盛と関連している。

 ソーシャルで後れをとったGoogleは、Google+で追撃し、ソーシャルデータの収集を進めながら、新プライバシーポリシーを導入した。プライバシー擁護派の強い批判を受けながらも、この方向は揺るがない。規制側の当局も、プライバシー保護のための法・制度の整備に動いている。

 一方、ソーシャルの雄Facebookも自社の基盤をもとに、主戦場になったモバイルに積極的に打って出ようとしている。売り上げゼロの写真共有アプリサービスInstagramを10億ドルで買収したのも、その一環だ。

 この戦略は、Twitterとの対立を招いた。InstagramとTwitterとの戦いは、ユーザーにも迷惑な話だが、両者とも引く気配はない。Instagramは12月17日に、プライバシーポリシーを改定して、Facebookとの情報共有を正式に発表した。(その後、写真の利用をめぐってユーザーの批判の声が上がり、トップが釈明する騒ぎもあった)

 Twitter対Instagramの戦いは、それぞれマイクロブログ、SNSの巨大プラットフォームを展開するTwitterとFacebookの戦いでもある。他社のプラットフォームに乗ってアプリを展開するInstagramのようなソーシャル系アプリサービスは、プラットフォームと連携することで成長してきた。しかし、今後プラットフォーム間の戦いがエスカレートすることで、大手を軸とする陣営に再編されてゆく可能性もある。

・Googleの自社サービス偏重? 「Search plus Your World」騒動
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120116_504861.html
・Googleの新プライバシーポリシー 背景にFacebookとの競争激化
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120206_510000.html
・プライバシー保護の原則になるか FTCの報告書公開
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120402_523188.html
・売り上げゼロのInstagramを10億ドルで買収、Facebookの勝算
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120416_526738.html
・開発者に広がる波紋 TwitterのAPI利用規約変更
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20120827_555567.html
・ソーシャル写真戦争勃発 Instagram vs Twitter対立の行方
 http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/20121217_579031.html

(行宮翔太=Infostand)