オープンソースIaaS戦争勃発? OpenStackかCloudStackか
「IaaS」(Infrastructure as a Service)分野での動きが活発だ。4月初め、Citrix SystemsがオープンソースのクラウドプラットフォームCloudStackをApache Software Foundation(ASF)に寄贈して、Apacheプロジェクトに移行するとともに、これを自社のIaaSの中核製品にすると宣言した。Citrixは、“クラウド界のLinux”を目指すOpenStackにも参加していたが、決別することになる。OpenStackはどうなるのか、VMwareなどの商業ベンダーはどう動くのか――。
■CloudStackの誕生
IaaSはシステム稼働に必要な仮想マシン、ネットワークなどのインフラをインターネットを介してサービスとして提供するクラウドサービスで、Amazon Web Services(AWS)の「Elastic Compute Cloud(EC2)」がその草分けだ。
このEC2に対抗すべくRackSpace HostingとNASA(アメリカ航空宇宙局)が2010年7月に立ち上げたのがOpenStackだ。オープンソースプロジェクトになるとすぐに、Intel、IBM、Dellなど主としてAmazon対抗を狙うベンダーたちの支援を取り付けた。「Ubuntu」を開発するCanonicalも、それまで採用していた「Eucalyptus」からOpenStackに変更している。
CitrixもOpenStackに参加していたが、2011年7月にOpenStackと重なる仮想化基盤「CloudStack」を持つCloud.comを買収して、その真意に関心が集まっていた。結局、今年4月初めになって、CitrixはCloudStackをASFに寄贈すると発表。IaaSではOpenStackを捨ててCloudStackを選んだかっこうになる。
これによって、オープンソースIaaSでは、OpenStackとCloudStackの2つの有力プロジェクトが並び立つことになった。ライセンスはともにApache License 2.0だ。
■OpenStackの弱点ーー技術とガバナンス体制
CitrixはなぜCloudStackをオープンソースプロジェクトとして立ち上げる必要があったのだろうか? このあたりをInfoWorldが分析している。それによると、まずOpenStackが技術的に未熟であり、すぐにIaaSを導入したいという顧客のニーズに応えられないためだとCitrixは説明している。
以前から、OpenStackではいくつかの問題が指摘されていた。技術的な未熟さのほかに、「RackSpaceの息がかかっている」(中立的でない)ことなどだ。この点についてCitrixは「(OpenStackプロジェクトには)関与者が多すぎ、不規則に広がっている」という見解を示している。
また、OpenStack側は「CitrixはOpenStack連携と見せかけた後で完全に方向転換し、今度はわれわれを攻撃し始めた」(OpenStackのメンバー企業であるNebulaのCEO)と述べているというから、現時点では両プロジェクトは協調関係からはほど遠い状態のようだ。
こうしたCitrixの動きを評価する見方もある。ZDNetに寄稿したForrester Researchのアナリストは「Citrixは自社のポジションを明確にする必要があった」とした上で、「企業IT担当者の36%がIaaSを優先事項としており、企業はいま利用できるソリューションを探している。だが、OpenStackはまだ準備ができていない」と述べている。
さらに、CloudStackがAmazon EC2との互換APIを持つほか、CitrixはASFのプロジェクトとすることで企業が利用しやすいライセンス(CloudStackはそれまで、制約の多いGPLの下で公開されていた)になると説明。Citrixの動きを「正しい動き」と評価した。
一方でOpenStack側もユーザーの懸念を払拭しようと動いている。まず4月はじめに公開した最新版(コード名:Essex)だ。検証済みで、企業や組織の導入にも適している、と技術の進化を売り込んでいる。プロジェクトの中立性については、その後開催した開発者カンファレンスで「OpenStack Foundation」発足を発表。IBM、Red Hatなどがプラチナメンバーとなり花を添えた。
その直後には、RackSpaceがOpenStackのAPIを自社サービスで実装することを発表。大規模な商用実装としては初の事例となった。さらに4月末にはOpenStackベースのIaaSを提供するPiston Cloud Computingが、VMwareのオープンソースのPaaS(Platform as a Service)「Cloud Foundry」の統合を発表している。
■「ゼロサムゲームではない」
CloudStackの立ち上げによってOpenStackの弱さにスポットが当たった格好となり、両者の対立も感じられる。そんな中で、メディアは両プロジェクトとIaaSの将来について、さまざまな見方を示している。
「OpenStackは遅すぎたのか?」というタイトルで分析したGigaomは、「クラウド界のLinuxを目指したが、このままではUNIXになる恐れもある」とOpenStackの分断化に警鐘を鳴らす。AWSがEucalyptus、CloudStackなどとAPI互換を維持して包囲網を作りつつある上、「AWSスタックには顧客に選択肢があるという特性があり、拡張性とコストも明確で即座だ」とのSIerの声を紹介。OpenStackの将来はAWS APIがデファクトと思うかどうかで変わるが、ロックインを嫌う企業の支持を集めるだろうとみる。
ZDNetはOpenStack対AmazonとCitrixの構図になると予言。「オープンソースのクラウド戦争の始まり」であり、 EucalyptusやMicrosoftもこの戦いに関与してくるだろうと述べている。
ReadWriteWebは、OpenStackだけでなくCloudStackやEucalyptusなど一連のオープンソースクラウドについて、技術的未熟さ(immature)を「十分(good enough)」と言い換える。最初は未熟であっても利用が増えると完成度が高くなっていくというオープンソースの特性を挙げながら、「今日の顧客は長期的視野を持っている」と楽観する。
PistonによるCloud Foundry統合については、クラウド専門の調査会社Rishidot Researchのアナリストが「IaaSとPaaS間で複数のクラウドが統合できる重要性が認識されつつある」と評価し、ベンダー間で考え方は異なってもクラウドの利便性のために協力する動きが出てきていることを示唆している。
Virtualization Reviewは、クラウドは新しいアーキテクチャであり、どちらかが勝つ“ゼロサム”ゲームではなく、OpenStackとCloudStack、ともに成長の余地があるとする。またAWSについても、「現在はデファクトだが永続することはない」とし、競争がイノベーションと品質を改善するとしている。