盛り上がるBYOD 導入には課題もいっぱい


 個人所有の端末を業務で利用する「BYOD」(Bring Your Own Device)がITの大きなトレンドに浮上してきた。つい最近も、Cisco Systemsが企業向けAndroidタブレット事業から徹底してBYOD向け通信サービスへと戦略転換するといったニュースが飛び込んできている。一方で、セキュリティなどの課題もクローズアップされ、先進的だったIBMが、従業員の「Dropbox」や「iCloud」の利用を禁止するといった話も出ている。

ハードベンダーもBYODソリューションにシフト

 Ciscoは5月24日、約1年前から展開してきたAndroidタブレット「Cius」の打ち切りを発表した。Ciusは同社の主力分野の1つであるWeb会議などのビジネス向けに特化した端末で、個人用の要素は少ない。だがCiscoが想定していた企業ユーザーは、会社支給のCiusのような端末よりも、自分が使い慣れた「iPad」などのタブレットやスマートフォンを望んでいたのだという。Ciscoの撤退の背景には、モバイル分野の動きが激しく収益性が低いことと、法人分野が立ち上がってないという2つの要素がある。

 Ciscoがモバイル分野でハードウェアを捨ててフォーカスするのが、ユニファイドコミュニケーション技術「Cisco Jabber」とWeb会議サービス「Cisco WebEx」などのソリューションだ。今後、OSや端末のサポートを拡大しながら、ソフトウェア/ソリューションからBYODトレンドを支援していくという。

 同様の動きはHP、Dell、Juniper Networksなどにも見られる。ITや通信技術ベンダーは、いまや端末ハードよりもソリューションを目指し、エンタープライズのモバイル化とBYODの波に乗り遅れまいと奮闘している。

 また、Googleが6月2日に発表したモバイル向けオフィススイートのQuickoffice買収にも、BYODの影がちらつく。例えば、ZDNetのブロガー、James Kendrick氏は次のような見方を述べている。

 いよいよリリースが迫ってきた「Windows 8」はタブレット対応が大きな特徴で、Microsoftは、AppleとGoogleがけん引するモバイル分野へ8で食い込もうとしている。同時にMicrosoftが「Office」のモバイル対応開発を進めているといううわさがある。

 MS OfficeがiOSとAndroidに対応するとなれば、BYODユーザーには大きなニュースだ。ライバルもうかうかしていられない。そこでGoogleはモバイルオフィスのQuickofficeを手に入れることで、モバイルOSそしてオフィスツールの両方でOfficeと対抗するとみられるという。


コスト削減効果はない?

 そんなおり、Technology Reviewが、「IBMがBYODの危機に直面」と題した記事を掲載した。IBMは2010年からBYODを認めており、40万人の社員のうち8万人が自分のタブレットやスマートフォンで社内ネットワークにアクセスしているという。

 この中で、IBMのCIO、Jeanette Horan氏は、BYODによって管理が困難になったという問題を指摘し、社内調査から従業員のセキュリティ意識が欠如していることが分かったと述べている。

 特に、人気の高いアプリにセキュリティのリスクがあると判断して、Dropbox、iCloud、Siriなどのサービスの利用を禁じた。BYODでは端末支給コストが削減できるといわれているが、Horan氏は、セキュリティ対策や、会社が管理できないソフトが入っているため「BYODのトレンドはIBMでは全く経費節減になっていない」と話している。

 現在、魅力的なスマートフォンやタブレットと、使いやすいクラウドサービスがBYODをけん引している。Ciscoの調査では、企業の95%が何らかの形でBYODを認めているといい、かなり一般化しているようだ。だが、IBMの報告は、BYODがIT部門に新しい課題を突きつけていることをはっきり示している。

 VentureBeatに寄稿したCompuwareのLorenz Jacober氏は、BYODに「欠点が見え始めた」と述べ、管理ができなくなる点を挙げている。Android、iOS、Mac OS、WindowsなどのOSとGoogle Chrome、Firefox、Internet ExplorerなどのWebブラウザの組み合わせによって、ページ読み込み時間などのパフォーマンスが全く異なる様のチャートを示しながら、「IT部門はアプリのスピードや可用性をどうやって確実なものにしていくのか。これは簡単ではない」と述べている。

 InformationWeekは見方を変えて、IT部門がユーザーのニーズに追いついていないとの辛口の記事を掲載する。需要が加速にITが追いついていないとするForrester Researchの報告書を挙げながら、システム設計者やアーキテクトは受け身ではなく、ビジネス構造とプロセスを分析して、収集した情報から推奨するなど、役割を変えていく必要があると主張している。


MDMなどのBYODソリューションに注目

 こうした課題に対するソリューションとして期待されているのが、モバイルデバイス管理(MDM)というカテゴリだ。紛失・盗難対策として遠隔からのデータ消去、パスワード強制入力、機能制御などの特徴を備え、アプリケーション配信などを含むものもある。これ自体は新しい分野ではないが、BYODの盛り上がりで、改めて注目を集めている。

 この分野の大手にはGood Technology、SAP傘下となったSybase、AirWatchなどがあり、McAfeeなどセキュリティ企業も機能を提供している。専業とするベンチャー企業も立ち上がっており、6月初めに通信キャリアT-Mobile出身のGiri Sreenivas氏が立ち上げたMobilisafeが、リアルタイムの脆弱性リスク管理を特徴とするソリューションをローンチして話題となった。

 MDMは当面、ベンチャー主導で機能開発が進み、並行して企業の導入も活発になると予想される。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/6/11 09:46