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“次のモバイル”への期待 「Google Glass」開発者向けリリースへ

 モバイルの隆盛は、2013年になっても衰えることはないだろう。かつてはコンピューターでなければできなかったことも、ネットワークに接続したスマートフォンがあれば、難なくこなせる。携帯電話はモバイル端末へと進化した。そして次のモバイル端末として期待されているのがウェアラブルコンピューターだ。Googleが次世代のプロジェクトとして進めている「Google Glass」は、今年、開発者向けリリースを目指しており、2014年にはコンシューマー向け提供も始まりそうだ。

開発者向けリリースは2013年の早い段階

 Google GlassはProject Glassという名称でGoogleが進めている眼鏡型コンピューター開発プロジェクトだ。眼鏡のフレームに小型のコンピューターを装着し、片方の目の上に情報を表示することなどができる。2012年4月に正式発表。詳細はその後の「Google I/O」で明らかにした。共同設立者Sergey Brin氏が積極的に進めており、Brin氏は、Google Glassを装着して昨年秋、ファッションショーに登場している。

 米国電気電子学会(IEEE)の会員向け機関誌IEEE Spectrumは2013年1月付で、Google Glassを特集している。その中のBabak Parviz氏へのインタビュー記事で、久しぶりにGoogle社員の口から技術面を中心に進ちょく状況が語られた。Parviz氏は、GoogleでGoogle Glassプロジェクトを率いている人物で、取材は12月半ばに行われたものだ。

 Parviz氏はインタビューでさまざまな質問に答えているが、いくつかピックアップしてみよう。

 まず、Google Glassの目標については、2つの面で人々に利便性を提供するデバイスを開発したいと述べ、「静止画や動画を使って他人とやりとりを可能にする」と「迅速に情報にアクセスできる」の2つを挙げた。現実拡張(AR)については、「直近の目標ではない」としながら、「将来的にはARが視野に入ってくるだろう。ARは(Google Glassのような)ウェアラブルコンピューターの将来の世代を考えるとエキサイティングな技術」と述べている。

 プロジェクトの進ちょくについては、2013年の早い段階で出荷できるよう、ハードウェアとソフトウェアの両方から「プラットフォームを堅牢にしている」と述べた。これは、Google I/Oで発表していた予定通りとなる(Googleは開発者版「Google Explorer Edition」として、米国在住者に限定して1500ドルで提供するとしていた)。

 だが、Parviz氏は、それ以上は具体的にせず、「このプラットフォームがどんなことに利用されるかについて、常に新しいアイデアを試している」と説明。機能についても、「なお流動的」と述べ、「これまで写真を撮る、それを共有するなどの基本的な機能について触れてきたが、たくさんのことを実験している」と述べるにとどまった。

 だが、操作については、制御のためのタッチパッドを搭載していること、音声の出入力が可能で音声コマンドの実験中であること、頭を使ったジェスチャーによる操作も実験していることを明かした。また、インタビュアーの質問に答える形で、Androidとの連携、特にパーソナルアシスタント「Google Now」との統合も視野に入れていることなどを語っている。

 開発者向けリリースが予定通りにいけば、コンシューマー向けの出荷は2014年には始まる可能性が高い。

Google Glassだけではない

 ウェアラブルコンピューターのアイデアは、決して新しいものではない。1990年代からしばしば、“着るコンピューター”として話題になってきた。産業用・軍事用では、両手を自由にしたまま、膨大なマニュアルを確認できる便利さから、かなり活用されるようになったが、コンシューマー向けでは、まだ普及するには至っていない。

 だが、Googleが本腰を入れるとなれば、弾みがつくことも考えられる。Parviz氏は、生体工学を利用したコンタクトレンズなどを開発する電子工学の研究者としてワシントン大学の客員教授を務めていたところを、Googleにスカウトされた経歴を持つ。

 現在、この分野をけん引しているのはベンチャー企業だ。カテゴリとしては「時計」が先行しており、スマートフォンと連携するEペーパーウォッチを開発するPebble Technology、Androidベースの時計向けプラットフォームを開発するWIMM Labsなどがある。Nikeが「Nike+」ブランドで展開するGPS搭載のスポーツウォッチなども、ウェアラブルコンピューターの一種といってよさそうだ。

 眼鏡でも、スノーボーダーに人気の「HUD」を開発するRecon Instruments、軍用のヘッドデバイスでスタートし「M100」でコンンシューマーに拡大を図るVuzixなどがある。このほかにも、Atheer、Lumus、Bergence Labsなどがめがね型のウェアラブルコンピューター端末を開発中といわれている。

 大手ではGoogleのほか、AppleやMicrosoftなどがウェアラブルコンピューター関連の特許を申請していることが報じられている。

 IMS Researchによると、2011年のウェアラブルコンピューター端末出荷台数は1400万台、ヘルスケアや医療用、フィットネスが中心という。今後ウェアラブルコンピューターの製品カテゴリは拡大し、控えめに見ても2016年には60億ドル規模になるとの予想を示している。

普及に向けた課題

 期待の大きいウェアラブルコンピューターだが、実用化するには多くの課題がある。Praviz氏はインタビュー中、動画を利用する場合などのバッテリー持続時間が十分でないとの指摘を認め、1日利用するのに十分なバッテリーを提供することを目標に作業を進めていると述べた。

 また、目の疲れや視性錯乱などの副作用の可能性についても、真剣に取り組んでいると語った。これについては、眼鏡型ウェアラブルの先駆者されるSteve Mann氏も健康への懸念に言及し、「Google Glassは第1世代がもとになっているが、(世代=技術革新は進んでおり)、もう第4、第5世代を採用すべきだ」とIEEE Spectrumに述べている。

 MIT Technology Reviewは、大きな課題として「実際にデバイスを装着すること」を指摘する。「屋内のミーティングで、参加者がBluetooth接続のヘッドセットやサングラスを装着している場面を想像してみればわかるだろう――(ウェアラブルコンピューターデバイスに対する)居心地の悪さのようなものが、社会にはまだある」とMIT Media LabのARシステムの設計と構築を行う研究者Natan Linder氏は述べている。

 MIT Technology Reviewではこれに加え、現時点のウェアラブルコンピューターデバイスが、人々の期待を満たしていない点を挙げる。Googleが公開しているGoogle Glassのプロモーション動画についても、「現時点では誤解を招く」と指摘。IEEE Spectrumも、Google GlassはSFで描かれているようなARアプライアンスにはほど遠く、「スマホを頭に載せているようなもの」と形容する。現在のGoogle Glassでは、視界内の対象物に、タグ、グリッド、地図情報、コメント表示などを付加することはできない、と機能面の未熟さを指摘する。

 Google Glass特有の課題については、Parviz氏がインタビュー中に正直に述べているように、ビジネスモデルの問題もあるだろう。Googleは当初から広告表示の予定はないとしており、Parviz氏も、「現時点ではなし」としている。

 さらには、これらを乗り越えて普及し始めたあかつきには、プライバシーへの懸念が待っていることも容易に想像される。

 それでもテクノロジー業界はウェアラブルコンピューターを重要視している。IEEE Spectrumも同時掲載したGoogle Glass関連の記事で、“Google Glassライク”なウェアラブルコンピューターデバイスをDIY形式で作った手順を披露している。IEEE Spectrumは、技術的な要素はほぼそろっており、「第2の脳の役割を果たすソフトウェアとハードウェアの製作は、確実に今後10年で実現可能な範囲内にある」と結論づけている。

(岡田陽子=Infostand)