独自の取り組みで価値を向上させるソフトバンクテレコムの「ホワイトクラウド」

“ホワイト”ブランドは覚悟の証


 ソフトバンクグループの代表的なブランドといえば、携帯電話における「ホワイトプラン」に代表される、「ホワイト」ブランドだろう。その「ホワイト」を冠したクラウドサービスが、ソフトバンクテレコムが提供している「ホワイトクラウド」だ。

 ソフトバンクテレコムが提供している「ホワイトクラウド」は、ファウンデーションサービス、ソリューションアダプター、ビジネスソリューション、バリュードオペレーションといった、4つのカテゴリに分けられているが、そのうち特にIaaS/HaaSに相当するサービスを今回は紹介する。

 

ハウジングサービスに近い「プライベートHaaS」

 ホワイトクラウドのHaaSサービスとしては、「プライベートHaaS」「シェアードHaaSスタンダード」「シェアードHaaSプレミアム」の3つが提供されている。

 プライベートHaaSは、データセンターのハウジングサービスに近いサービスだ。物理サーバーをユーザーごとに占有するため、ユーザーのリクエストに合わせたシステムが構成できる。ただ、ユーザーがサーバーやストレージなどを持ち込むのではなく、ソフトバンクテレコム側であらかじめ用意されているサーバーやストレージを使用することになる。これにより、ハードウェアが単一化されるし、リソースの増減に対しても対応できる。

 プライベートHaaSでは、物理サーバーの申し込み台数の60%までを従量課金台数として設定できる。また、ストレージに関しても、申し込み容量の40%までを従量課金対象のディスクとして設定できる。このため、ユーザーは、最低限必要とするリソースを基本料金として支払い、残りのリソースはシステムの負荷に応じた従量課金で、使った分だけ支払うことができる。ちなみに、プライベートHaaSは、完全個別見積もりとなっている。

 

仮想サーバーを貸し出す「シェアードHaaS」

 一方、シェアードHaaSは、仮想サーバーを貸し出すクラウドサービスといえる。シェアードという言葉の通り、物理サーバーをハイパーバイザーで仮想化して、仮想環境を提供している。

 このうち、シェアードHaaSスタンダードは、仮想CPU1コア(2GHz相当)、仮想メモリは1~2GB、ディスクは100GBといった仮想環境を、月額8400円から貸し出している。ファイアウォールやロードバランサーは共有のものが用意されている(ロードバランサーはオプション)。OSとしては、CentOS、Windows Server 2003 R2 Standard Editionが用意されている。

 この上位に位置するシェアードHaaSプレミアムは、シェアードHaaSスタンダードに拡張性を加えたサービスで、ハイエンドクラスのハードウェアと仮想ストレージの採用により、高い品質と柔軟性を持つのが特徴。

 ラインアップとしては、CPU保証型とベストエフォート型の2つのメニューを用意する。CPU保証型は、一定のCPUリソースを固定的に提供するもの。仮想CPUの性能が保証されているため、一定の仮想サーバー性能が担保されることになるが、その代わりに価格が1仮想サーバーあたり月額2万6250円からと、少し高めに設定されている。

 一方、ベストエフォート型はその名の通り、CPUリソースをベストエフォートで提供するプラン。CPUの性能に関しては、同じ物理サーバーに収容されている他の仮想環境によって左右される。その分、CPU保証型に比べるとコスト的には安く、1仮想サーバーあたり月額1万5750円からで利用可能だ。

 CPU保証型で提供される仮想CPUの性能は、3GHz相当の1/3コア。オプションにより、CPUを1/3ずつ追加することもできる(最大2コアまで)。メモリとディスク容量は両プラン共通で、仮想メモリが1GB、ディスクが30GBとなっている。

 オプションとしては、バックアップ、テンプレート、ゲストOSのインストール代行、Pingやポートなどの監視、CPUやメモリやドライブなどの監視などのオプションも用意されている。


ホワイトクラウドのHaaSは大きくシェアードHaaSとプライベートHaaSに分かれ、さらにシェアードHaaSに2つのプランが用意されている各サービスの詳細

 

VMware製品を使ったハイブリッドクラウドなど、新サービスが登場予定

 ここまで紹介してきたように、現状のホワイトクラウドは、他社のクラウドサービスと比べてそれほど変わる部分はない。しかしソフトバンクテレコムでは、2011年の夏以降に、特徴的な新しいクラウドサービスの追加によって、その価値を向上させようとしている。

 1つ目は、VMwareのクラウドインフラソフトウェアを使った「VMware vCloud Datacenter Service」だ。VMware vCloud Datacenter Serviceでは、VMware vSphere、VMware vCloud Director、VMware vShieldなどをインフラとしてパブリッククラウドを構築することにより、プライベートクラウドとパブリッククラウドが密接に連携した「ハイブリッドクラウドサービス」を実現できるという。

 ハイブリッドクラウドサービスは、VMwareベースで構築された企業のプライベートクラウド環境と互換性や可搬性の高いハイブリッドな環境が提供されるため、システム負荷が高いときにプライベートクラウドからパブリッククラウドへ移動することができる。これにより、年度末などの負荷の高い時期をパブリッククラウドで乗り切り、負荷が落ち着いたらプライベートクラウドに戻すといったことも可能になる。

 現在、VMware vCloud Datacenter Serviceは、早期検証プログラムとして、野村證券、SGシステムなどの企業がテストしている。実際のサービスは、2011年7月から提供される予定だ。


VMwareと提携してワールドワイドで共通なインフラを構築する(2月に行われた記者発表会より)VMware vCloud Datacenter Serviceによりハイブリッドなクラウド環境が実現する(同)

 さらに、5月に発表されたのが、「ホワイトクラウド エンタープライズ PaaS Powered By Oracle」だ。このクラウドサービスでは、Oracle Exadata、Oracle Exalogic Elastic Cloudを時間課金で提供する。データベースマシンとして定評のあるExadataが1時間あたり2980円からの低価格で使用できる、今までにはないクラウドサービスといえる。

 ソフトバンクテレコムのホワイトクラウドを見ていると、単なる仮想サーバーの提供だけでなく、クライアントのフリー化を目指している。仮想デスクトップや映像サービスなど、PCやシンクライアントだけでなく、ソフトバンクモバイルのiPhoneやiPadを利用してクライアントのフリー化を進めることで、いつでも、どこでもアクセスでき、仕事ができる環境を目指している。


「ホワイトクラウド エンタープライズ PaaS Powered By Oracle」では、導入に数億円かかるOracleのExadataやExalogicを従量課金で提供する(5月に行われた記者発表会より)。なんと、2980円/時間でExadataが利用できる。Exadataの導入を検討している企業がテストケースで利用したり、システム開発のためのステージング環境として、「ホワイトクラウド エンタープライズ PaaS Powered By Oracle」は利用されるだろう(同)

 

さまざまなサービスを総合的に展開

 ちなみに、今回紹介した以外にも、ホワイトクラウドではさまざまなクラウドサービスを提供している。

ホワイトクラウドでは、サービスを4つのカテゴリに分けている

 大きな分類としては、ファウンデーションサービス、ソリューションアダプター、ビジネスソリューション、バリュードオペレーションなどの4つのカテゴリに分けられており、詳しく紹介したIaaS/HaaS系のサービスは、このうちのファウンデーションサービスに含まれている。

 このほかのファウンデーションサービスとしては、新サービスとしてデータストレージサービス「ホワイトクラウド シェアードHaaS データストレージ」を5月に発表した。このサービスは、クラウド環境を利用し、必要なデータの記録・保存を行えるデータストレージサービスだ。「ホワイトクラウド シェアードHaaS プレミアム」やコロケーションサービスとの接続が可能で、分散したデータを1つに集約することにより、運用の負荷軽減を図れる。

 また2つ目のカテゴリであるソリューションアダプターは、IT環境を構築する上で必須な特定の機能を、アダプター(部品)として提供している。例えば、決済アダプターとして、インターネット上で商品販売やサービスを展開している企業に対し、多彩な決済システムを提供している。

 3つ目のビジネスソリューションでは、企業内で必要なさまざまな機能をネットワーク経由で提供している。このサービスには、Google Appsの再販、ソフトバンクが持つクラウド型のメールサービス、クリアベイルといわれるビジネス向けのSNSシステムなどが用意されている。

 バリュードオペレーションでは、「ITの仕組み+定型化されたオペレーション作業」についてのシステム導入~要員の確保、実際の運用までをトータルで提供している。つまり、コールセンターやヘルプデスクなどバックオフィス業務を一括して行うサービスだ。特にオフショアBPOサービスとして、中国・大連に大規模なオフショアBPOセンターを設置して、ユーザー企業のバックオフィス業務をサポートしている。

 

IaaS、SaaSなどという定義はベンダーの都合でしかない

 今回は、ソフトバンクテレコムのクラウド事業推進本部 クラウド市場開発室 立田雅人室長に話を伺った。

――ソフトバンクテレコムがクラウドサービスを提供するきっかけは何だったんでしょうか?

ソフトバンクテレコムのクラウド事業推進本部 クラウド市場開発室 立田雅人室長

立田氏:ソフトバンクテレコムは、新電電として設立された日本テレコムをソフトバンクグループが買収して設立した会社です。その当時から、一般ユーザー向けの長距離電話回線サービスを行っていましたが、やはりメインビジネスとしては企業向けのサービスでした。

 そして、ソフトバンクテレコムになってからは、さまざまな通信関連企業やシステムインテグレーション関連企業を買収し、ネットワークやデータセンターやソフトウェアインテグレータとして成長してきました。

 このように企業向けのサービスを提供していく延長線上に、クラウドサービスの提供も出てきたのです。

 クラウドサービスに多くの企業から注目が集まってきたときに、ソフトバンクテレコムでもサービスを始めていこうと、いろいろな企業の方とミーティングを持ちました。企業の経営層にとっては、IT資産を持たずに、サービスを月額課金や利用しただけの時間課金で使用できるITインフラは、非常に魅力的に見えたようです。

 

――ホワイトクラウドでは、IaaSからSaaSまで、さまざまなサービスを手掛けていますね?

 こうしたIaaSとか、SaaSとかというクラウドの定義は、しょせんサービスを提供する側の都合なんです。ユーザーにとってのクラウドでは、ビジネスソリューションでしかないわけですから。お客さまとお話している中でも、HaaSやIaaS、PaaSといった言葉の定義が話す方々によって違っていました。

 詰まるところ、お客さまがクラウドに求めるものは、コスト削減、生産性の向上、タイムツーマーケットといったことなんで、あまり言葉には縛られず、お客さまにメリットを提供できるようにサービスを拡充しているところです。

 

“ホワイト”という名称は伊達ではない?

 面白い話をしましょう。

 ソフトバンクテレコムが行うクラウドサービスに「ホワイト」という名称をつけたのは、それなりの覚悟を持ってサービスを行っていくという印なんです。ソフトバンクグループでは、自社のサービスに「ホワイト」という名称をつけるときには、ブランド委員会に諮る必要があるブランド名なんですね。先進性など、いくつかの条件を満たさないと使えません。

 今まで、「ホワイト」というブランド名が付いていたサービスは、音声サービスで、今までのマーケットになかった先進的なサービスだけだったんです。ITインフラ系のサービス名として初めてホワイトクラウドという名称が認められたということは、それだけ先進的で、ユーザーにとって大きなメリットになるサービスを提供していくという、グループの意気込みの表れでもあります。

 われわれとしては「世界のITを解放するクラウド」というのをテーマにしているんです。

 

――こういった考え方ができるというのは、自社内で先行してクラウドサービスを使われていたんですか?

ソフトバンクテレコムのホワイトクラウドが目指す世界
ホワイトクラウドの中で提供している「仮想デスクトップサービス」では、PCだけなく、iPhoneやiPadを使って、クラウドのデスクトップにアクセスできるようになっている

 やはり、ユーザー様に提案していくためには、自分たちが使ってみないと分かりません。そうでないと、クラウドのいい部分、悪い部分が分からないので、ユーザーのためになる新しいサービスも企画できません。

 実は、社内で実際クラウドを使ってみると分かったのは、ベンダーロックインからの解放ということが案外大きい。今までのITシステムは、ハードウェアにしても、ソフトウェアにしても、特定のベンダーに依存したサイロ型のシステムでしたが、クラウドでは、ベンダーフリーのITシステムへと進むことができました。

 もう一つ重要なのは、クラウド上のアプリケーションは、Webをインターフェイスとして利用するため、クライアントも自由度を増してきたことが挙げられるでしょう。今までなら、クラウドを使う上でもPCが必要になっていましたが、iPhone、iPadというソリューションが登場したことで、クライアントも大きく変わってきています。

 また、iPhone、iPadの登場により、モバイル環境でもきちんとネットワーク接続できることで、クラウド上に企業のITシステムがあっても問題ありません。これは、今までのPCを中心としたカルチャーから大きく変革してきた部分です。

 ソフトバンクグループでは、社内システムをプライベートクラウド化して、社員はシンクライアントでアクセスするようになっています。IT業界では、シンクライアントのユーザー事例と考えますが、われわれはワークスタイルの大きな変化だととらえています。

 例えば、最近の電力不足といったことを考えれば、自宅で仕事を行うテレワークが普及すれば、通勤ラッシュも減るし、会社のオフィスで消費する膨大な電力も少なくなると思います。クラウドやモバイル回線を前提としたシンクライアントなら、自宅だけでなく、さまざまな場所に移動しても、高いセキュリティ性を持ったまま仕事が行えます。こういった事例を自分たちで作ってきたからこそ、クラウドのいい部分、悪い部分を熟知しているのです。

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