事例紹介

シンプルな情報共有で「救急医療」が変わる!――横須賀市で実用化された仕組み

ICT街づくり推進事業(2)

救急車と病院で「映像」による情報共有

 「ユビキタス救急医療システム」は、患者の情報を救急隊と病院でどう共有するかという命題に、非常にシンプルな解を導き出したものだ。

ユビキタス救急医療システムの概要図

 従来、情報伝達は電話。断片的な情報のやり取りで、医師による状況把握は困難だった。そこで救急車内に2基のネットワークカメラを設置。患者の映像をそのまま病院に伝達し、医師が目視できるようにした。消防局・救急隊・医師にはタブレット端末を配備。医師が地図上で救急車のアイコン(GPSで位置を測定)をタップすると、車内の様子が見られる仕組みだ。映像は「頭部」「上半身」「下半身」「バイタル」などアングルを自由に切り替えられる。

救急車内にカメラを設置
地図上の救急車アイコンをタップ。映像をバイタルモニターに切り替えた様子

 まさに百聞は一見に如かず。映像から患者の体格や出血状態も分かり、救急車の現在位置から病院への到着時間が予想できるため、受け入れ準備がスムーズに進む。災害時にドクターカーが出動し、現場で救急隊と合流するような場合も地図情報が活躍する。

 この仕組みであれば、救急車内で入力作業が発生しないのもメリットだ。小林氏によると「最初は入力項目も設計していたが、一刻を争う場面で入力はしたくないという救急隊からの意見があった」とのことで、要望に応えた結果、「映像を送る」というシンプルな仕組みに行き着いたという。

救急車のアイコンをタップして映像を閲覧

 実証実験は2013年10月から2014年3月まで実施された。すぐさま効果が認められ、2014年4月には実用化。横須賀市立うわまち病院、横須賀共済病院、横須賀市立市民病院の3病院と、市内の全12救急隊で運用が始まっている。

 効果として、患者の救急車収容から現場出発までの時間が約3割短縮されたほか、現場の評価として、医師からは「映像で患者の意識状態がよく分かる」「救急隊へ的確に指示できる」「2隊を同時に受け入れる際にどちらが重症か予測できる」、救急隊からは「医師が見ているので安心感がある」「薬のパッケージなどは見てもらうのが早い」という声が挙がったという。一方、課題としては「無線がつながりにくい地域での運用」や「どのような症状の時に利用するかといったルール整備」を検討中という。

 現在はシステムの運用に関して医師・救急隊・システム開発者が集まるワーキンググループを定期的に開催し、システムの運用方針や体制について協議中。今後は三浦市、逗子市、鎌倉市、葉山町などにも広げる取り組みが進められている。

 ただ、うまくいかなかった部分もある。このシステムにはもう1つ、病院の空き状況を救急隊が把握する機能も実装されていた。病院に設置したネットワークカメラやセンサーでベッドが使用中かどうかを自動検出し、救急隊のタブレットに伝達するものだ。

 小林氏によると「病院側での運用負荷が大きく、実現にはドラスティックに方法を変える必要がある」ことに加え、「横須賀市ではいわゆる“救急車のたらい回し”が少なく、空き病床を把握する必要性があまり高くなかった」ため、実現は見送られたという。

病院の空き病床を把握する仕組み

(川島 弘之)