事例紹介

「Web会議商談」で受注率もアップ! Sansanとスリーシーズの営業革新術

受注率にも影響した「段階的なアポ取り術」

代表取締役社長/顧客開拓研究家の畑中康彦氏
顧客ごとにアプローチブックを制作する

 スリーシーズは、企業の営業支援を事業とする会社だ。「営業を強化したい」「属人的営業から脱却したい」といった課題に、営業同行や営業ツール制作を軸とした営業コンサルティングを提供している。

 核となるのが、会社それぞれの「サクセスストーリー」を全社で統一し、会社・製品の訴求ポイントやよく聞かれる質問・答えに窮する質問など、まさに商談の場で展開されるシナリオを、最適なトーク(どう伝えるか)にまで落とし込んで、1冊のファイルにまとめる「アプローチブック」の制作だ。「新人にとっての“教科書”、全営業マンにとっての“バイブル”が完成します」(代表取締役社長/顧客開拓研究家の畑中康彦氏)と、SFA製品などを提供するのではなく、実践的な営業支援を特長とする。

 これらはコンサルティング事業として、知り合いからの紹介や、資料ダウンロード、セミナー、メルマガなどからの問い合わせに対応するインバウンド営業で提案していた。

 ところが、2013年に事例とストーリーで自社を伝える動画ツール「ストーリー事例」という商材を開発。単体販売も行うことが決まったことから、アウトバウンド営業が必要となった。

 最初はすべて電話でアポ取りをしていたが、非効率性が課題に。「リストから電話をしてもアポ率は2%ほど。これを高められないか、確度的にも温まったところだけを訪問する術はないかと考えました」(畑中氏)。そこで採用したのが「V-CUBE セールス&サポート」。実はスリーシーズはSansanと取引があり、Sansanが営業にV-CUBEを使っているところを目にしていた。

 「そのため、導入に抵抗感はありませんでした。とにかく営業の無駄といえば“不毛な電話”と“確度の低い営業訪問”。これらを削減できると確信があったので」(畑中氏)。

V-COBE導入前後の営業の流れ。訪問→受注率は20%から30%に。架電リスト作成→受注率は0.4%→1.2%に

 V-CUBEの導入後、目に見えての効果はコンサルタントが見込み顧客を探し出す活動(探客活動)を1/7に削減できたことだ。その理由は「V-CUBEを使い、営業未経験のメンバーでも探客活動ができる仕組みを構築したため」と畑中氏。

 仕組みはまず、電話による探客チームがアポ取りを行う。この場合、従来なら「訪問アポ」を目指すところだが、「オンラインデモのアポ」を獲得することを目標とした。「最初から訪問を目指しても『必要があればこちらからご連絡します』とやんわり断られる。ところが『オンラインデモはいかがですか?』というと、物珍しさも手伝ってかハードルが下がるんです」。

 オンラインデモでは訪問アポを取るべく、未経験者でも若手でも営業ができる20分間の商談の台本を作った。デモに要する5分間を除いた、残り15分間で聞くこと・伝えることを明確にし、トークスクリプトに落とし込んだものだ。

 この結果、「今まで営業を熟知したコンサルタントが自身で精査したリストに電話して、平均約2%だった訪問アポ獲得率が、オンラインデモを経由するようになったところ、営業未経験者が電話して平均約4%と2倍になりました」という。

 しかも、ただの2倍ではない。「2%の時よりも“濃いアポ”が集まっての4%になったのです。オンラインデモを経由しているため、安心感や信頼度、購買意欲が高まっているのでしょう、自然と受注率にもよい影響を及ぼしました」。

 具体的に、訪問にこぎ着けた顧客からの受注率は、これまでの20%から30%に。電話リスト作成から換算すると0.4%から1.2%と3倍にも改善したという。

業種に関係なく実践可能?

 スリーシーズ自身はオンライン営業にほとんど不安はなかったという。「唯一、お客さまのITリテラシーにバラツキがある点だけ不安でした。しかし、V-CUBEの操作は説明することがないほど簡単なので、結局、ITリテラシーの差による影響は感じませんでしたね」(畑中氏)。

 同社は「営業支援」を行う中で、多くの業種の営業を眼にして触れている。そこでオンライン営業は「どんな会社に向いているか」「向かない業種はないか」を聞いてみたところ、「普通にPCを使う業種・職種ならどこも何とか利用できるのでは」との回答。また、向いている業種は「目に見えないものを売る会社」、逆に「目に見えるものを売る会社はものを持って行く必要があるかもしれません」と話す。

 確かに、デザインを伴うようなものを扱う場合、実物をみせる必要があるかもしれない。また、例えば自販機営業のように、“その場所”が重要となる商売も不向きだろうと思っていた。しかし、何もすべてをオンライン営業に置き換える必要はないのだ。オンラインデモをはさむことで訪問アポ率や受注率が増えるのであれば、スリーシーズのように訪問は必須としつつも、最初のコンタクトをオンライン営業に置き換えるメリットはありそうだ。「飛び込み営業は非効率。最初の飛び込みをオンラインにすることで緩衝材となる効果は大きいでしょう」(畑中氏)。

 では、導入コストはどうか。畑中氏は「V-CUBE導入に際しては、KPI(重要業績評価指標)を設定しました。コストをペイするかは『月間7件以上のオンラインデモ実施』が1つの指標です。『V-CUBEの月額費用』÷『(営業にかかる3時間分の人件費+交通費)』=『1人あたりのオンラインデモ7件/月』という計算です」(3時間は往復移動時間と商談時間の合計)と、費用対効果の高さも示してくれた。

V-CUBE導入に際して設定したKPI

 2社を取材してみて、「思っていた以上に顧客は嫌がらない」という印象を覚えた。であるならば、7件/月はそう難しい数字ではないといえる。

 一方で懸念があるとすれば、「ITなので通信環境のトラブルはゼロではない。急に話せなくなったときのリカバリ策を考えておく必要はあります」(畑中氏)ということ。

 また、オンライン営業をいかにプロセス化するかも課題だろうか。Sansanの事例で「軽く見られがち」とあったように、オンラインで手軽に商談ができる反面、「ちゃんとした商談である」ことを認識してもらう方法が必要となる。

 また、訪問しての商談と違ってリアルな空気感は演出できない。営業トークには相手の心を解きほぐす効果もあるはずだが、オンライン営業で「それをやると引かれてしまう」(加藤氏)。そのあたりの方法や営業の意識を変える必要がある。ただ、これに関しては「営業的には成果が出れば文句はありません」というSansanの言葉が真理だろう。

 これらの課題を乗り越えた先には、「時間の有効活用」「こなせるコンタクト数の増加」「未開拓の地方への営業展開」「確度の低い無駄な訪問の抑制」「交通費・出張費の削減」「営業マンの教育」と確かな効果が待っている。さらに「訪問アポ率の向上」「受注率の向上」も期待できるとなれば、「Web会議で遠隔営業」はまさに営業を革新する可能性を秘めているのかもしれない。