事例紹介

「Web会議商談」で受注率もアップ! Sansanとスリーシーズの営業革新術

「Web会議で遠隔営業」はホントに成り立つのか!?

 以前、『Web会議で遠隔商談、「V-CUBE」でゼロからのマーケット創出に成功したシナジーマーケティング』という記事を書いた。Web会議で遠隔地の見込み顧客へ営業活動を行っている事例だ。書きながら、この活用法がどんな企業でも“汎用的に”使えるのだとしたら、営業活動における諸々の課題を解決する“革新”になり得ると感じていた。例えば「地方への営業」「時間の有効活用」「交通費の削減」――。

 一方で、果たして汎用的に使えるだろうかと疑問もあった。営業は企業にとって中核の業務だ。顧客先を訪れ、対面で説明するというスタイルは、それこそ脈々と続く伝統である。そんな活動を根底から覆すようなことが本当に可能だろうか。

 Web会議の画面越しに行う営業は、顧客が嫌がったりしないか。営業マンも戸惑うのではないか。企業の中核業務を変えるには、固定概念が邪魔しないだろうか。訪問に意味がある業種もあるのでは。こうした疑問も浮かんで消えなかったのだ。

 そんな「Web会議で遠隔営業」の可能性を探りたくて、今回、「V-CUBE セールス&サポート」でオンライン営業を行う2社――Sansan株式会社と株式会社スリーシーズを新たに取材してみた。この2社なのは、それぞれ「インバウンド営業」と「アウトバウンド営業」と使い方に違いがあるためだ。上記の疑問を考えると、“飛び込み”に近いアウトバウンド営業の方が、そのハードルは高いのではと感じ、比較してみようと考えた。

 果たして「Web会議で遠隔営業」の効果はあるのか。結論としては「確かにある!」だ。では“汎用性”はどうか。その辺りに着目しながら、両社の活用法、効果について、具体的な数字も交えつつレポートしたい。きっと、営業の“革新”を感じ取っていただけるはずだ。まずはインバウンド営業にV-CUBEを活用するSansanから。

V-CUBE セールス&サポート

突然の「訪問しない営業」宣言

営業部長の加藤容輔氏
新オフィスのオープンスペース。希少種の植物が並ぶ

 Sansanといえば、名刺管理クラウド「Eight(個人向け)」「Sansan(法人向け)」でおなじみの企業だ。TVCMをご覧になったり、実際にサービスを利用している方も多いだろう。サービス開始以来、爆発的な知名度アップを果たし、業績も上々。従業員数の増大に伴い、2014年3月3日には表参道にオフィスを移転したばかりである。

 その一方で、急増する問い合わせに対応しきれないことが課題となっていた。

 同社は、Webサイトなどからの問い合わせに対応するインバウンド営業を主体に、関東圏を中心に見込み顧客を訪問していた。ところが、知名度アップに伴い、引き合いが一挙に全国へ。営業マンは当時5名ほどで「九州などはとてもフォローできず、大阪・名古屋は、たまに出張のタイミングでまとめて訪問するという状況でした」(Sansan営業部長の加藤容輔氏)。

 一人あたりの顧客訪問スケジュールは5件/日ほどにも。これ以上は対応しきれないという状況で、オンライン営業が試みられた。最初に使ったのはSkypeだ。「正式な手段ではなく、あくまで苦肉の策でした。それでも、Skypeで対応した地方の案件がポツポツと成約につながって。オンライン営業の見方が変わった瞬間でした。結果が出るなら、東京もオンライン営業でいけるのでは、うまくいけば商談機会を増やせるのでは、ならば試してみよう、と本格的にオンライン営業の導入を決めました」。

 ただし、Skypeは相手先のPCにもインストールされていなければ利用できず、「Skype、使えますか?」から商談が始まるというのだから、これはまどろっこしい。本格的に使うには、音声品質や画面共有機能も欠かせない。ということで、Webブラウザさえあればすぐに使える「V-CUBE セールス&サポート」を導入した。2012年11月のことだった。

 興味深いのは「訪問しない営業」を高らかに宣言し、11月1日より明確に社内ルール化したことだ。どうしても訪問が必要な場合は、上司の承認を必要とした。社内は騒然。営業スタッフからは「できるわけがない」「お客さまに訪問を求められる」という意見が噴出した。加藤氏も「ちゃんと商談になるのか?」「受注率が下がるのでは?」と内心不安を抱きながら、「半月試してダメなら撤回しよう」と腹をくくっての施策だった。

 ところが、いざ蓋を開けてみると、「不安はどれも杞憂に終わりました」。

1人あたり8件/日の商談も可能に

 顧客には、最初の問い合わせの段階で「オンライン営業」を説明した。拒絶反応はほとんど見られなかった。「どうしても訪問しなければならない大手企業や、他社との同行などの場合は除いて、ほぼオンライン化できています」と加藤氏。

 何より、営業力が一気に加速した。現在営業スタッフは13名。V-CUBEで時間の有効活用が可能となり、「一人あたり8件/日の新規商談もこなせるようになりました」という。また「インバウンド営業は確度のコントロールが難しく、せっかく訪問しても『ちょっと話を聞きたかっただけ』ということも往々にしてあります。オンラインではそうした確度を見極められるのが大きいですね」とも語る。

 顧客にとっても、非対面の気軽さはメリットだ。「ちょっと話が聞きたいだけ」の時に「まだ買うわけではないのだけど」と後ろめたくならずに済む。また「お客さまからの問い合わせのタイミングでデモまでお見せできます。まさに気持ちが一番高まっているときに説明できるため、スピード感のある的確な営業が可能になりました」と加藤氏は語る。

 そのおかげか「訪問しない営業」を宣言した2012年11月に、なんと過去最高受注件数を達成。V-CUBE導入前と比べて商談機会そのものが2倍になったという。

 副次的には、営業の教育にも役立っている。「従来は営業一人ひとりがどんな営業を行っているかは、同行しないと分かりません。オンライン商談だと隣で聞いていられるので、どう営業しているのか、同じ資料でも説明にどう違いがあるのかなどが分かります。良い台詞があれば横展開するなど、営業の改善が手軽になりました」。

 とはいえ、試行錯誤がなかったわけではない。課題は、軽く見られがちなこと。「例えば、Web会議の日程を決めても、手軽に取れるアポだからかリスケされてしまったり。ちゃんとした商談なのだと認識してもらうための工夫が必要だと気づかされました」。

 導き出した答えが「雰囲気」だ。「オンラインだからといって私服で応対しない」「オペレーターではなく営業が応対していると認識してもらう」「そのために最初に地区統括マネージャーの○○ですと、役職も含めてしっかり自己紹介する」といった対策を講じた。また「商談では営業マンの人柄も売り込む、というところがありますが、オンラインでこれをやると引かれます(笑)。説明は淡々と。そういうことも段々と分かるようになりました」という。

 雰囲気作りの延長線として、Web会議のスペースにもこだわり、防音加工された専用の個室スペースを用意した。そうした甲斐あってか、オンライン営業のみで案件がクローズした例や、今まで取り組めなかった地方案件の成約例も出た。「営業的には成果が出れば文句はありません。社内の反発も自然となくなっていきました」。

オンライン営業専用ブース
個室内は壁が防音加工されている

 オンライン営業について最初は不安もあったという同社だが、「オンラインのみで手つかずだった九州からの受注、その実績があったので、諦めずにやれば必ず成果が出ると信じていました。顧客とのコミュニケーション不足になるかもとも思いましたが、オンラインで接したお客さまが上京のついでにオフィスを訪れてくださったり、名産の明太子を贈っていただいたり。そうしたうれしい出来事が、オンラインでも十分コミュニケーションは成り立つと確信させてくれました」と、今では効果をかみしめる。

 今後は、徳島・神山オフィスでの展開も検討する。「(自然あふれる同オフィスは)東京の社員が集中したいときに合宿のように使うことがあります。しかし、営業はなかなか都心を離れるわけにはいきません。それが、オンライン営業では可能になるんですね。実際に中小ベンチャーチームの営業が追い込みで籠もり、オンラインのみで成果も上げています。時間が有効活用できるので、10件/日の商談も不可能ではありませんでした」。

 ――と、上々の成果を挙げている様子のSansanである。次はアウトバウンド営業にV-CUBEを活用するスリーシーズの例。同社は「営業支援」を事業として、顧客の営業を指導・改善するサービスを提供している。そんな同社が自社の営業にオンライン営業を採り入れているのは興味深い。果たして、アウトバウンド営業でも、うまくいくのだろうか――。

(川島 弘之)