トピック

2重3重の対策でリチウムイオン電池の安全性を確保 高負荷サーバー時代のDCを支える電源供給システム

AI(人工知能)など、高い性能を必要とするユースケースが増えたことで大規模な計算資源が必要となり、データセンターの需要が増加している。新規のデータセンターを建設する動きが見られるだけでなく、既存のデータセンターでもサーバー性能の向上を背景に省スペース化を図る動きが顕著だ。一方で、省スペース化の足を引っ張っているのが、UPS(無停電電源装置)と蓄電池。既存の鉛蓄電池から、設置面積あたりの電源容量が大きいリチウムイオン電池に移行しようという動きが見られるものの、安全性などの課題から思うように進んでいないのが現状だ。リチウムイオン電池をグローバルで展開するHuawei Technologies(華為技術有限公司)の日本法人に、国内におけるリチウムイオン電池普及の現状と、同社製品の強みを聞いた。

 現在、企業のITシステムを動かすインフラとして、クラウドサービスの利用が広がっている。また、対話型生成AI(人工知能)のChatGPTが世間の関心を集めるなど、AIを業務で利用する機運が高まっている。こうした動きを受けて、大規模な計算資源を1カ所に集約して効率よく使えるようにするデータセンターの需要が拡大している。

 今起こっている大きな変化は、サーバーの性能が年々向上していること。サーバーの中核となるCPUやGPUなどの半導体チップの性能が上がっている。同時にこれらの省電力化も進んでいるが、トータルで見ると、ラックあたりの電力消費量は以前よりも増えている。AIのように高負荷なサーバーを必要とする需要も一般化しており、実際に電力をより多く消費するようになってきた。

 ラックあたりの消費電力が高まっている社会情勢を受けて、データセンターでは、空調や電源設備といったファシリティへの要求に変化が見られる。特に、停電時でも余裕を持ってシステムをシャットダウンするために必要なUPS(無停電電源装置)と蓄電池(バッテリー)で構成される電源供給システムへの要求が変わった。これまでと同じ設置面積で、サーバーに合わせ、より多くの電力を供給することが望まれている。

バッテリーの性能は鉛よりもリチウムイオン

 消費電力が増えている課題への対処としては、充電を行えるリチウムイオン二次電池を採用した蓄電池が有効だ。こうしたリチウムイオン蓄電池をグローバルで販売しているメーカーに、中国のHuawei Technologies(ファーウェイ)がある。図1は、同社のリチウムイオン電池「SmartLi」の外観と主な特徴だ。

図1:ファーウェイのリチウムイオン電池「SmartLi」の主な特徴

 ファーウェイは、データセンター向けにリチウムイオン電池を開発し、供給してきた。ファーウェイ・ジャパンのデジタルパワー事業本部データセンターファシリティー&クリティカルパワー事業部ソリューション部部長の龍沢宏氏(写真1)は、「ファーウェイのリチウムイオン電池は、1ラックで300kWの電力を10分間供給できます」と、バックアップ性能の高さを説明する。

写真1:ファーウェイ・ジャパン デジタルパワー事業本部データセンターファシリティー&クリティカルパワー事業部ソリューション部部長の龍沢宏氏

 一方、日本国内のデータセンターでは、現在でも鉛蓄電池が主流だ。しかし、鉛蓄電池では、AIなどの高負荷なユースケースで急増したサーバー電力需要に対処することは難しい。リチウムイオン電池の国内での導入は、主に安全性を担保する法律の影響から進んでいないが、時代の流れは確実にリチウムイオン電池に移ってきている(図2)。

図2:データセンターの電源供給システムは様々な課題に直面している

 リチウムイオン電池の最大のメリットは、省スペースなこと。鉛蓄電池と比べると、1ラックあたりの電力供給量は約3倍。同じ電力供給量であれば、設置スペースは1/3で済む。サーバーラックの消費電力が3倍になっても、サーバーラックとバッテリーの設置スペースの比率を変えることなく、鉛蓄電池をリチウムイオン電池に置き換えるだけで対処できることを示している。

 バッテリーの交換や入れ替えも容易だ。鉛蓄電池の場合、バッテリーが1つ故障した場合でも、すべてのバッテリーを同時に入れ替えなければならない。一方、リチウムイオン蓄電池は、故障したバッテリーだけを交換すればよい。また、リチウムイオン電池では、新しいバッテリーと古いバッテリーを混在させて使える。電力需要の変化に合わせて後からバッテリー容量を増やせる。

15年間のトータルコストでリチウムイオンに軍配

 リチウムイオン電池は、運用の負荷も小さい。稼働状況や使用状態を監視するシステムを搭載しており、保守メンテナンス作業の多くを自動化できる。これに対して鉛蓄電池の場合、日々の点検や3カ月ごとの内部抵抗のテスト、半年ごとの深充放電テストなどが人手で行われており、運用の労力が大きい。

 放電可能な回数も多い。鉛蓄電池の放電回数は数百回と少ないのに対して、リチウムイオン電池は鉛蓄電池の10倍の放電が可能だ。寿命も長く、鉛蓄電池の寿命は5年から7年だが、リチウムイオン電池はおよそ2倍の10年から15年ほど利用できる。

 初期導入コストは、鉛蓄電池よりもリチウムイオン電池の方が高いものの、こうした性能差から、15年間使った場合のトータルコストは、鉛蓄電池よりもリチウムイオン電池の方が安くなるという見方ができる。加えて、リチウムイオン電池のコストも、大量生産などの要因から、近年では安くなってきている。

 そのリチウムイオン電池の、最大の問題点が安全性だ。発火による火事や爆発のリスクがある。具体的には、リチウムイオン電池で使う電解液の引火点は摂氏40度程度であり、第4類第2石油類(1気圧において引火点が21度以上70度未満)に該当する。

 このことから火事の原因となる危険物と見なされ、日本では消防法の対象となる。そのため、設置には政府による政令、省庁による省令、各自治体による条例への準拠が必要になる。電力需要に応えるポテンシャルがあるにも関わらず、日本のデータセンターでリチウムイオン電池の導入が進んでいない最大の理由が、ここにある(図3)。

図3:リチウムイオン電池が望まれる電力需要の背景と、日本のデータセンターでリチウムイオン電池の導入が進んでいない理由としての消防法規制の概要

 関東では千葉県の印西市や、関西の京阪奈など導入が進んでいる地域もあるが、全国的に見れば少数であり、リチウムイオン電池の設置が難しいケースが多いのが現状だ。消防法では、規定値(1000リットル)以上に相当するリチウムイオン電池を設置する際には、政令で定める基準に適合した施設が必要になる。1000リットルは、リチウムイオン電池約10ラック(3MWを10分間供給可能な量)に相当する。日本のデータセンターは、これより若干少ない、2MWを10分間という要求スペックが多い。そのため、リチウムイオンファーストで、まずはリチウムイオン電池の導入を検討するが、設置できない場合は諦めるというユーザーが多い。

海外では事故後もリチウムを継続、製品規格を強化

 海外におけるリチウムイオン電池が発火した事故の例では、2022年10月15日に発生したSKグループのデータセンターの件がある。リチウムイオン電池を5ラック設置していたが、火災が発生し、8時間の停電で3万2000台のサーバーに影響を与えた。インターネット大手のサービスが中断されたほか、金融・交通機関にも影響が出た。

 この事件があった後、リチウムイオン電池の導入を見合わせる代わりに、バッテリーを監視する間隔を10分から10秒に短縮するなど、バッテリー製品に要求する規格を強化した。導入・運用面の規格も強化した。例えば、ラックやバッテリーモジュール内に消火装置を設置することを求めているほか、可燃性ガス検知センサーやバッテリーケーブルの温度が分かるサーモカメラの取り付けを義務付けた。

 こうした中でファーウェイは、世界のデータセンター向けにリチウムイオン電池を開発し、供給してきた。2022年のグローバル市場シェアは1位であり、これまでに30万モジュール(合計容量は1200MWh以上)を出荷してきた。日本市場でも販売開始から3年が経過しており、国内売上も年々増えている。

 ファーウェイが開発するリチウムイオン電池の特徴は、発火リスクを避ける工夫に注力していることだと、龍沢氏は説明する。「材料については、比較的安全なリン酸鉄リチウム(LFP)を使っています。熱暴走するまでの耐熱温度が摂氏250度程度と高く、分解反応時にも酸素を出しません。セル間を絶縁するフィルムも、以前は厚さ35umのものを使っていましたが、現在は厚さ50umのものを使って安全性を高めています」(龍沢氏)。

 バッテリーを監視する仕掛けにも工夫を凝らしている。「監視システムは、セルを収めたバッテリーモジュール、バッテリーモジュールを収めるバッテリーキャビネット、ラックシステム全体、の3層それぞれに設けており、過熱、過電圧、過電流などから保護しています」(龍沢氏)。

 「バッテリーモジュールに内蔵したBMU(バッテリー監視ユニット)は、セルの電圧と温度をリアルタイムに検出します。バッテリーキャビネットに搭載したBCU(バッテリー制御ユニット)は、電圧と電流の調整などを司っています。ラックシステムに搭載したSBCU(システムバッテリー制御ユニット)は、BCUとBMUを管理し、外部と通信してアラームやレポートを出力します」(龍沢氏)。

 安全面で特徴的な工夫の1つとして龍沢氏が挙げるのが、個々のバッテリーモジュール内に搭載した消化装置だ(図4)。「バッテリーモジュール内の温度が摂氏190度に達した際に、モジュール内部のセルに向けて消火剤を噴射する仕掛けです。消火剤には、パーフルオロヘキサノンガスを使っています。こうした機構を備えるのはファーウェイ製品だけです」(龍沢氏)。

図4:個々のバッテリーモジュールに消化装置が搭載されている。温度が摂氏190度に達した際に、内部のセルに向けて消火剤を噴射する

 「製造工程においても、異物の混入を減らすために、自動クリーニング、レーダー溶接、カメラによる品質検査、などの対策をとっています。また、自社内に、環境テストや信頼性テストの研究施設があります。他社のテストや認証も取っており、安全上の懸念を払拭しています」(龍沢氏)。

ファーウェイは自社でもデータセンターを運用

 ファーウェイ製品の強みは、安全面だけではない。「後からモジュールの追加で容量を増やせることも強みです。600kWで10分間のバックアップ性能を2段階に分けて導入した場合、最初からすべてのバックアップ性能を確保した場合と比べて、初期投資を32%削減できます」(龍沢氏)。

 ラック内の構成として、標準の19インチラックに16モジュール(8モジュール×2段階、78kWh)または14モジュール(7モジュール×2段階、68kWh)を搭載可能。16モジュール時は、300kWで10分間のバックアップが可能だ。新旧バッテリーの混載もできる。

 ファーウェイ自身が自社のクラウドデータセンターを運営していることも、他のバッテリーメーカーとの違いだ。「自社で製造し、自社で大量に使い、問題があったらフィードバックして改良する。こうした流れができています。製造するだけのメーカーではなく、自らがユーザーだからこそ、よりよい改良ができるのです」(龍沢氏)。

 また、他のメーカーよりも材料を大量に仕入れているため、より安価に製品を作れると龍沢氏は言う。「ファーウェイは、比較的安全性が高いリン酸鉄リチウム(LFP)を使っています。一方で、他のメーカーは、コストを抑えるため、比較的危険な三元系リチウム(NCM)を使っています」(龍沢氏)。

 ファーウェイは、以上のように、データセンター需要の拡大を支える電源設備として、リチウムイオン電池のメリットに着目し、安全性に注力した電源供給システムを提供している。実際に設置できるかどうかについては消防法の影響を受けるが、省スペース性や拡張性などの特性は絶大なメリットだ。これからはリチウムイオンの時代であり、ユーザーは基本的にリチウムイオンファーストの戦略をとることになる。

<お問合せ先>
ファーウェイ・ジャパン
URL:https://digitalpower.huawei.com/jp/data-center-facility/
メール:energyjapan@huawei.com
製品ページ:https://digitalpower.huawei.com/jp/data-center-facility/product_solution/dce_intelligent_power_supply/detail/213.html