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IT担当者のリアルな悩みに寄り添いたい──活況呈するHENNGEのユーザーコミュニティ「chameleon」

HENNGEが運営するユーザーコミュニティ「chameleon(カメレオン)」は、"ひとり情シス"をはじめ日々奮闘するIT担当者に、課題解決や知見共有の場を提供することに主眼を置く。2021年9月にはリニューアルを敢行し、HENNGEからの情報発信にも注力しているところだ。そもそもの狙いや現時点での手応え、先々を見据えた展望とはいかなるものか。運営チームに所属する2人のキーパーソンに話を聞いた。

HENNGEがクラウド型セキュリティサービス「HENNGE One」の導入企業を対象に、ユーザーコミュニティ「chameleon(カメレオン)」を発足させたのは2019年のこと。当時、外資系のメジャーなクラウドベンダーを筆頭に、ユーザー同士が人脈を形成したり、巧みな使い方について情報交換したりするコミュニティの運営が活況になり始めていた。そんな動きを見るにつけ、大いに刺激を受けたという。「HENNGE Oneでもユーザー同士のつながりの場を作れないかと考えるのは自然な流れでした。国内のSaaSベンダーとして先陣を切りたいとの想いもありましたね」と話すのは安江詠星氏(Customer Success Division,Engagement Lead Section)だ。

HENNGE
Customer Success Division
Engagement Lead Section
安江詠星氏

スタート当初、chameleonの運営にはチャットツールの「Slack」を使った。HENNGE Oneの利活用について、ある参加者が課題に感じていることを書き込むと、別の参加者が経験談に基づいたアドバイスを書き込むといった流れが中心である。もっとも、盛り上がりには波があったという。2020年春、新型コロナウイルス感染症が最初に猛威を奮ったタイミングでは、リモートワークの始め方や運用について活発な情報交換がなされたが、話題が一巡してしまうと反応が鈍くなる。間をおいて、たまたま皆が興味を持ちそうな内容の書き込みがあると一時的に盛り上がるも、また沈静化してしまうことの繰り返しだった。

コンスタントに親しまれ持続性のある場へと成長させるにはどうすべきか──。ユーザー同士の自発的で活発なコミュニケーションは一つの理想形とはいえ、一足飛びにその域に到達するのは難しく、徐々に盛り上げていく工夫が欠かせない。意見交換のフックにしてもらうためのHENNGE側からの話題提供、直感的で利用しやすいQ&Aコーナーの展開、その時々のトピックでのアンケート実施といった様々なアイデアが出てきた。閲覧数など、投稿ごとの"興味関心"を見える化することも必要だ。「小さくクイックに始めるのにSlackはぴったりだったのですが、中長期的に展望するとコミュニティ運営に特化したプラットフォームが必要だと思うようになりました。そこで『commmune(コミューン)』を採用することを決断し、2021年9月にchameleonをリニューアルするに至りました」と安江氏は振り返る。

刷新から1年以上が経過し、2022年12月現在の参加者は約490社を数える。HENNGE Oneユーザー約2000社のうち、4社に1社近くという状況だ。「色々な試みができるようになり手応えを感じていますが、ユーザーから価値のある場所だと心から思ってもらうには、まだまだやるべきことがあります。今は4~5合目あたりで、さらなる高みを目指して一歩ずつ登っていかなければなりません」(安江氏)。ちなみにchameleonでは、社名や個人名を伏せて匿名(ニックネーム)で投稿する方針を発足当初から貫いている。HENNGE Oneはセキュリティ製品であり、どのように運用しているかを会社名と共に明記することに少なからず抵抗があるはず、という配慮からだ。

似た境遇にあるIT担当者同士がつながる場を提供したい

HENNGE Oneを管理する情報システム部門は、比較的少ない人数で業務をこなしていることが一般的であり、中には、いわゆる"ひとり情シス"として極めて多忙な日々を送っている担当者も少なくない。chameleonは、似たような境遇にある人々が、壁に直面した時に気軽に相談できる場所、自分に経験知があれば他に助け舟を出せる場所、つまりは仲間としての一体感を醸成する場として機能することに大きな価値がある。

そんなchameleonを運営しているチームは現在6人。最初のころは、顧客に継続的に関わりながら成功へと引き上げるカスタマーサクセスの担当者内だけで運営していたが、リニューアル後は、製品の改善や新規機能の開発提案などを担うプロダクトマーケティング担当や、営業担当も参加している。「実務を担う方々が本当に何に困っているかを知ることは、私どもが次に何をすべきかというテーマに大きな示唆を与えてくれます」と話すのは宮澤織江氏(Product Planning & Research Division,Product Marketing Management Section)だ。

HENNGE
Product Planning & Research Division
Product Marketing Management Section
宮澤織江氏

その文脈において、chameleonでの投稿はHENNGE Oneのことに限らず、IT業界のトレンドやSaaSに関わる広く一般的な話題を歓迎している。「何よりも、HENNGEが会社のミッションとしても製品の理念としても掲げている『テクノロジーの解放』をユーザーの皆様がそれぞれの環境で実現できるようにサポートしていきたいと考えています。そのためには、皆様が情報収集をしたり、他の方に相談をできたりすることが大切だと思いますが、IT担当者にとってのちょっとした疑問や悩みを解決できる場所って、ありそうでないんですよ」と語る安江氏はこう続ける。「ネット上のQ&A共有サイトではズバリの回答が得にくかったり、そもそも敷居が高く感じたりします。一方で、業者さんに聞いてみるとなると、どうしても商談ありきの話になって身構えてしまうなど相談するのに二の足を踏んでしまいます。その点、仲間うちに声がけする気軽さで相談できるのがchameleonのメリットです」。

ここ最近では「これからの社内PC環境をどうするかで悩んでいる。Windowsと比べてMacはどうなのだろうか」や「社外とのやりとりにチャットツールを使いたいという要望に対応するかどうか」などのトピックが大いに盛り上がったという。「たくさんの参加者が、自社の状況や設定の具体例、運用上のTIPSなどを投稿してくれました。それだけ関心が高いということであり、私どもとしても多くの気付きがありました」(宮澤氏)。そのほか、社内ポータルサイトの作り方、マルウェア「Emotet」についてなど、注目される書き込みが次々とアップされている。

利用者からの投稿の例

刷新の目的の1つはHENNGE発のコンテンツ強化

chameleonの中が常に何らかの話題で盛り上がるように、別の側面では、参加者が頻繁にchameleonにアクセスする習慣をつけていただけるように、HENNGEからも積極的に情報を発信するようにしている。HENNGE Oneの活用法やアップデート情報もあれば、クラウドストレージの仕組みや最新マルウェア事情といった知識欲に応えるコンテンツ、独自アンケートの結果など市場動向を把握するためのコンテンツ…内容は多彩だ。HENNGEから発信したコンテンツは2022年12月現在で90本にも達している。

「基本は全部内製で、タイトルや本文から、図版、トップ画像に至るまで、自分たちで作っています。分量としては、1本あたり5分程度で読めるように努めています」と安江氏。先の運営チーム以外に製品担当や営業担当が執筆に関わることもあるという。先々のコンテンツをどうするか、ほぼ毎週のように会議で検討する。「ネタ出し段階のものが圧倒的に多いのですが、採用を決定したものについては公開予定表に組み入れて進行を管理しますし、公開後もアクセス数などの評価指標を書き入れて、企画の試行錯誤を繰り返しています」(宮澤氏)。まるでWebメディアの編集部のようだ。

地道な努力によって創られたコンテンツは、一人、あるいは少人数で孤軍奮闘しているIT担当者に、新たな知識をもたらしたり、ほっと一息の時間をもたらしたりするのに役立っている。また、chameleonからの発信だけにとどまらず、ユーザーからの製品に対するフィードバックを直接受け取り、開発に反映するというサイクルも作っていきたいと考えている。ユーザー同士のコミュニケーションのみならず、ユーザーとベンダーとの間でも双方向でコミュニケーションを図りたい──。その姿勢は、新しいchameleonになって、より鮮明になっている。

独創的なアイデアでユーザーとの距離を縮めたい

ユーザーとつながって常に新しい風を送り続けたいというHENNGEの想いは、オンラインのコミュニティ活動だけでなく、リアルな場での企画にも通底している。それは、しばしばユニークな形で実を結ぶので、市場で話題を撒くこともしきりだ。典型例の一つに「SaaS弁当」がある。サーバー(鯖)、PPAP(パイナップル、アップル)、コンフィグ(コンフィ)といった、IT用語にちなんだおかずを詰め込んだ弁当を創作。キャンペーンに申し込んだユーザーの元に、その弁当を持参して挨拶に赴くという試みは、SNSなどでも拡散されて世間から注目を浴びた。

SaaS弁当に関する記事

さらに直近では、2022年10月中旬に完成したオリジナルの「情シスすごろく」が耳目を集めている。トラブルや無理難題など、情シスにとっての"あるある"を随所に取り入れたボードゲームだ。あるマス目には「社内監査でパスワードを紙に書いて貼り付けている従業員が10%もいることが発覚した」とある。ここに止まったプレーヤーが「ソリューションカード」のうち「IdP (Identify Provider)」を持っていればトラブルを回避できるが、無ければ自力で対応する必要があるため体力やメンタルの値が削られる。

そうした展開の中で体力が漸減していても、ユーザーコミュニティ「chameleon」のマス目に止まれば、プレーヤー同士で助け合えるという趣向が凝らされている。助けられた人はトラブルを回避できるし、助けた人はポイントがもらえるのだ。「IT担当者の悲哀を前面に出すのではなく、助け合いによってハッピーエンドへとつながるコミュニティの要素が入っているのがこのゲームの肝でもありますし、私どもが伝えたいメッセージとも重なります」(安江氏)。今後、各地で情シスすごろくの体験会を実施する計画で、chameleonの認知度向上の場としても役立てたい考えだ。

前述の「まだ4~5合目」の言葉にもあるように、今のchameleonは決して完成形ではなく、様々な試行を積みながら磨きをかけていく。環境に合わせて体色を自在に変化させる爬虫類に着想を得て命名されたコミュニティは、ユーザー企業それぞれの"時流に即した変革"に資してこそ意義がある。IT担当の一人ひとりに寄り添う心、仲間意識の中にも互いをリスペクトする心、スパイスとしての多少の遊び心。それらが凝縮されるchameleonは、これからがさらなる成長期であり、内に込められる創意工夫にこれまで以上に期待と注目が集まることだろう。